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追放されたケモ耳美少女と『全身魔法』の巻き込まれ異世界転移者、最強になる

作者: 南 京中

世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう。

「ついにクビ、か」


 冒険者ギルド1階ロビー。

いかつい冒険者たちが昼から酒を酌み交わすその端っこで、オオカミ系獣人のケモ耳がぺたんと垂れた。表情は疲れている。

 その手には薄情な通知書1枚があった。

 解雇通知。

 何度も目を通した解雇事由に改めて目を通す。


このたび当冒険者パーティ ランカスター は貴殿 ロミ をパーティ規則第23条第1項に基づき、解雇いたします。


 このパーティ規則第23条第1項とはこんなルールだ。

「当パーティに属するメンバーはギルドの調和をみだりに乱してはいけない」。

 読んでみてわかるとおりこの曖昧な条項は、疎ましいやつを追い出すために存在する。

 誰にとって?リーダーにとってだ。


「おや?誰かと思えばロミじゃないか」

「イオバート…隊長」


 ランカスターのリーダーであるイオバートはロミが気にらなかった。

 王国最大の冒険者パーティ「ランカスター」ではイオバートを頂点として強固な独裁体制が敷かれていた。イオバートが白といえば黒も白になる。なんせ王国最大の冒険者パーティのトップなのだから。

 だが、ロミが入会してからおかしくなった。ロミの人柄と実力に惹かれるメンバーが現れ始めたのだ。

 それがイオバートは気に入らなかった。


「いや私はすでに君の隊長ではない。まだ冒険者ギルドをほっつき歩いていたのか。ひょっとしてどっかの冒険者ギルドから勧誘されるのを待っているのかい?はっ、お前みたいな組織に不利益をもたらすやつを拾ってくれる奴なんているわけないだろ」

「…なによ」


 ある日のクエスト。ロミはパーティメンバーのイーゼルの救助を優先し、ドラゴンを逃がした。

 冒険者ギルド内では理解の声もあがった。だが、王国も絡んだ莫大な利益のでる仕事だった。

 こういうときには隊長が責任を取るのがセオリーだが、だとするとイオバートの出世は遅れる。

 だから、イオバートはすべての責任をロミに擦り付け、あることないことをでっち上げクビにしたのだった。

 見せしめだし、冒険者たちも内心はおかしいと思っているのだが、イオバートが怖くて口にだせなかった。


「周りを見てみろよ。誰もお前に声を掛けようとしないじゃないか!……ま、俺がそうさせてるんだがな」

「!」


 最後の暴露はロミだけに聞こえるようにささやきだった。ロミが激高して爪をとがらせたが、イオバートが手のひらに魔法を展開したのを見て感情を押さえる。

 ロミの冒険者ランクはD。

 対するイオバートはAだ。

 王国軍大将を除き、ここ王都でイオバート以上の戦力はいない。


「……失礼するわ」

「ふん、やはり獣人は野蛮で困るよ。こんなやつを一瞬でもメンバーにしてしまったのはランカスターの恥だな」

「…あんたが立ち上げたパーティでもないくせに」


 そう捨て台詞を吐き捨ててロミが冒険者ギルドのドアを閉めようとする。


「どこへ行く?まさか家か?はっ!お前の家はもうないぞ。あれはランカスターの所有する物件だからな、中に置いてあったお前の持ち物はパーティの損害を弁償するために差し押さえた」

