パットン将軍
瀬島は、ブラックアメリカ政府の骨格となる組織作りを行っていた。といってもアメリカ合衆国の組織を大きく変えるつもりは無かった。問題があったのは政策に人種差別が入っていたことだけでそれ以外は誰も反対していなかったのだから。
予想外に多くの白人がブラックアメリカに帰順したおかげで、当初心配したよりは、人材不足に悩まされる心配はなさそうだった。それはつまり、意外と白人が自分の故郷として南部州に根付いているという証左でもあったのだ。有色人種に対し嫌悪感があっても、それが故郷を離れる選択肢にはならなかったのである。
ブラックアメリカ傘下の各州の行政庁の要職は、当面メキシコ系か黒人かをつけ、白人の経験者をサポートにつけるという形で収めていった。
とはいえ過激な行動に走る白人や黒人はたくさんいる。そのため、警察権に関しては、行政府には委ねず、軍に治安維持を任せる体制にしていた。
内政に関しては、幕府から特に指示は無かった。幕府はブラックアメリカを都合がいいから利用しただけで、その将来にまで責任を持っている意識など初めから持っていない。とすれば、日本側からのいろいろなサポートの打ち切り期限をスケジュール化し、それをブラックアメリカとメキシコ側に了解させるのが自分の仕事となるはずと、瀬島自身は考えていた。
アトランタの五井物産駐在事務所では、ブラックアメリカ日本大使館の設営などをいつの間にか任されているようだった。そんな慌ただしい雰囲気の事務所に久しぶりに顔を出すと、所長にすぐにつかまった。
「瀬島さん。指示が来てますよ」
「あれ、私はやることは全部やりましたよ。もう仕事は無いと思っていたんですけど」
「うちの社だったら、それで通ると思うんだけど、どうも瀬島君の場合はそれが通用しないみたいだね。ご愁傷様」
そんな言葉と一緒に一通の封書を受け取る。
電報ではなく、出張者が運んだものらしく、幕府の公式封緘によって密封された封筒の形になっていた。
この時代、商社マンと言えどそう簡単に海外を自由に移動はできない。誰がこれを日本から運んだのか、瀬島にはすぐ分かった。
新任の五井物産北米支配人がついこの間、ニューヨークに着任したばかりだったからである。
ブラックアメリカの物資が必要なアメリカはウォレス大統領がすぐにブラックアメリカが申し入れた通りブラックアメリカと日本の両国と通商条約を結び、比較的短時間のうちにアメリカとブラックアメリカの間の行き来はできるようになっていた。ただ、以前と違って新たに国境となった州境に検問所が設けられたのだが。
いくら民間の会社が使い易いからって、支配人をパシリ扱いか……。殿下も相当だな。
公式かプライベートか見分けをつきにくくするためなのか、表には自分の名前があるほかは、朱の字で親展と記されているだけである。中身が給与明細だったら気が楽だな、と瀬島は頭の片隅で冗談を言っていた。もちろんそんなものであるわけがない。
そもそも日本の政府機関の一つが出す封書が、五井物産の社内便として扱われていること自体本当ならあってはならない状況なのだ。
秘書にこちらから呼ぶまで入るなと申しつけ、自室に入るとドアに鍵をかけた。
そして机に座ると袖机からハサミを取りだし封を切る。
薄っぺらい一葉だけの中身である。
そこに書かれていた文字を読み進めるにつれ、瀬島は胸が熱くなるのを感じた。
なるほど……、容赦ないな……。部下が有能と分かると徹底的に使うところなんか、いよいよ織田信長みたいになってきたな、殿下は……。でも嫌いじゃ無いよ。そういうの。
瀬島は灰皿の上にたった今読んだばかりの紙を四つに畳んで置き、マッチで火をつけた。炎が大きくなったところで、さらに封筒をその上に載せる。
炎が消え、紙がすべて白い灰になったことを確認した。
部屋の外に控えている秘書を招き入れ、今日のスケジュールの確認をした後、今や臨時大統領となった、キングとの面談のアポイントメントを大至急取ること、そして駐ブラックアメリカメキシコ軍司令官を早急に呼ぶように命じた。
