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13 -brain interface-  作者: 維岡 真
prologue
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prologue

 街の明かりは、人々を照らしていた。

 2049年12月13日、イルミネーションやホログラムツリーの輝きが夜の街を明るくする。

 笑顔で手を繋ぎ通り過ぎていくカップル。

 首にマフラーをまいた制服姿の女子高生、仕事帰りのスーツにコートを重ねているサラリーマン。

 ベビーカーを押しながら歩く親子。子どもが「早く早く」とはしゃいでいた。

 その全てが光り輝いて見える景色の中で一人佇む男がいる。男はベンチに座っていた。一本の木の周りに添えられたドーナッツ型のプラスチック製のベンチ。男は携帯から映し出されるホログラム映像を見ているようだった。

 何も写っていない画面を見つめる男。

 しかし、周囲の人間はそんな彼を訝しむ様子はなかった。

《音声ガイダンスに従って下さい。あなたが今最も気にしている場所を拡大します》

 内耳機能の拡張である”幻聴モード”。

 彼の耳には女性の声が聞こえていた。

 男は気になる部分を見つけると画像が勝手に拡大し、そして画質もそれに合わせて自動で調節された。

 男が見ているのは死体だった。頭部から噴き出たように血が周囲に散布している。

 そして死体の顔は最期に悪魔でも見たかのように大きく見開かれ、瞳は黒く淀んでいた。

《音声ガイダンスに従って下さい。対象の損傷を検知します》

 彼の思考の影響を受けた"zeus"が稼働する。

《頭部における内出血を検知。この傷害による死因率95%》

 1%刻みの演算機能が高い数値を叩きだす。

《音声ガイダンスに従って下さい。対象の画像を拡大します》

 次に彼が見たのは被害者の手であった。その手からは紐上の何かが、伸びている。

《該当する商品を発見しました》

《こちらは麻製の紐です》

 ”zeus”がそう言うと同時に、彼の”眼前”にウィンドウが開かれる。検索ロードが起動し、インターネット上の著名なネットショップでその物質に照合しそうな候補の物が提示された。

《思考を検知しました。ガイダンスを終了します》

 彼の”思考”がウィンドウを閉じる。

 次いで彼は画像を閉じ、職務専用アプリケーションを終了する。

 彼は大きく息を吐いた。白い吐息が夜空にそっと放たれる。宙を舞ったそれらは次第にその姿を霧散させた。

 道行く人々、流れゆく車。時々鳴るクラクションに高架を走る電車。

 そのどれもが男にとっては現象に見えた。無機質とまではいわないが、そこに楽しさがないことは確実であった。

 男は時刻を確認するとベンチから腰を上げ、夜の都心街へと消えていった。

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