「なんですって!」


 演説するようにロミに教えたイオバート。その声はギルド上に響き渡る。「流石にひどすぎる」という声が聞こえてきそうな雰囲気だった。


「ふ、ふっざけんじゃないわよ!」


 我慢の限界に達したロミがイオバートに跳びかかる。両手に火魔法を展開して。

 ギルドの壁が吹き飛んだ。ロミはいとも簡単に反撃され、壁に激突しそのまま突き破ったのだ。

 ロミはそのまま風に飛ばされた紙屑のように宙を飛び、ゴロゴロと地面を転がる。

 ロミは知っていた。自分がクビになったのはイオバートの愛人になるのを断ったからだということを。

 ロミの記憶はそこで途切れた。



―――――――


「強く、強くなりたいな」


 あの後。親切なやじ馬によって路地裏に寝かされていたロミは、目が覚めるとすぐに王都の門へと急いだ。

 泣いている暇はなかった。

 今すぐにでも王都を出なければならない。というより出ざるを得ない。

 もうここに私の居場所はない。


 両親も早くに死に孤独だったロミが身を立てるには冒険者しかなかった。先祖代々の土地も有力者とのコネもなかったからだ。

 ピラミッドの最下層からのスタートとはいえ、王国最大の冒険者パーティであるランカスターから勧誘を受けた時はうれしかった。


「なのに、こんな……」


 トップの機嫌を損ねたからクビなんて。

 反抗しようにも、相手は王国トップの冒険者だ。1人じゃぜったいに勝てない。

 強く、強くならないと。

 ポケットに手を入れると、何か紙切れがあった。

 冒険者カードだった。受付に返し忘れたらしい。

 ロミはそれを後ろに投げ捨て、


「でも、これからどうしよう……」


 背後で王都の門が閉まる音が聞こえた。



 無職になってもこれからの行く末がわからなくなっても腹は減る。

 あれから数日。

 ロミは森をさまよっていた。

正確には、その日ぐらしをしていた。

 Dランク冒険者ならば弱いモンスターや動物ならば倒せる。ある程度魔法も扱えるので、土魔法を駆使して簡単な寝床なら作れる。

 好きな時間に起きて、木の実や植物を採集。たまに動物を倒して、焚火を眺めながら就寝。


「この気楽さ、くせになるわね」


 何日目かの夜。果物のヘタをつまみながら、ロミが呟いた。

 強くなりたいんだからひたすら特訓をした方がいい。

 だがランカスターで冒険者をしていた頃は寝る時間などなかった。実績を上げた人間から出世していくため、みんな目をぎらつかせてクエストボードを睨んでいる。さらにモンスターは昼夜問わず現れるため、ギルドの床で寝る冒険者など全然いる。