「瀬島さん。キンバリー司令官なら、もうすぐここへ来ます」
「へぇ、それは都合がいいけど、向こうからやってくるなんて珍しい」
「それが、至急の人の問題とモノの問題と二件お話しをしたいことがあると伺っています」
「分かった。来るのは何時?」
「十時です」
「分かった。じゃあ、来たらここに通してくれ」
三十分ほどした後、いかにもメキシコ男というひげだらけのキンバリー司令官と連れの初老の白人が瀬島の部屋に通された。握手で挨拶を済ませ、とりあえずソファーを勧める。
「こちらは?」
同行者がいるとは聞いていなかったので、瀬島はまずその説明をキンバリーに求めた。が、その顔にはどこかで見覚えがあるような気がした。が、思い出せない。
「我が国メキシコに攻め込んだ哀れなアメリカ人ですよ」
ひげの間から白い歯をのぞかせ、陽気な顔でキンバリーが答える。
「あ、パットン将軍……ですか……」
記憶の糸が繋がった。新聞に時折り顔写真が出ていた。
「これはこれは、お目にかかれて光栄です。投降して頂き無駄な犠牲を出すことなく、戦闘を終わらせられて大変助かりました」
「確かに私はジョージパットンだが……何故私はここで君と会うことになったのか、私自身よくわからないのだが……」
いかにも癇癪持ちそうなパットンが不機嫌そうな声音でぼそりとつぶやく。
瀬島がキンバリーを見ると肩をすくめたようなポーズを取った後、理由を語り出した。
「メキシコシティの方から、こいつの扱いに関してはあんたに任せろ、って指示が来たんでさぁ」
瀬島は内心舌打ちしていた。話の中身はよくわかったが、このキンバリー司令官の行動があまりにも迂闊なものだったからだ。
ブラックアメリカの大統領府の中で瀬島と会うのならともかく、五井物産の駐在員事務所に押しかけてくるなどというのは言語道断だった。下手をすれば、五井物産の連絡網の秘密が諸外国に漏れかねない。
瀬島は内心のしかめっ面を見事に笑顔で隠した。
「ああ、そういうことですか。実は今度我が社の軍関係のビジネスを拡充したいので、こちらの軍の装備関係に詳しそうな、適当な良い人がいたらコンサルタントとしてお迎えしたいとお願いしていましたから、きっとそのつながりですね」
キンバリー、パットンそれぞれが怪訝そうな表情を浮かべた。
彼等は、どちらかと言えば、投降してきた捕虜の処遇を決める権限者の元へ訪れたつもりだったのだ。
が、この回答では、少なくとも瀬島にそういう権限があるのかどうかは全く分からない。ただ、少なくとも処遇について話をしている、という点に関しては、的外れでは無かった。
「商社のコンサルタントですか。それって、軍人より稼げそうな感じですな。いや、これは羨ましい」
「……」
「じゃあ、後の細かい契約についてこちらから後ほど説明させてもらって、その後、パットンさんのご返事を伺うということでよろしいですか」
「ああ、かまわん。好きにしてくれ」
パットンは興味が無さそうにぶっきらぼうな返事をするだけだった。
瀬島はパットンの返事を確認すると、秘書を呼び、パットンを別室へと案内させた。そしてパットンを丁寧にもてなすように、と一言付け加えていた。
秘書とパットンが部屋から退出し、二人だけになったところで、瀬島は続けた。
「キンバリーさん。今後のこともあるので、私としてはこういう話はブラックアメリカ大統領府を通して頂けますか。私が何かを決められると誤解されるのも困ります」
「ああ、まずかったんですか。いや、こっちの事務所にいることが多いって向こうで聞いてたんで、急いだ方がいいかなと思っていましたんで。以後は大統領府にもって行くことにします」
キンバリーはメキシコシティからの指令によって、ブラックアメリカ領内に入ったメキシコ軍人である。従って、メキシコシティから以後指揮下に入るようにと言われ、ブラックアメリカ軍としてふるまってはいるが、正直なところ、メキシコシティが名指ししてあったのは瀬島しかいなかったのである。
