表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/49

アウトバック

西オーストラリア州パース市は、市とはいえ本格的なビルらしいビルが中心部に申し訳程度に建っているだけで、市街地と郊外の境目もはっきりしないほど、やたらと広い空き地が目立つ町だった。西オーストラリア州自体がオーストラリアの中で見ても極端な過疎地域なので、とにかく土地の広さの割に人が少ないのである。

そんな統治には全く向かない土地でも何とか最低限の行政経済機能だけでももたせようと人為的に画策して作った町がパース市なのである。オーストラリアの東海岸よりも水資源に恵まれていないので農業畜産にも不向きで、東海岸や南海岸に比べるとどうしても発展は遅く、北海岸とともにオーストラリア大陸の中での格差が広がっているという状況だったのである。

文化や様式は違うものの、何もない寒村というのがパースの実態に近かった。

それが急激に変わることになった。

港湾が整備され、船が物資を揚げ、あっという間に何もなかった沙漠にビルと工場が建ち並ぶことになった。

同時に各地を結ぶ鉄道が引かれ、各種工事がスタートするごとに新しい住民が増えていった。今まで東のシドニー、メルボルン、アデレードなどとの交易などほとんど無かったのに、新しい商機を求めて東からやってくる商人も徐々に増えつつあった。

日本の投資で始まったこの景気の良さは、当初白豪主義に対し大きな脅威になるのではないかと警戒する向きも多かったのだが、それをあざ笑うかのように、パースに到着した客船から吐き出されてきたのは、大量の日本人ではなく、ロシア人と東部ヨーロッパから逃げてきたユダヤ人だった。もっともロシア人と一口に言っても、肌の色から言えばモンゴロイドも結構混じっているから結構バラバラである。従って黄禍論を煽りはしないものの、明らかに白人の比率は少しずつ下がることになった。

そしてそんなモンゴロイド系ロシア人に紛れるかのように、少ないながらも日本人も入っていたのである。もっとも日本側もオーストラリアの白豪主義に配慮しているようで、パースに派遣される日本人はかなり厳選されていたようだった。

日の丸が掲揚された建物が急激に増えたが、しかしそこにいるのはたいていロシア人という不思議な状況が生まれていた。

パース市から北西に二百キロも移動したところにいつの間にか全く新しい集落が出来ていた。

もちろん日本からの投資でできた町だ。

この町は従来の街道から大きく離れた巨大な鉄鉱床の上に作られた町だったのである。

要するに鉄鉱石が数百ヘクタールに渡り地表に露出しているのである。地形から言えば、平原だ。だから鉱山という呼び方はふさわしくない。とにかく地面を掘れば僅かな表土の下は、そのまま掘り出したものが高炉に入れられるような鉄鉱石なのである。もっとも安く鉱石を手に入れられる露天掘り、それがここの産業だった。

正式な名前ではないが、この町はニューキョートと呼ばれていた。もっともこの町の存在自体、オーストラリアはもちろんパースでさえも知っている人間の方がまだまだ少なかった。もちろん日本でもこの町のことを知っている人間は皆無である。

この赤茶けた大地にポツンとたたずむ寒村のさえない低い鉄筋コンクリート造りのビルの一室で、数人の男達が会議を行っていた。

会議室、というよりは応接室と言った方がいいくらいの狭い部屋で、本来は個人の事務所程度のせいぜいが三人ぐらい執務者がいれば満杯になる程度の部屋だ。

今、三人の白人と二人の日本人が小さな丸テーブルを囲んでいた。

そこで交わされる言葉は英語とロシア語、そして時折り日本語が混じっていた。出身地という意味で言えば、ロシア、日本、イギリスということになる。

「私が日本にいる時、何度か顔を見た顔だと思ったのだが、いつも軍装だったはずなんだが……。私の記憶違いなら申し訳ない。だが、ふつうの民間人が殿下の書状を持って現れるというのも腑に落ちない」

一座の中で一番年かさの、金髪のやや太った白人が目を細め、目の前に現れた二人の日本人の若い方に語りかけていた。

数日前に州政府からの斡旋という形で面会の申し込みを受け、日本の商社マンということで忙しい時間の合間をなんとか見つけ、ようやく面会したのだが、実際に会ってみれば、いきなり書状を差し出されたのである。