 ロミもその勢いにまきこまれて数か月はそんな暮らしをしていた。だがこのままでは潰れると察し、半ば強引に休養を取ったのだ。

 すると自分と同じように、潰れそうな冒険者が目に付くようになった。そんな人たちに声をかけ、話を聞いたり、クエストを手伝ったり、新人のメンタルケアをしたり……。


「あれ?私、働きすぎ?」


 クエスト報酬だけが収入源の冒険者稼業で、なぜ私はこんなただ働きをしていたのだろう。


「でも、みんなが元気になって笑顔になったのを見ると、私も嬉しかったな」


 そう考えると少し目がウルウルしてきた。

 その時。

 王都の方角に稲妻が落ちた。


「きゃあ!びっくりしたあ」


 逆立つ毛並みを押さえ獣人の脚力で木に飛び乗る。

夜空には星がまたたき、風もなかった。

 遠くに見える王都のはずれ、王城のてっぺんがぎらぎらと光っていた。


「そうか……今日は勇者召喚の日。あの膨大な魔力、きっと成功したんだ」


 イオバートが出世を急いだ理由がこれである。この世界を二分するノープル王国とベイジング帝国は長らく戦争をしていた。

 その戦争に終止符を打つべく、王国は神話の時代の勇者召喚の儀に頼ったのだ。

 異世界より勇者を召喚し、「悪者」の国であるベイジング帝国を滅ぼしてもらう。


「成功したなら、イオバート今頃気が気じゃないでしょうね」


 涙は乾いていた。




――――――


「ねえ。ねえ!大丈夫?」


 今日も今日とて食料を探しに森を歩いていたロミだった。

 勇者が王都に召喚されようと私にはもう関係ない。このまましばらくスローライフを続けよう。

でもその後どうやって暮らしていこう。そんなお気楽不安が頭を覆っている時だった。

 獣道の真ん中で誰かが大の字で寝ている。

 近づいてみるとこの世界では珍しい黒髪黒目。ロミと同じ年くらいの少年で可愛い寝顔をしていた。

 なぜかは分からないが、ロミは起こさないといけない気がして、声をかけた。


「んっ、ああ、おはよ……って、誰だお前?」


 男子の割に長いまつげを揺らしながら、少年が目を覚ます。その第一声は非常に失礼だった。


「むぅ、なら誰ならよかったのよ。私は元冒険者のロミ。あなたどうしてこんな森のど真ん中で寝てるの?」

「冒険者?森?……ってうぉい!なんだその耳!?」


 あたりをいぶかしげに見まわした少年はロミの頭に生えたケモ耳に釘付けになった。

 本物か?確かにピコピコ動いている。

 触ってみるとフニフニしていて触り心地がいい。


「ひゃあ!いきなり何すん……あ、なんかゴミついてたの、ありがと…で、あなた何て名前?」

「俺?俺は………‥‥誰だ?」


 少年には記憶がなかった。誰に埋められたのか、どうしてそんなことになったのか、何より自分は誰なのか。

 それらに関する一切の記憶が抜け落ちている。

 とりあえず、名前がなければ会話に困るということでロミが名付け親に名乗りを上げた。

 「じゃあ、クロ!」と少年を指さす。

 絶対外見で決めたろと少年は不満を漏らしたが、それしか判断材料がないのも確かだ。

 グレーの髪とグレーの瞳のロミとちがって、少年の黒髪黒目は珍しく、また着ている服もロミ曰く「この辺じゃまず見かけない仕立て」らしいし、全身黒色で統一されている。


「確かにクロって感じの見た目してるな、俺」

「でしょ」

「助けてくれてありがとな。じゃ」

「じゃ、って、どこに行くつもりなの?」

「決まってんだろ、俺の故郷だよ。早く帰らないと、それだけは覚えてる」


 そう言ってすたすたと歩きだすクロ。ロミは慌てて後を追う。


「でもあなた記憶ないじゃない。家の道覚えてないでしょ」

「……た、確かに」

「いったいどこに行くつもりだったの」

「くっ、全く記憶がない……じゃあロミはどこにいくつもりなんだ?」

「ふぇ?私?」

「ああ。だって、こんな森の真ん中で暮らしてるってこともないだろ」

「私は…‥」


 ロミはこれまでのいきさつをクロに話した。


「強くなりたい、か」

「うん。私、決めたの。この世界で一番強くなりたい。S級冒険者より強く。そして私みたいな人の助けになりたいの」

「いいやつだな、お前」

「そう?結構自分本位だと思うけど」

「ははは、なんかお前好きになってきた。俺を起こしてくれたのがお前でよかったかも。じゃなきゃ大変なことになってた気がする」

「大変なことって……てか好きって何!?いきなりどしたの?私たちまだあって数分だよ!?」


 ケモ耳の先まで真っ赤にしてあたふたするロミ。クロは人間性を気にったという意味で言ったのだがどうやら勘違いされてしまったらしい。

 それでクロがまた笑う。


 突然空が暗くなり、雷が聞こえた。


「なんだ?さっきまで晴れていたのに?」

「ち、違う…クロ、逃げなきゃ…!」


 雷鳴ではなかった。雲でもなかった。

 赤い影が太陽を隠し、唸り声を上げていた。

 視界を覆うくらいの大きな翼と、長い尾。

 うろこに覆われた身体に乱杭歯の生えた口。

 クロがぼんやり見上げたとき、その生き物と目があった。


「ドラゴン」

「見りゃわかるでしょ、早く!」

「に、逃げるって」

「ダメだ、私たちに気づいてる!!」


 ドラゴンがクロたちの方に急降下する。

 ドラゴンが翼を畳みミサイルのような速度で2人を襲う。

 その標的は、


「私!?そ、そうか…こいつ…」


 ドラゴンの口に魔力が集まり、炎の形になる。

 ブレスだ。

 高温のエネルギーが射出され、ロミのいたあたりが灼熱になる。

 ロミは魔力壁を展開しながら跳躍し難を逃れていた。


「ロミ!」

「くっ……この威力、やっぱり。私が取り逃がしたドラゴン……!」


 魔力壁を展開したもののブレスの威力はすさまじく、ロミは足を負傷してしまった。Dランク1人ではこの程度だ。

 動けないでいるロミの前に大きな足が着陸する。

 ドラゴンの縦長の瞳にロミの怯えた顔が映っていた。


「ぎゃおおおおおおお!!」

「(やだ、私の人生ここで終わりなんて……)」


 ドラゴンが大きな口を開ける。

 ロミが観念して目をつぶったその時、誰かに突き飛ばされた。


「クロ……」


 突き飛ばされて地面に転がる一瞬。

 ロミは自分の腕ほどもあるドラゴンの牙と絨毯みたいな舌を見て、その奥にクロを見た。

 クロは目を見開いて必死な顔をしていた。まるで自分のことなんて見えてないかのようだった。

 ドラゴンが口を閉じる。

 口の隙間からクロの手足が千切れて落ちた。


「そんな……」


 とっさにロミはクロのちぎれた手を握る。自分でもどうしてか分からなかったが、ドラゴンに近づく危険を冒してでも、腕を拾いに行ったのだった。

