玖 森巡り
「おや?あれは…」
私の目に映ったのは、植物みたいに真緑の体に角が生えた魔物だった。見た目が微妙にゴブリンに似ている。
「テル、なに?あれ」
[プラームゴブリンというゴブリンの仲間です。植物がゴブリンを捕食することによって生まれる突然変異種です。ランクはゴブリンと同じGです。]
ゴブリンに突然変異種なんてあんのね。
プラームゴブリンは元は植物ってことか。
弱点はやっぱり火属性?
[はい。弱点をついた場合、通常と比べ三倍程のダメージを与えることが可能です。]
三倍……やば!
でも今回は魔法の試し打ちだからなぁ。
風魔法でチャチャッと片付けちゃおう。
無詠唱で。
「えいっ」
ウィンドカッターでプラームゴブリンを真っ二つにした。
他の魔法も試したい。物凄く体がうずうずする。
ガサガサと茂みが揺れ、新たなプラームゴブリンが数匹現れる。
「みーんなみーんな、私が風で捻り潰してやるよ」
一つ目、ウィンドボール。この魔法は、その名の通り風の玉だ。ボール状に圧縮した風を、勢いをつけて敵に飛ばす初級魔法。風魔法で教わる一番最初の魔法はこれだという。
二つ目、スワールブラスト。風を渦のように巻かせた、竜巻のような魔法。これにのみ込まれると体が面白いくらいに回転し、方向感覚を失わせたり弱いものだとこれで死んだりする。威力は絶大なくせにこれは中級魔法だ。
ゴブリン程度で試せるものはこれくらいかな。
「よし、奥に行ってみよう!」
ゴブリンはもう飽きた!他のがいい!
そう思いながら、私はスキップ?をしながら森の奥へと進んだ。
そして少し進んだ所で、茂みがザザザザッと揺れた。
大きく揺れたことに私は凄く期待した。
「お、大物来る……!?」
と思った。
ワクワクしながらとても思った。
しかし現れたのは……ホブゴブリンだった。
「おい…………なんで……なんで…ホブゴブリンばっかりなんだよお!!」
「「ぐぎゃあああぁぁ!」」
そう、ルンルン気分で浮かれ度頂点の期待度マックスだった私の前に現れたのは、Eランクの雑魚魔物ホブゴブリン。ゴブリンの上位種だった。ホブゴブリンは私を見つけた瞬間飢えた獣のように飛びかかって来た。
「ゴブリン系もういらないのっ!鬱陶しいんだよ!この小鬼共が!」
「死ねぇぇぇ!」
ホブゴブリンの一体が私にナイフを向けて襲ってきた。
しかし、私はそれの頭をガシッと片手で掴む。そしてだんだんと握力を上げていく。腹の底から怒りが溢れてくる感覚だった。
「いっいぎぃっ!」
「誰がお前達みたいな雑魚魔物の攻撃食らうか馬鹿野郎。雑魚は雑魚同士やってろってんだ」
ぐちゃっと頭を捻り潰す。
雑魚の血が気持ち悪い。
「ちっ、風魔法【嵐を纏う大鴉】!」
嵐を小さく凝縮し、大鴉のような形に縮めて放つ風魔法の超上級魔法。これを食らえば、ホブゴブリンなどは一瞬で永遠の眠りへつくことができる。なにせ嵐を凝縮したものなのだから。
ちなみにこれは私のオリジナルだ。
…ていうか、嵐って凝縮できるものだったっけ?
なんだろう、自分で作ったくせに根本的な部分で謎になってきたぞ。
ま、いっか。
だって今はそれどころじゃないし。
「小汚いお前らは、鴉についばまれているのがお似合いだ」
大鴉がホブゴブリンをなぎ倒し、ぶつかり、その度に暴風が舞う。その風はまるで刃の如くホブゴブリン達を細切れにし、一瞬で片付けていった。
{個体名ヴェニウェルのレベルがLv1からLv2に上がりました}
{能力〈怒りの鉄槌〉を獲得しました}
「フンっ!」
ゴブなんて嫌いだ!マジで大っ嫌いだ!
ていうか〈怒りの鉄槌〉って何!?
[〈怒りの鉄槌〉鑑定結果]
怒りの感情が表れた時に発動する能力。
ステータス値が二倍になり、絶大なパワーを得ることが出来る。
他の能力の能力、効果も上がる。
怒りが消えると停止し、力は元に戻る。
目の前のステータスウィンドウに、〈怒りの鉄槌〉の鑑定結果が表示された。
「……鑑定どーも」
[それが仕事ですので。]
「そういえばそうだったね。
すっかり忘れてたよ」
話しかけてくれたりサポートめちゃくちゃ役に立ってたもん。
今思えば、テルほど私のサポートに向いてる能力はないと思うね。
テルは私の大事な相棒だ。
「なぁ、この近くにもう少しランクの高い魔物がいる所はないか?」
[ここより南西に魔力反応を確認。八つの生命体がいると思われます。ホブゴブリンよりも少々魔力量が多いです。脳内に立体地図を構成し、場所を特定することが可能ですが、しますか?]