そんなものを渡したいなら先に送っておけばいいのに、と訝しく思いながら開いてみると、その書状は並みのビジネスレターでは無かったのである。

中身は彼等に協力して欲しいという簡単なメッセージがあるだけだ。しかし署名者が問題だった。

そこには赤坂宮のサインがあったのだ。

赤坂宮がどういう人間なのか実のところジューコフは詳しく知らない。が、日本の裏側で好きなように軍を動かせるほど強大な権力を持った存在であり、自分たちに事実上の国を本当に与えた恩人という認識は持っていた。

驚きと供に改めてその姿形を再確認していた、という状態だったのである。しかし自分の記憶に止めていた姿とは違い、その男はふつうのスーツ姿である。

「おっしゃる通りです、ジューコフ将軍」

「その肩書きで私を呼ぶのはやめたまえ、今の私はもはや軍人ではない……。すると君もかね? まだそんなに若いのに? それならどうして殿下の手紙など持っている? まさか便衣工作員ということでもあるまい?」

「いろいろと話をさせてもらう前に、まず改めてここにお集まりの皆さん全員の自己紹介をお願いできますか」

「ふん、それにしても君のロシア語はかなり流暢のようだが、こちらの人間と君の相棒には通じていないようだ。ここは英語を使う方が適当ではないかな」

「かしこまりました。では以後は英語を使うことに」

言葉が英語に変わると、それまで無表情を貫いていた白人のうちの一人、そして日本人の表情が動いた。

「では順番に自己紹介をしていくことにいたしましょう。私は五井物産で鉱物資源を担当している瀬島龍三と申します」

左隣に座る日本人がすぐにそれに言葉を続ける。

「私も瀬島同様五井物産にて経営企画を担当している黒木と申します」

「ちょっと待ってくれ。その自己紹介は意味がない。その自己紹介で済ませるなら赤坂宮殿下の手紙など持ってくる必要などないだろ。それこそ表側の政府の紹介状で済む話だと思うのだが?」

「そうですね。まあ、そういう話かもしれませんが、そちらの……」

そう言いながら、瀬島は同席している白人二人に視線を向けた。

「なるほど、彼らが誰かわからないと困るな。まずこちらの男は、私の以前の商売でずっと一緒に過ごした人間だ。私の心から信用している腹心と考えてもらって結構。日本での体験も共有している間柄だ」

「コンスタンチン・ロコソフスキーです。どうぞよろしく」

「そしてそっちは、このパースに我々がやってきてから、我々のためにいろいろと便宜を図ってくれたイギリス人、いやオーストラリア人? どっちかな?」

「ジョン・ホープと申します。一応、そうですね、オーストラリア生まれですからオーストラリア人ということにしておきましょう」

「オーストラリアというと、我々はどうしても白豪主義のことを連想してしまい、我々と一緒に仕事をするのは難しいのではないかと考えてしまうのですが……」

「確かに現在の与党は白豪主義です。ただ大陸東側のアデレード、メルボルン、シドニー、キャンベラ、ブリスベンは酪農などが進んでいて先住民対策、アジア移民対策もあってそれを取る実利がはっきりしているのですが、この西オーストラリアや北オーストラリア準州はそうも言っていられないのですよ。とにかく人がいなさ過ぎるので。国作りをアボリジニ達とだけでやれ、なんて現実には不可能ですから。資本も技術も持っているあなた方を歓迎しないわけにはいきません」

「人種間の文化のギャップが大きすぎるのが人種問題の本質だということですか」

「いきなり学校で教育してやるから来い、という話にはなりませんからね。お互いにそんな信頼関係はどこにもない。どうしたって警戒しなければならないのですよ。それに皆さんには想像できないかもしれませんが、アボリジニは生活環境を上げたい、という欲求自体が欠落しているのです。ま、これはマラヤ人も似ていますけど」

「向上心が無いということですか?」

「いや、それとはちょっと違いますね。今の生活をただ続けたい、という欲求が強すぎて新しいことをしたがらないとでもいいましょうか。とにかく、彼等を工場で働かせるなんてとても思い浮かびません」