 ドラゴンが満足してない様子でロミの方を見る。食いたかったエサではなかったが、目当てはすぐそこにいる。そんな意志を感じる瞳だった。


「ひっ」


 ロミが後ずさる。このままでは自分も食べられてしまうが、腰が抜けて立てない。尻餅をついたまま惨めに後ずさる。

 その時、クロの手がロミの手を握り返した。


「わっ!」


 最初は気のせいだと思った。今度はしっかりクロの手を見ながら、自分の手に力を入れる。ぎゅっとしたらぎゅっと、クロの手が握り返してきた。

 はっとしてドラゴンの方を見る。

ドラゴンは動きを止めていた。

 何か違和感があるようだ。


「…闇?」


 ドラゴンの口の隙間から闇が漏れていた。

 その闇は地面を這うように流れ、クロの腕へと延びていく。

 クロの腕の方も同じく闇化していた。

 その闇化した手足が闇に吸い寄せられ、ドラゴンの口に吸い寄せられていく。


「クロの魔法なの?私が持ってる腕以外の手足も同じ……まさか、体が再生しようとしてる……?」


 ドラゴンの口が開けられていく。ドラゴンの意志ではなかった。まるで中から誰かがこじ開けているかのような。


「生きてたあ、儲け。ははは、おーい、ロミ!腕返してくれ。一本だと支えづらい」


 前の牙を片手で握り、闇魔法を展開して、クロがドラゴンの口をこじ開ける。左腕から先はまだ再生していなかった。

ロミが手を離すと、その左腕が浮かんでクロの方に吸いよせられる。


「こ、これって、【重力魔法】…。そんな、こんな莫大なエネルギー……」

「ギャオオオオオオオオオオ!!!」

「うるせ」


 想定外の事態にパニックとなるドラゴンと、その隙をついてドラゴンの口の中に左ストレートを放つクロ。

 ドラゴンの巨体が宙に舞った。

 空中で2回転半きっかり。

 ずしゃあと大きな音を立て、木々をなぎ倒して墜落したドラゴンはやがて動かなくなった。


「え?嘘。倒したの??」

「みたいだな、軽く殴っただけなんだが」

「ええええええええええええええええええ!!!!」


 晴天の森の中。ケモ耳美少女の叫び声が響き渡った。



――――――


「あり得ないあり得ない、そんなパンチ一発でドラゴンを倒せるわけないわ。そうよ、きっと気絶してるだけよ、気を付け……、し、死んでる!」

「一人で何やってんだ?」


 腹を見せて死んでいるドラゴンの周りでロミが行ったり来たりしている。スカートから出ているしっぽがぶんぶんと高速で振れているのをクロが目で追っている。

 ランカスター総出で出動し討伐することができなかったドラゴンを、クロは一発で倒してしまった。


「ああ、待って近づかないで、急に怖くなってきた。あなたいったい何者?ひょっとしてSランク冒険者様ですか??」

「残念ながら俺は記憶喪失でな」

「そうだったあ」


 ようやくロミが落ち着いた。

 クロに自覚はなかったが、どうやらとんでもないことをしでかしたらしい。


「まずこのドラゴンって強かったのか?」

「めっっっっっっっっっちゃね。Sランク冒険者でもないと単騎で倒すことは無理」

「Sランク冒険者」

「私も直接は見たことないけど、つまり途方もない強さってこと」

「こいつを倒せるのがねえ」

「おそらく王国護衛軍の大将と互角」

「知らんランクを知らんやつらで比較されても。じゃあイオバートってやつより強いのか?」

「余裕よ」


 イオバートという単語を聞いてロミがはっとした。そうだ。クロならイオバートに勝てる。


「あっ忘れてた。助けてくれてありがと。で、クロ、一緒に王都に来て!」

「いいけど、それってつまり」

「私のリベンジを手伝って!お願い!」

「やだ」


 クロに拝んだロミだったが、にべもなく断られてしまった。

 ロミの耳がぺたんと倒れる。


「そんな」

「話を聞いた限り、だいぶムカつくやつだが、俺自身そのイオバートってやつ知らねえから」

「ぐぅ、正論。私も軽率だったわ……あ、そうだ言い忘れてきたけどイオバートはAランクよ」

「急に興味が湧いてきたぜ」

「よし」

「でもどうやって」

「行きましょ、王都へ。行き方教えてあげる」


 そう言うとロミはいきなりクロの背中におぶさった。

 背中に手ごろな柔らかさを感じる。


「いきなりだな。教えてくれんじゃなかったのか」

「いい?あなたがさっき放った魔力は闇属性なの。その性質は引きずり込む力。つまり反転させれば」

「何言ってるかわかんねえ」

「むぅ、とにかく空に浮く自分をイメージしてみて」


 言われた通り空に浮かぶ自分をイメージするクロ。

 足の輪郭がぼやけて、身体と世界との境界が曖昧になる。

 やがて足の裏が地面から離れた。


「順調順調♪」

「うれしそうだな。お前王都に二度と戻らないつもりじゃなかったのか。個人的にはこのまま農地開拓スローライフを目指すのもアリだと思うんだが」

「そ、それはそうだけど、今も正直行きたくないけど、でも、このまま恨みを持って生きるのも嫌だから。それに」

「それに」

「クロの手がかりも何かわかるかもしれないもん、恩人だし」


 それを聞いてふっとクロは笑った。

 足元にはさっきまでいた森が広がっていた。


「で、こっからどうすんで?」

「今度は背中を誰かに押されるイメージ。私を振り落とさないで」


 ロミがさっきよりぎゅっと腕をクロにからめる。

 それを確認してクロは王都を目指し大空を飛ぶのだった。




――――――


「解散!?」


 冒険者ギルド1階。ラウンジ端の掲示板に貼られた簡単なお知らせを読んでロミが素っ頓狂な声を上げた。しっぽが天井を指している。


「そ、そんな……ランカスターが解散してる。どうして…」

「あ、あれ。ロミちゃん」

「イーゼル!」


 優しそうな声にロミが振り向き、クロもそれに続いた。

 メガネをかけて僧侶のような衣装に身を包んだ女の子だった。

 久しぶりの再会が嬉しく、ロミが抱き付く。


「ロミちゃん、あの時はありがとう」

「いいってことよ」

「それで、その、なにがあったの?ある日冒険者ギルドに来たらロミちゃんの名前がパーティメンバーから消えてて」

「イオバートと揉めたの。ケジメつけようと王都に帰ってきたら、ランカスターが解散してるんだけど」

「う、うん。ロミちゃんが抜けた後、イオバートがお気に入りを集めて、今度はダンジョン制覇に向かったの。でもその途中メンバー内で不和が起きて、ダンジョンを制覇するどころかパーティが壊滅。途方もない損害が出たらしく、その負債でランカスターが破綻。そのまま解散になっちゃった。みんなもどこに行っちゃったか…」