そしてさらに大統領府の本来の官僚とはまだ馴染めていなかったのだ。
確かに言われてみれば、日本の民間商社の商社員の指揮下に軍司令官が入るのはとんでもなくおかしいのだが、実際問題として、瀬島に話をすると全部うまくいくことは確かだったのだ。
最初は日本の青二才が、とかなりバカにしていたものだったが、難題をいくつも簡単に解決していく様を見せつけられるうちに、すっかり瀬島になついてしまっていた。
「それでもう一つの案件というのは?」
「これは、西部方面軍の司令部からの連絡なんですか、カリフォルニアで飛行機の工場を一つ接収したそうです。軍用機の専用工場らしいんで、接収したものの、どういう扱いにすればいいか、という相談です。これがその工場の概略図、接収した飛行機の写真です」
「なるほど、見たことがない小型機、いや戦闘機ですな。何にしても専門家が検分しないとダメでしょうね。わかりました。すぐ対応するように調整します。そちらの用件はこれで終わりですか?」
「はっ、以上であります」
「では、こちらからも一つお願いがあります」
「なんでしょう?」
「ブラックアメリカ軍とメキシコ軍の連合軍という形でヨーロッパに陸軍部隊を派遣します。そのため、早急にそちらの部隊の中から欧州派遣の人員を選別してください」
「これは? 大統領命令ということで?」
「そうなると思います」
「しかし、アメリカに対する備えが手薄になりますが」
「それは大丈夫。保証します。もしアメリカがブラックアメリカに手を出したら、それこそアメリカは終わる。アメリカはいつナチスの友人になったのだってね」
「はあ、まあ、そういうことなら。それで戦力的にはどの程度を?」
「戦車師団を全部」
「歩兵や砲兵は?」
「それこそ現地調達が可能なので必要ありません」
「航空戦力の方は?」
「それはブラックアメリカの担当ではないので必要ありません」
「メキシコ以外の他国との連携なんですね」
「まあ、そういうことです」
「いつまでに?」
「一ヶ月後には出発可能な状態にしてください。その頃には、指揮官についての話も私の後任から説明できると思います」
「へっ? 瀬島さん、どっかに異動ですか?」
「ええ、たった今、その指示を受け取ったばかりです」
「日本にお戻りになるんで?」
「いや、少し日本には近づくんですけどね、帰らしてはもらえませんでしたよ」
「そいつはお気の毒です。どうか身体に気をつけて……。あなたには大変お世話になりました」
瀬島はキンバリー司令官に離任の挨拶を告げて送り出した後、別室に待たせていたパットンの元へと赴いた。
パットンは応接間の一人掛けソファーで、出されたコーヒーにも手を付けず、入室した瀬島を半ば睨み付けるかのような鋭い視線を向けた。
瀬島はパットンがかなり自分を警戒していると悟った。
「大変お待たせして申し訳ありません、パットン将軍」
「待て、わしは、そもそも、日本の商社に就職するつもりなぞ、これっぽっちもないぞ」
「ああ、先ほどのお話はお忘れください。こちらも咄嗟のことでデマカセを申しました。まさか、キンバリー司令官があなたをここにお連れするなどとは思わなかったもので」
「? いったい、君は何者なんだ?」
「そうですね、私のことを説明したいところですが、そのお話をするに当たって、申し訳ありませんが、閣下のご意向を先にお聞かせください。今回、閣下がブラックアメリカ軍に投降されたのはどうしてですか?」
「簡単なことだ。わしの敵はメキシコ軍だけだ。ブラックアメリカ軍など知らん。友軍かもしれない相手とは戦争などできん。部下もブラックアメリカに参加した州の出身者ばかりだからな。そんな兵にブラックアメリカを討てと言えるか? ……それにキング大統領の言い分は説得力があったよ。黒人の人種差別のことを持ち出されては反論が難しい……。それより何故、メキシコ軍の将軍がブラックアメリカ軍を率い、そしてそれが日本の商社に出入りしている? その事情をさっさと話してもらいたいのだがな」