「で、ホープさんは何故ジューコフさんと行動を共にすることにしたのですか?」

「ここオーストラリアにはいろいろな立場があります。一つはこの大陸に実際に住んでいる人としての意見、これが白豪主義です。しかし、オーストラリアは、英帝国連邦、つまりコモンウェルスとしてのイギリスの利益もまた重要なのです。我々がここオーストラリアで様々なものを生産していますが、それで生活が成り立つのは宗主国イギリスの市場が開かれているからです。イギリスの国益に沿う、という話なら拒絶する理由はありません。これが私の立場です。そしてついでに申し上げれば、この大陸ではこの西海岸側に対し、連邦政府は非常に無関心です。そういう意味でこちらに目を向けて頂いた日本には感謝しています」

「植民地と宗主国の関係を考えると少々意外な感じのお話ですな」

「植民地の中でもイギリス人の入植が特に多かった場所ですしね」

「確か、初期は罪人の流刑地でしたか」

「そう、それがこちらの人間の大きなコンプレックスになっている。イギリス本国に対する当地の感情は結構複雑です。産業革命のおかげで産業の急拡大と人口爆発が起こり、当時の政府は、軽犯罪者の取り締まりを強化し、片っ端からこの大陸に人を送りこんだ、などという歴史がありますから。それでも総督という女王陛下の名代がいらっしゃる、ということの意味は大きいのです」

「こういうわけで、我々が日本側代表団として当初連邦政府と交渉を始めた時から、ホープ氏にはいろいろとご助言を頂いたというわけで、少なくともイギリスを敵視しないのなら、彼は私の信頼に十分応えてくれるものと判断している」

「なるほど、よくわかりました。それでは改めまして、自己紹介をやり直しましょう。日本国の元幕府付き陸軍参謀の瀬島です」

「では私も。元日本国外交官で直近までアメリカのサンフランシスコ領事をやっていました黒木です」

「元のアメリカ領事? 鉄の商売の話とは違いますな」

「全然関係無くもないのですよ。ご存じの通り、目下我が国はアメリカから鉄の供給を止められていますから」

「もしや殿下はそれを読んでいた? それで私がここに来た、と繋がっている? しかし、私がここに来て、もう二年にもなる。アメリカの鉄が止まったのは三ヶ月ほど前でしたかな。そんなに前に手を打っていた? 相変わらず、信じられませんな、殿下のやることは……」

「保険ということもあったでしょう。ただ殿下は最初から鉄の確保の話になると異常と思えるほど熱心でした。まるで昔どこかで大量の鉄を調達するのに大変苦労したことがおありのように見えたほどです。鉄の生産に大量の燃料がいると最初から知っていたような口ぶりでしたし」