「イオバートは?」

「それが行方不明。だからギルドが立て替えなきゃいけなくて、おかげで今はこんな有様。人もいないし、クエストの報酬は暴落しちゃってるし。はあ」

「そ、そんな……」


 勇んで王都に帰ってきたものの、肝心の相手が身を崩して行方不明。急に力が抜けたロミはその場にへたり込んでしまった。


「ロミがリベンジするまでもねえな」

「あ、あの」


 そう言いながらイーゼルがクロの方に手を差し出す。どうやら何者か知りたいらしい。


「ん、俺はクロ。ロミの友達だ」

「そ、記憶失って寝そべってるところを私が発見して、こうして王都までついてきたの」

「お前が誘ったんだろ」

「ふふ、相変わらずロミちゃんお人よし」


 2人のやりとりを見てイーゼルが笑う。


「でも、ロミちゃん。イオバートを探したいなら、やっぱり消息を絶ったダンジョンを探してみるのがいいかもしれないよ。うーんでも、生きてるのかな」

「そうね、それしか手がかりないものね。ありがと、イーゼル」


 とりあえずダンジョンを目途にイオバートの捜索をすることにしたクロとロミだった。だがそれは明日にして、今日はひとまず王都に一泊することにした。

 一泊する宿はイーゼルに紹介してもらった。ランカスターの家賃補助がなくなってイーゼルもそれまで住んでいた部屋を追われたらしい。


「ああ、そうだロミちゃん」


 宿はイーゼルが泊っている隣の部屋だった。ドアの前まで着いたらイーゼルが思い出したようにロミを自分の部屋に招き入れた。


「ええ!?うっそ、これ私の冒険者服のスペア!!イオバートに差し押さえられたはずなのに、イーゼルがどうして?」

「さすがに夜のギルドに忍び込む勇気はなかったけど、ずーっと中古の武具屋に通って、ようやく払い下げられてるのを買い押さえたの」

「ありがとう!あなたと友達でよかった!!」


 感謝の言葉とともにイーゼルに抱きつくロミ。2人に挟まれて冒険者服が潰される。獣人の脚力で飛びついたのでイーゼルが尻餅をついた。

 

 時刻は夕方。

 クロとロミとイーゼルは王都を散歩していた。

 懐かしのブラウスとスカート。野宿生活で汚れた見た目をきれいにしたロミは心もうきうきしていた。

 

「というわけで私たちは今、王都の中心、目抜き通りを歩いているわけね」

「何がというわけでなんだ」

「あはは。ダンジョンに行くなら、ロミちゃんもクロくんも装備を一通り整えた方がいいからね」


 改めて見ると、イーゼルは杖を持っていた。どうやら魔法を使って支援をするタイプらしい。


「ロミちゃんは確か戦闘職だったよね。武器は持ってなかったから服を新調しないと」

「戦闘職。そう呼ばれたころが懐かしい」

「でクロくんは?」

「俺?俺は……戦闘職?」


 そう言ってみたもののクロは自分が冒険者をしていたかどうか覚えていない。ただ何となくそういう職業に憧れていたような気はする。

 そんな話をしながら必要なものを買いそろえていく。

 食料やバック、そして薬草など。

 ロミもクロも無一文だが、ロミは冒険者服のポケットにある程度の金銭を入れていたのだ。


「つくづくしっかりしてんな、ロミ」

「これでもいっぱしの冒険者だったから」


 そんなことを言いながら通りを歩いていると、目の前に人通りが見えた。


「なんだあれ?」

「あれは召喚された勇者を称えるお祭り。国が開催したわけじゃなくて都民が勝手にお祝いしてるの」

「勇者の剣に、勇者お菓子、勇者コスプレセット。ばか騒ぎね~、いつから?」

「もう3日になるかなあ。でもちょっと複雑だよね。勇者が召喚されたのってランカスターが破綻したことの遠因だから」

「あ、やっぱりそこ関係ある?」

「うん。ロミちゃんが辞める前からイオバート焦ってたでしょ。王様に気に入られて爵位と領土をもらうのが夢だったのに、勇者が召喚されちゃそれが出来なくなるって」

「両手に女侍らせて語ってたわねそんなこと」


 その時、急に空が暗くなった。

 さっきまで快晴だったのに、突然雨が降り始める。


「雨?」

「そんな、さっきまであんなに晴れてたのに……」

「この勢い……」


 ロミの言葉は空にとどろいた雷鳴によってかき消された。雷が勇者お祭りの中心に建てられた屋台に直撃していた。

 あたりに火、そして倒れている人たち。


「なんてこと…」


 イーゼルが走り出す。両手には白い光が展開していた。回復魔法だ。

 

