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メキシコシティにて


日本政府から派遣された軍事経済顧問団をメキシコで迎え、彼等に残務を引き継いだ黒木は、赤坂宮からの次の指令に顔をしかめていた。

ようやく日本で家族と一緒に暮らせるかと思っていたのだが、有能な部下に休養を与えるなどという発想は、赤坂宮には無いようだった。

もっとも外交官時代の退屈な仕事も知っていただけに、赤坂宮の配下となり、五井物産の社員と姿で、自由自在にまわりを動かせた希有な仕事の面白さを知った今となっては、それを拒否する気にもなれなかったのだが……。

やれやれ、もう俺は普通の仕事では満足できない身体にされてしまったかもしれん……

などとぼやきながらも、新しい仕事への期待の高ぶりを抑えられなくなる黒木であった。

メキシコでの仕事もそうだったが、赤坂宮の出してくる仕事はとにかくスケールが大きいのである。報酬とか待遇とかに向かう関心がそれだけで消えてしまっていた。

黒木に言わせれば、赤坂宮の黒木の赴任地の選定そのものが、毎回毎回絶妙なのである。

地名を聞いて、意図が読めるということがとにかくない。いったいどういう思考で、そんな地名を思いついたのだろうと、ハテナマークが浮かぶのが当たり前だった。

それでも黒木の方が瀬島よりはまだ扱いは丁寧なのかもしれない。

瀬島ときたら、アメリカをどうこうしろ、と言われ、いざアメリカ行きの心構えをしていたら、実際の赴任先は、まずオーストラリア、その次がイギリス、その次でようやくアメリカとなったわけだが、目的地はアメリカと言っても日本人にはほとんど知られていなかった南部ジョージア州アトランタだったのである。

瀬島が妻帯者かどうかは聞いていないが、もしアメリカと聞いて、ニューヨークやワシントンを考えていたとしたらとんでもないアメリカ違いのはずだった。

そんな一見すれば、僻地みたいなところへ行けなどと言われれば腐って当たり前になるところだが、仕事の中身が凄まじかった。

なんとアメリカの南半分を独立国に仕立て上げるのがその仕事だったのである。

自分よりも十は若い瀬島にそれだけの仕事を任せた赤坂宮も相当だが、それを見事にやり遂げた瀬島も相当だと思った。当初は、瀬島のアメリカ行きは、メキシコに攻め込んだアメリカ軍の後方で何らかの攪乱をやるスパイ活動なのかと思っていたのだ。まさか、メキシコ軍のアメリカ本土突入劇がそういう筋書きになっているとは、思わなかったのである。

瀬島からの通信で、旗やマークの準備を依頼された時に、初めて建国計画の全貌を知らされたのである。いや、依頼内容は理解できたが、その時の心情は、そんなことができるのか、いや、ありえない、という風になっていた。さすがに電報でのやりとりでその心情を伝えることはできなかったが、伝えられなくて良かったとあとで密かに安堵したものである。

が、黒木自身の仕事を振り返っても何から何まで無茶ぶりの連続だった。カマチョ大統領にしても、半分思考停止に陥っていた時間が長かったような気がする。気がつけば米墨戦争が始まり、いつの間にかブラックアメリカが産声を上げ、メキシコの勝利で戦争は終結したのだ。

黒木自身がやったことと言えば、日本から届けられる軍備を引き渡し、部隊編成を監督し、資材を調達させ、そしてほんの少しだけ築城指導的なことをやった程度である。

カマチョ大統領含め、まわりのメキシコ人たちが、黒木を神扱いし始めたので、いや、全ては幕府の将軍の指示でやったことだと言ったら、将軍が神の意味の単語で使われるようになってきて、黒木は神と対話が可能な預言者的なものと誤解がいよいよ深まってしまったのである。

もっとも彼等の心情はよくわかる。地球の裏側にいる人間を電報の指示で思い通りに動かし、その目論見通りに事態を動かしてしまう、などというのはまさに神の領域の技に見えるからだ。

黒木の次の仕事は前回と違い、封書に詳しく認めてあった。

内容は、本来なら国のトップが行うようなものである。本当に自分でいいのか、というのがまず頭に浮かんだが、今回の北米事変全体での瀬島と自分の役回りを考えると、赤坂宮からすれば自分が適任と考えたのが当たり前と思えてくるから不思議である。

ある意味赤坂宮に自分は担がれ、いいように乗せられているだけなのかなぁ、と自問しながら荷造りを始めた。


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