「わかりました。将軍の賢明なるご判断に敬意を表し、すべてお話ししましょう」
瀬島は自分の身分を明かし、日米関係が悪化し、日本側がアメリカからの挑発を受け続けていることから始まった、メキシコとブラックアメリカ支援の話をした。
パットンは、ルーズベルトがことある毎に日本批判をしていたことはよく承知していた。が、まさか日本側がそこまでアメリカを深刻に捉えているとは思わなかった。
「では、あの戦車は日本で作られたものだったのか……」
「そういえば将軍は戦車戦のエキスパートということでしたね。お目に留まり光栄です。あれは日本では五式戦車という名前で呼ばれています。もっとも軍関係者以外誰も知りませんけど」
「まさか日本にあれほどの戦車が作れるとは……」
「意外ですか。まあ、そうでしょう。満州でソ連軍といざこざがあった時に手に入れたソ連軍戦車をお手本に開発したものです。残念ながらオリジナルのソ連軍戦車ほどの性能はありませんけどね」
「ソ連軍? では、あの戦車もクリスティ式を採用しているのか?」
「さすがは閣下、そこまでご存じですか。確かにクリスティ式です」
「当たり前だ。クリスティはアメリカ人の発明家だ。ソ連が採用してアメリカが採用しなかったのは痛恨としか言えんが……」
クリスティ式というのは戦車の履帯を支える車輪のサスペンションと動力機構の一つの形式である。アメリカの発明家クリスティによって考案されたのでクリスティ式と呼ばれる。ただアメリカ軍への売り込みには失敗し、実際にそれを大々的に採用していたのはソ連、フィンランドぐらいで、イギリスとフランスが一部の機種に試験的に採用した程度のものだった。
クリスティ式は戦車の高速化を図る目的で開発されたもので、その中身は二つの技術からなる。
一つは、ミッションからの出力軸につながった動輪と他の履帯を支える転輪をチェーンでつなぐことで、仮に履帯が切れても転輪がすべて動輪として駆動し、移動を可能にするというものである。また履帯に掛かる力が一カ所ではなく転輪すべてに分散されるため、履帯が切れにくくなる。さらに出力軸のトルクを沢山の車輪に分散させるため、自動車の四輪駆動同様に、履帯が無い状態でかつ路面抵抗が低い状態であっても走行が妨げられにくいという特徴も持っていた。
クリスティ式の特徴であるもう一つの技術は、その転輪の懸架にコイルバネを使ったことである。従来の戦車の転輪は、板バネ、履帯自体が自身が持っている折れ曲がる時の抵抗をバネと見立てたシーソー型ジョイント、トーションバーなどが使われていたが、いずれもストロークが短くまた、対地圧力の変動幅が大きくなりすぎ、履帯の接地力を安定させられなかったのである。このため高速になると履帯が大きな振れ幅で振動し、これが速度を殺したり、履帯そのものを切ったりしたのだった。
コイルバネでサスペンションに大きなストロークを持たせたクリスティ式は、履帯の上下動を安定させ接地力を高めたのである。
結果、履帯そのものの重量が大きくなっても対応できるようになったので、従来よりも幅の広い履帯を使い悪路走破性を高めつつ、それでなお高速走行を可能たらしめたのである。
ノモンハンで日本軍が鹵獲したソ連軍戦車は一応全部クリスティ式ではあったが、型式によって中身が大きく違っていた。最新鋭のT32の方は、コイルバネの機構による幅広な履帯だけが採用され、チェーンドライブは省略されていた。旧式のBT戦車の方は、チェーンドライブの転輪機構も持つオリジナルクリスティ式だった。
日本での分析研究では、最新鋭のT32でチェーンドライブが採用されなかったのは、ソ連の西側の国土事情によるものと推定された。
つまり平坦な土地で速度重視ならチェーンドライブを加えるとその分抵抗が増し不利なのである。最高速度を重視するならコイルバネだけのクリスティ式が有利なのだろうと考えられた。