「回復はイーゼルに任せて、あの子はランカスター指折りの使い手だから。私たちは犯人を捜す」

「犯人?」

「この雷は明らかに人為的なものよ」

「とりあえず俺は」

「クロは飛んで!」


 ロミに言われるがまま、闇を展開して空中へ飛びあがるクロ。下を見ればロミが広場中を走り回っていた。そしてその広場を覆うように魔法陣が展開している。


「スゴイなあの二人」

「くそが。また邪魔しやがって」


 クロがそう呟いた時、どこかから舌打ちが聞こえた。

 見ると屋根の上に男が一人、髪をきれいに分け口を歪ませている。そして何より、片腕がなかった。

 誰だかわからないが、あいつが犯人だ。


「見つけた!」

「なんだ貴様」


 クロに気づいた男がクロの方に手をむける。するとクロの周りの景色が歪み始める。


「なんだこれ、錯覚か?」

「闇なら火を当てるのが定石」

「何?」


 その瞬間クロの体が発火する。「なんだ?火の玉だ!?」というどよめきが下から聞こえる。


「なんだ!?急に火が付いた!」

「【陽炎】。燃え尽きて死ぬが……なんだと?」


 闇魔法には火魔法が有効である。これはこの世界の法則だ。

火水土光闇。左の魔法に右が勝つ。そして闇は火に弱い。

 だから男は闇魔法に身を包んだクロに火魔法を放ったのだが、


「なぜだ!?なぜ俺の魔法が効かない!?俺はAランク冒険者だぞ!」

「Aランクってのも大したことねえな!」


 火だるまになったままクロが男に突進する。

 ロミに教えてもらった斥力魔法を利用した頭突き。

 魔力をフルスロットルして衝突するという単純な人間ミサイルだ。


「がはあ!!」


 男は吹き飛ばされそのまま広場に墜落する。

 イーゼルが音にびっくりして跳びあがった。もうけが人の手当てはあらかた完了しているらしい。


「え、え、え、クロくん?大丈夫!?」

「ああ大丈夫だ、心配するな」

「いや、大丈夫な見た目してないから」


 土煙の中から顔を出したクロは頭がへこんでいた。それを見てイーゼルが必死に回復魔法をかける。一方、音を聞いて走ってきたロミは平気な顔をしている。


「無駄よ、イーゼル。クロの体は異常なの」

「えい、えい、って異常?わ、自然に治った、どうして?」

「俺の身体は魔法なんだ」


 指先をぽきっと折り取って、イーゼルに手渡すクロ。イーゼルが絶句してたが、今はそんな場合ではない。


「そうだ、あいつ!」

「まさか犯人!?」


 クロが辺りを見回して気付いた。煙がいっこうに晴れていない。それどころか徐々に濃くなっている。


「土煙じゃない、霧」

「しまった!逃げられる」

「はっ、誰だか知らんが、ロミのお友達だったとはな。つくづくお前は俺の邪魔をしたいらしい」


 霧のどこかから声が聞こえる。


「この声はイオバート!」


 ロミが叫ぶ。この事件を起こした犯人がイオバートだった。


「今度はお前の大切なものを奪ってやろう、ロミ。お前を俺のものに出来ないのなら、俺はお前の全てを奪う!」


 狂気的な笑いがあたりに響き渡る。

 その瞬間イーゼルの悲鳴が聞こえた。

 霧が晴れ始める。


「おい!お前!イーゼルに何をした!!」

「イーゼル!イーゼル!!イーゼルがいない!」




――――――


「ここは、どこ?」


 イーゼルが目を覚ましたのは地下室だった。あまり使われていないらしく、汚れやほこりが目立つ。イーゼルは手足を縛られて寝かされていた。


「そうだ、ロミちゃん!」


 連れて来られる前を思い出し、立ち上がろうとするイーゼル。だがうまくいかず、床を這うしかできない。

 たとえ立ち上がっても脱出することは困難だろう。地下室の扉に鍵がかけられているのがみえた。


「気が付いたようだな」


 鍵が回転し閂が動く。扉を開けて入ってきたのは、


「イオバート……」

「ずいぶんと刺々しいな。ランカスターがまだあったころは隊長と呼んでくれたのに」


 皮肉めいた口をききながらイーゼルの方に近づくイオバート。イーゼルのお腹にイオバートのつま先が当たった。


「私の左腕を奪ったのは、ダンジョンのレッドスコルピオンだった。毒を注入されてね、切り落とすしかなかったよ」


 イオバートのつま先が当たらない位置まで動いたイーゼル。イオバートは何を話すつもりなのだろうか。


「選んだ治癒師の力量不足だった。せっかくの利き腕だが、命には代えられないだろう。私は将来貴族になる男なのだから」


 また一歩、イーゼルの方に近づくイオバート。


「さて君はどうして、あの時参加を辞退した?報酬も申し分ない額だったはずだ」


 部屋の温度が心なしか上がっている気がした。

 のんびりした性格のイーゼルだがようやく気が付いた。

 今から私は八つ当たりされる。


「(以前の私なら、謝ってただろうな……)」


 イオバートのトキントキンに尖ったつま先を見ながら、イーゼルは別のことを考えていた。

 気の弱い性格と攻撃力を持たない治癒師というポジションが災いして、イーゼルはパーティメンバーの顔色を伺うことが多かった。

 なにせ、劣勢になると怒鳴られるのが治癒師だ。イーゼルは「お前が早く治さないからだ」と言われないよう必死だった。そのくせ優勢の時に感謝されるかと言ったらそうではない。しかも平時はお荷物扱いされている。