「なるほど、そう聞けば、このパースにこんなに思い入れを持たれていることも頷けますな。中国へのちょっかいをやめたのも殿下が原因ですか?」

「そんなところです。割が合わない、というとちょっと格好つけすぎですな。どうも殿下の頭の中では蒋介石に敗北した、と認めたようです」

「敗北を殿下が認めた? 蒋介石に? それは腑に落ちませんな。確か中国大陸で日本軍は中国軍を圧倒していたはずでは?」

「もし、それが蒋介石の狙い通りだったとしたら?」

「まさか……クゾートフ将軍か……」

ジューコフの漏らした一言に瀬島は表情を緩めた。

「おっしゃる通り、一種の焦土作戦ですよ。蒋介石は、ある意味私の先輩に当たる。若い頃、中国で軍人教育を受けた後、日本に留学しその後日本軍の軍人としての経歴も持ちました。だから日本軍の得意な戦法、戦術はもちろんのこと、日本の軍人の性質、性格というものを非常によく知っているのです。日中戦争の緒戦は、蒋介石は自分が育てた中国軍にそれなりの自信を抱いていたようです。が、彼自身が日本の教育を受けていて、決戦思想に嵌まってしまっていた。で、正面衝突してあえなく敗退。いくら蒋介石が優秀でも、同じ方法で戦ったら、結果は見えています。相手は自分たちの師匠格の日本軍ですから。この結果、主力軍を失った彼は、戦略を一転させたようです。決して決戦に出ず、とにかく日本軍に消耗を強いると。それが焦土作戦というわけです。日本軍に占領される前に町を徹底的に破壊し、住民を追い出し、物資を燃やし尽くした。住民が日本軍側に逃げるのをけしかけたということもあったようです。難民保護には相当物資が必要になりますから。その一方、正義感の強い日本軍から見れば自分たちは住民を救う救世主のような存在と感じられるし、蒋介石軍を討つ大義名分もあるから、将兵の士気は上がり、いよいよ前掛かりにならざるをえない。一方で、占領した土地や都市は増えても中身はすっからかん。何をやるにしても日本は本土の物資を前線に送り続けなければならない。閣下のおっしゃられた通りまさに無敵ナポレオンの率いるフランス軍を相手にほぼ軍を壊滅させられモスクワ防衛戦を強いられることになったクゾートフ将軍に倣ったわけです。そうとも知らずに人がいなくなった都市の廃墟で万歳をする日本軍が紙面を飾った記事は蒋介石からすればおいしい獲物に見えていたでしょう。事態があのまま進んでいれば、日本全体、ありとあらゆる物資が枯渇していたはずです。そんな時にもしアメリカから通商条約を破棄などされたら大量の飢餓民が出ていたでしょう。ですが、幸いなことにそれに殿下がいち早く気がついたと」

「焦土作戦は、その意図を相手に見抜かれたら、全く戦術的には意味がない。マイナスの結果ばかりだからな。だからリスクは大きい。常に勝利を求めるナポレオンのような将軍にはうってつけの罠だと分かっていても。しかし、それを見抜くのは意外と難しい。自分の勝利を誰しも自分で否定したくはないからな。よく殿下はそれを見抜いたものだな」

「全くです。実際に戦場を見たわけでもないのに。なんでも新聞記事にあった補給物資の量の数字が変だから、というのが気がついたきっかけだったとか。常人にはちょっと思いつかない発想です。その記事がきっかけになって派遣軍の司令官は目先にエサをぶら下げられて、まんまと踊らされている、とかなり強く叱責されることになったようです」

「そんな極端な作戦を取った蒋介石も蒋介石だが、殿下もやはり普通じゃ無い。その前線指揮官には少々気の毒なことでしたな」

「まあ、いいんじゃないですか。少なくとも殿下は彼らを切ったりはしなかったのですから。その上で、最終的な勝利というのは勝利を積み重ねればいいというものではない。負け続けても大事なところで勝てばよいのだともおっしゃっていたようです」

「それはまた寛大すぎる態度だな、しかし重職からははずしたのだろう?」

「いえ、実はその指揮官というのは今の陸軍大臣、専任参謀は首相なんですよ」

「とんでもなく意外な話だな。彼等はそんなに殿下のお気に入りだったのか?」

「いえ、殿下なりの打算があったと思います」

「打算? いったいどんな?」

「その後の中国からの軍の撤収が短時間に順調にできたのは、この二人がその後前線を飛び回って、こうなった事情を各部隊に説明して回った、上から下まで誰も責任を取らされて切られるようなことがなかった、今まで通りの指揮系統のままで、命令の中身だけを百八十度変えさせた、これらのことが大きかったようです」