日本で五式戦車の開発が始まった時、日本他のアジアでは圧倒的に山地が多いことを考慮し、チェーンドライブ機構まで含めた完全なクリスティ式とした。
このため最高速度はT32よりも低下したのだが、登坂力や悪路走行性はT32より優れたものとなった。
平坦地での最高速度は劣っても、急坂や段差越えでは圧倒的に早かったのである。この山岳地形重視の設計を活かし、ロッキー山脈に沿った山岳路を主力侵攻路としたのである。
「それでわざわざアリゾナやニューメキシコから越境したのか。まさかメキシコ、いや日本がそんな山岳地用の戦車を持っていたとはな……」
パットンは、自分が見た戦車が自分たちの良く知っている言わば平野型戦車であると決めつけ、平地にばかり目を囚われていたことに初めて気がついた。その先入観が戦場の選択を誤らせたのだ。
結果、どこかにいるはずの戦車を求めてメキシコ領内深くの平地にまんまとおびき出され、気がつけば全戦力をそこに集めてしまった。空っぽになった内陸部を山岳路から侵攻したメキシコ軍につかれ、すべて瓦解してしまったのである。
つまりは普通の戦車の常識を意識しながら、わざわざその戦車の常識を破るような新型戦車を構想した人間に敗れたのに等しい。
パットンの戦った相手は、あの戦車を見たら、パットンが何を考え、どう行動するのか、その全ての心情を完璧に読み切っていた、ということになるのである。
パットンは初めて自分が誰と戦っていたのか、ということに意識を向けた。
そしてそれが誰であったにせよ、自分が完敗した、と認めざるを得なかった。
パットンの思考がそこまで達し、改めて目の前に立つ日本人を見た。
「まさか君がメキシコ軍を?」
「私は一度もメキシコに行ったことはありません」
「そうか、が、日本はメキシコにあの戦車を売っただけ、とは考えにくいがね。売り渡した以上のことをやったのではないのか? おまけでアメリカ軍の倒し方、を教えたような気がするんだが」
「あなたがそう感じるのならもしかしたらそうなのかも知れませんね。私はこっちでメキシコ軍がやってきたら世話をしてやれ、と命じられていただけですから」
「それはブラックアメリカを作った上で、ということか?」
「はあ、まあ、そうです。そっちが私の仕事でしたから」
「つまりブラックアメリカの独立、第二次米墨戦争は同じ計画の中に入っていたこと、ということか? 君に命令を下した人間は何者なんだ? わしはスキピオアフリカヌスに敗れたハンニバルの気分だぞ」
「なるほど、主力兵器を見事に封じられたからですか……。いい例えですね。確かにあの方はそれが得意のようです。あなたの言われる通りなのかもしれません。気になるのでしたら、ご自分で確認されては如何ですか?」
「どういう意味だ?」
「その方が機会があればあなたに会いたいと言っているのです」
「ほう、わしに会いたい? 面白い。こちらとしても望むところだ」
「では、早速手配を整えましょう。将軍にはすぐ東京行きのお支度をお願いいたします」
「東京?! 分かった……。が、どうやって?」
「シアトルからマニラまでパンナムが飛行艇を飛ばしていますが、マニラから先東京までの移動手段がありません。いろいろ特別仕立てをしていたら時間がかかるので、あれはやめましょう。とりあえずメキシコ北部の小さな建設途上の町と日本の間で定期運航している船がありますので、それを利用するのがもっとも早いでしょう。うまくいけば一週間後には日本です」
パットンはその話を聞いてすぐにピンと来た。
あの戦車を運んだ船に違いない……
戦車の由来が日本からもたらされたものというのは先ほどの説明で分かったものの、どうやって運び込んだのかはまだ謎のままだった。大型輸送船ならアメリカの警戒網に必ず引っかかっていたはずである。が、そんな報告はどこからも無かったのである。
こうして数々の期待を胸にパットンは日本行きを決意したのだった。