 戦闘職が報酬を多めにもらい、自分は最後の残りということも一度や二度ではなかった。

 治癒師は自分を治せない。

 ランカスターの激しい競争に追い詰められ、パーティリーダーに毎日怒鳴られながら仕事をしていた時、


「はじめまして、私はロミ。いきなりだけど、あなた大丈夫?しんどそうな顔して、よかったら話聞くよ?」


 頭の中の霧に太陽が差した。


「どうした?聞こえないのか?【ヒートアイランド】はまだ全開ではないのだが」

「………よ」

「何?」

「あなたを治すなんて死んでも嫌だからよ!」


 そう叫んでイーゼルはイオバートの足首に噛みついた。大声を出したのなんて久しぶりだ。


「痛ッ…。くそ、生意気な小娘が!!」


 イオバートは、イーゼルの口を振りほどきそのまま顔面に蹴りを放つ。鮮血が無機質な壁に線を作った。


「うぅ……」

「どいつもこいつも俺をコケにしやがって!!」


 イオバートが顔を歪ませ、イーゼルを踏みつける。腕を背中で縛られているため防ぐことができず、ただ顔を背けて、顔面への直撃を避けるしかできなかった。

 だが、イオバートの【ヒートアイランド】によって地下室の温度がどんどん上昇している。このままだと熱された地面によって顔もやけどを負ってしまう。


「くそっ!くそっ!くそっ!!こうなったらまずお前を殺す!その後ロミも、ついでにあのクロとかいう野郎もだ!俺を馬鹿にしたやつらを全員この世から消してやる!」


 額に汗がにじんでも、イオバートは暴力を止めなかった。悲鳴を上げていたイーゼルも徐々に声を失っていき、しまいには蹴られても反応しなくなっていた。

 その時、イオバートは妙なことに気づいた。


「回復魔法……?」


 イーゼルの手が発光している。その色は回復魔法だ。弱弱しい光だが、確かにイーゼルは回復魔法をかけている。


「はっ、私としたことが、どうやら蹴りすぎたようだな。自分の回復魔法で自分は治癒できない。そんなの常識だろ」


 焦点の合わない目をしたイーゼルに語り掛ける。イーゼルは口の中を血で一杯にしながら、それでも何かを話始める。


「ごほっ、ごほっ……私…じゃない……」

「何?」

「…きっと、私を必死になって探してくれているはず…。でも私の居場所がわからない……だから呼ぶの…」

「呼ぶだと?ははは、幻覚でも見てるのか」

「あの子もみんなを助ける存在なんだ……行動が全ていい方向に転ぶ……そういう人間」

「さっきから何を言ってるのかよくわからないな」

「あの時……返し忘れてよかった…」


 その瞬間、イオバートが後ろに吹っ飛んだ。

 まるで腰に縄を付けられて勢いよく引っ張られたかのように。

 そうそれは例えば。

 強い重力。


「な、なんだこの力……」

「ごちゃごちゃうるせ」


 勢いよくこちらに向かってくるイオバートの後頭部にクロはストレートを放った。

斥力魔法を乗せた強烈な黒い拳はイオバートを空中で3回転させ、そのまま顔面から地面に墜落させた。




――――――


「あはは……、また助けてもらっちゃった」

「いいってことよ」

「回復魔法ってどうやるんだ?」


 イーゼルを縛るロープを解くロミと、見よう見まねで回復魔法をかけようとするクロ。ロミのアドバイスを受けながら、慣れない手つきで光魔法を操る。

 魔力量だけはけた違いなクロの回復魔法が、イーゼルの体を包む。白い光はイーゼルの傷をあっという間に治癒し、欠けた歯や折れた骨までも治してしまう。


「す、すごい。あっという間に傷が癒えて…」

「最上級回復薬なみね」


 イーゼルはすぐに立てるようになった。


「な……なぜここがわかった…」


 3人の背後でそう呻く声がした。振り返るとイオバートが意識を取り戻している。


「げ、もう目覚めてる!ドラゴンの時より力込めて殴ったのに」


 クロがこぶしを振りかぶるが、ロミに制止される。

 イオバートは地面に伏したままだ。どうやらまだ立ち上がるほど回復はしていないらしい。


「わかってないわ。イーゼルに連れてきてもらったの」


 そう言ってロミはクロの手を取ってイオバートに見せる。

 クロの手は小指から先が欠けていた。

 そしてイーゼルがポケットから何かを取り出す。


「指、だと…」


 イーゼルが持つ指先はふわふわと宙に浮きクロの手にくっつく。切断線もなく元通りだ

 イオバートが理解できないという顔をする。

 イーゼルが回復魔法をかけたのは、あの時クロがふざけて渡してきた指先だった。すぐ返そうとしてたのだが、イオバートに連れ去られタイミングを逃してしまっていた。


「指先に回復魔法をかければ、くっつこうと本体が近づいてくる。それで私たちはここがわかったってわけ」


 突然クロが何かに引っ張られるように走り出した時はびっくりしたわ、とロミは付け足した。


「でもまさか、こんな別荘を所有してたとはね」


 クロが指の欠けた手のひらを前に突きだしながら走って辿り着いたのは王都の外れに位置する邸宅だった。

 クロは指先に引っ張られるまま玄関を突き破り、とある部屋の壁に激突した。

 クロの首は変な方向に曲がったが、追いついたロミが壁の裏に隠し通路を発見。