「そうか……。そんなことまで見通せるのか……。我が国、いやソ連の指導者とはかなり違うようだな」

「いや、日本の指導者もだいたいは似たようなものです。殿下が変わりすぎているだけです」

「ふ~む、まあいい。殿下の思い出話はこれぐらいにしよう。で、今回諸君たちがわざわざここまでやってきた用件は何だ?」

「実は我が国は目下メキシコ合衆国との間で緊密な関係を造ろうとさまざまな計画を行っています」

「ふ~ん、メキシコか。あんな国に肩入れして、どんなメリットがあるのかね」

「第一の狙いは石油です。メキシコにはメキシコ湾沿いに、アメリカから続く形で油田地帯が広がっています」

「それは確かに魅力的だが……、何故それを我々に話す?」

「問題は油田のあるメキシコ湾沿いから太平洋岸まで油を運ぶ手段が無いのです。現状ではパナマ運河経由が現実的ですが、その運河はアメリカが抑えています」

「太平洋岸までパイプラインを造るということか? なるほど大量の鉄がいるな」

「その通りですが、それは実は今回お願いした中ではほんの前座の話です。本命の方は、アメリカに一泡吹かせるのに協力して頂きたい、ということなんです」

「面白そうな話だ。聞かせてもらおう」

瀬島の説明は夜更けに至るまで続き、翌朝、日本人二名は来た時と同様、まるで目立つことを避けるかのようにホテルに戻っていった。

三日後、ジューコフは側近を連れてパースの西オーストラリア州知事と会談をしていた。

知事とは言っても、ジューコフの配下のようなものだ。

オーストラリアの人口はこの当時およそ一千万人と見積もられていて、その約一〇パーセント、つまり百万人ぐらいが西オーストラリア州に居住していると推定されていた。が、問題はその広さである。日本本土のおよそ七倍近い面積があった。そこにたった百万人しかいないのである。

民主主義の最大の弱点は、そもそも住民が住んでいるかどうかが分からないと何も決められなくなることである。結局住民として認知されている者たちだけでモノゴトを決めていくしかない。

大半の者が狩猟生活を続け、日々ねぐらを変えるアボリジニ達に住民らしいことを求めること自体、難しかったのである。

西オーストラリア州は元々がそんな状態だった。

そこに新たに製鉄所ー採炭場ー採鉱場の三つの施設とそこで働く技術者を掌握したジューコフが現れたのである。行政がジューコフの手足のように働くようになるまでそう大した時間はかからなかった。

ジューコフの傘下で働く者は、ロシア人が約一万人、そしてオーストラリア中から集まってきた人間がこれもまた一万人程度、そして日本からやってきた技術者が五千人程度、さらに彼等にさまざな物品、サービスを提供する目的でやってきた利害関係者とも言うべきグループが、三万人程度いるものと見積もられていた。全部合わせても六万人を超えることは無いが、人口が極端に分散している中での一カ所に定住している六万人の勢力は強大だ。

しかも彼等が生み出すものは、いまやオーストラリア国内だけでなく本国イギリスにも行き渡っているのである。

パースで生産される粗鋼は、本国イギリス向け、オーストラリア国内向け、日本向けと生産量をずっと増やし続けていたのである。

「また増産のお話しですか?」

「まあそういうことだ。が、今日の話はちょっとスケールが大きい。今うちにいる人員は三万人にも満たないが、これを今年中に五万人、将来的には十万人に増やしたいと思っている」

「え、それはまた……。そんなロシアからはもう人は来ないのでしょう? 日本人を増やすのは政治的にいろいろ差し障りが……」

「今のところのアテは、ソ連、日本経由で避難してきた東欧からの避難民を受け入れるというのと、メキシコ人を入れる、一応スペイン系だから文句はあるまい?」

「そんなに人を増やして粗鋼生産だけでやっていけるので?」

「実はな、事業を拡張しようと思っている。発電所を強化して転炉なんかを用意し、鉄の製品出荷をやろうと思っている。将来的には機械加工に進出しようと考えているんだ」

「それは日本向けの需要があるということで、ですか?」

「いや、そっちはむしろメキシコなんだ。ま、話を持ってきたのは日本の商社だけどな」

「ほう、メキシコに……。分かりました。それなら連邦政府も議会もそれほどうるさくはないでしょう。それにこちらの人口が増えると、東の州の牛肉、穀物の引き取り手が増えるわけですからな。元々こっちは土地はあっても水が無いので農業には向かない。東が農業、西が工業の方が気候から言えば向いていますから。淡水を用意するのが手間と言えば手間ですけどね」

「水か、でもまあ飲用とか農業用というわけじゃないからな。ほとんどは冷却用の工業用水の話だ。再利用もできるしどうにかなるだろ。まあ、それでも住民は増えるわけだし、北の湿地帯から水を運べるように道路整備はお願いしたい」

「わかりました、その程度なら何の問題もありません」

ジューコフは着々と自らの工業都市の能力拡充を進めていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 第二次世界大戦当時のイギリス国王はエリザベス2世ではなく父親のジョージ6世だと思うのですが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