 その階段を駆け下りたらイオバートの後ろ姿が見えたというわけだ。


「……俺の敗因はお前の力を軽んじていたことか…」

「いや、お前が軽んじたのはイーゼルだ」


 クロの否定を聞いたイオバートは観念したように笑った。


「さて、とりあえずこいつを拘束しましょう。このまま回復されたら大変だわ」

「その必要はない」


 イーゼルを縛っていたロープを持ったロミをイオバートが制止する。

 途端、家が揺れ始めた。


「ロミ、イーゼル、そしてクロ。早く逃げるんだな。この家は崩壊する」

「あなた……!」


 イオバートはどうやら死ぬつもりらしい。このままでは3人も家の下敷きになってしまう。


「クッソはた迷惑なことしやがって!イーゼル!走れるか!?」

「う、うん!」

 

 ダッシュで出口へと急ぐクロとイーゼル。階段に差し掛かったところで2人は気付いた。


「ロミ!早く!」


 ロミがその場を動いていなかった。すでに地下室の壁にひびが入り、天井が崩れ始めている。


「何してるんだ。仲間が呼んでるぞ」

「……」


 それでもロミは動かない。その顔には複雑な感情が浮かんでいた。

 その時、イオバートの上の天井が崩れ、瓦礫が降ってきた。


「ロミ!」

「ロミちゃん!」


 瓦礫の落ちる騒音がする。クロたちの方に埃が舞う。あたり一面が見えなくなった。

 埃が晴れた後に立っていたのは、イオバートを抱えたロミだった。

 そのまま階段の方に歩いてくる。


「なぜだ…なぜだ…理解できない」

「シンプルな答えよ。クビになった私はあなたの指示に二度としたがわない」


 それだけ言ってクロとイーゼルの間を通り抜けた。

 イーゼルだけがロミの横顔を見て、ふふっと笑った。




――――――


 そして。

 イオバートは王国軍に引き渡された。クエスト失敗の責任だけならともかく、イーゼルの殺害未遂の罪が加わっている。

 冒険者ライセンスは剥奪され、王立刑務所に投獄される。


「というわけで、私たちは今、王都の門へと歩いてるわけね」

「何がというわけでなんだ?」

「ふふふっ、頑張ってね2人とも」


 クロとロミはこれから王都を出て世界を旅することに決めた。王都中を3人で探したが、クロの手がかりとなる情報は得られなかった。

 だから旅人として世界を見て回ることにしたのだ。目指すは世界の果てにあると言われる世界の全てが書かれたワンダーウォールという壁だ。


「ワンダーウォールを見つけられたら2人とも勇者だね。うれしいな勇者の友達なんて」


 イーゼルは転職することにした。教会にヒーラーとして勤務することにしたのだ。


「私たちが傷だらけになったら治してね」

「うん、ぜったい駆けつける」

「それにしても……」


 軽い会話を交わしながらロミはクロの方を見る。思い出すのはイオバートの最後の会話だ。

 崩れた家を前に、地面に寝かされたイオバートは突然クロに話しかけた。


「クロ、とかいったな。お前、どうして俺の【陽炎】が効かなった?」

「なんでっていわれても、ダメージがなかったからとしか」


 あの時。イオバートは確かに闇魔法となっていたクロに火属性の魔法である【陽炎】を放ったのだ。

 火は闇に強い。だからダメージは倍加されるはずなのに。クロには全く効かなかった。


「不思議だね。相性が無効になるなんて、まるで伝説の初代勇者みたい」

「イオバートはああ言ってるけど、そんなチートさすがに卑怯過ぎじゃないかしら」

「身体が闇だった時に火つけられたけど、何も感じなかったな」

「なら試してみましょ」


 考えてもらちが明かないと、ロミは火魔法を手に展開しクロに肩パンした。イオバートの言うことが真ならクロにダメージは通らない。

 だが、


「痛って!普通に痛え!」

「え!?じゃあ普通」

「イオバートの勘違い、ってこと?」


 いやでも、と言いかけてクロはやめた。

 確かにあの時身体を燃やされても何の痛みもなかった。ドラゴンに噛まれた時はもちろん、イオバートの後頭部をぶん殴った時も。

 痛くはなかった。

 だが、ロミのファイアパンチは普通に痛い。

 それでいいと思った。

 痛みも感じない、魔法の相性も無効化なんてあまりに人間離れしている。

 勇者になんてならなくていい。

 チートも必要ない。

 王都の門をくぐる。歩き続けるうちに、手を振るイーゼルが見えなくなった。

 

「さあ、強くなるわよ~私」


 ロミが腕を回す。やる気十分だ。

 それを見てクロが笑う。肩はまだ少し痛かった。

 

 これは冒険者パーティを追放されたケモ耳美少女が最強を目指す物語。

 そして、現代日本から巻き込まれ異世界転移してきた少年が、仲間を増やすことでチート能力を少しずつ失いながら、普通の最強へと弱くなる物語。

いかがだったでしょうか。

今書いている小説の粗が気になったので、刷新というか、書き直してみました。

こっちの方がおもしろい、続きが読みたいと思った方は評価・感想等お寄せください。大きなモチベーションとなります。

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