「え、あぁそうなことができるんだったら頼むわ」
{能力〈地図化〉を獲得しました}
能力だったのかいっ!
なんて奴だ……、あ、でも頭の中に地図みたいなのが構成されていくのはわかる気がする。
頭の中に目があってそれを実際に見ているみたいに、めちゃくちゃ立体的にできてるのがまた凄い。そして、それを何故か理解しているというこの状況もまたまた凄い。
「あぁそっか、〈思考加速〉があったわ」
すっかり忘れていた。
色んなことを覚えすぎて色んなことを忘れていっている。
考えてみれば、日が経つにつれて人間だった頃の記憶が曖昧になってきている。こちら側に馴染んできている証拠だと思った。そして、同時に寂しくなった。
忘れるということは悲しいことだ。だが、忘れなければここではやっていけないとも思っている。
向こうはこちらとは真逆で、一言で言うなら平和すぎた。それでも、忘れたくないことが沢山ある。
だから……
「テル、獲得可能な能力の中に、記憶を保存出来るやつとかある?」
[…あります。〈瞬間記憶〉、〈記憶修復〉、〈記憶整理〉、〈絶対記憶〉、〈記憶見〉、〈記憶顕現〉など、他多数の記憶系能力があります。]
「その六つ取れる?」
[合計1800ポイントです。全てを獲得することは可能です。]
「サンキュ、〈瞬間記憶〉〈記憶修復〉〈記憶整理〉〈絶対記憶〉〈記憶見〉〈記憶顕現〉を選択」
{能力ポイント1800を使い、〈瞬間記憶〉〈記憶修復〉〈記憶整理〉〈絶対記憶〉〈記憶見〉〈記憶顕現〉を獲得しました}
{一定数の記憶系能力を獲得したため、〈絶対記憶〉を核に使い一つに統合します}
{統合能力〈不忘者〉を獲得しました}
{残りの能力ポイントは400です}
やはり凄い。
〈不忘者〉か……、忘れぬ者ってことだよね。
「これで、絶対に、何も忘れない。忘れることはない……。よし、切り替えよう。この話はもう終わりだ」
さてと、脳内地図によるとこの緑色の丸点が私で、この赤いのが魔物かな?
方角は……確かに南西だ。
テルと〈魔力感知〉で感じたものと地図がしっかり合っている。
〈地図化〉のリアリティーていうか、性能高いな。
「南西、ここから約二キロってとこかな」
場所がわかればあとは簡単、その場所に行くだけだ。
気づかれないように。
「いざ、しゅっぱーつ!」
ブワッと飛んで南西に向かって飛ぶ。
そういえば、第二形態になってから風の抵抗が格段に減った気がする。進化したから能力の能力が上がったのかもしれない。〈風の絶対王者〉の能力が上がったと考えると、少しだけゾッとする。幼体だった頃でも凄かったのだ。
更に凄くなっているのなら、一体どれ程……………考えるのやめよ。
キリがない気がするから。
「なーんせーいな、ん、せ、いーーなーんせーいにはなーーにがあーるかなぁーー。ゴブゴブ反対ゴブ反対ぃ!」
ゴブリンでなければいいんだ。ゴブリンでなければそれでいいんだ。
ゴブリン以外で!マジで!
そう思っていると、いつの間にか目的地にあと少しというところまで来ていた。
以前だったらもう少しかかるというのに。
「…進化って凄いな…て、そろそろ下りなきゃ」
風を起こさぬよう静かに下りると、すぐに声が聞こえてくる。
二人分の声だった。
「周囲に異常はありません!」
「天敵となる魔物や魔獣も探知できませんでした!」
ゴブリンやホブゴブリン達の声は、ガラガラ声だったり掠れたような声だったりしたものが多かったが、これは違う。
ユダやチルティーのように流暢に話している。まるで青年のようだ。
別のものでよかった……。
「見回り交代の時間だ、さっさと戻れ」
「はいっ先輩!」
せ、先輩?
魔物同士の関係に先輩後輩の上下関係があるのか!?
臭い的には〜いぬ…かな?
犬の魔物って何?犬に魔物とかいるの?え、私犬大好きなんだけど。
[魔力反応からして、コボルトと思われます。犬人とも呼ばれており、ランクはホブゴブリンと同じEです。]
ランクは一緒なのか……。
でも、持ってる魔力量がホブゴブリンとは比べ物にならないね。
うん、今回はやり甲斐がありそう…!
[コボルトは嗅覚と聴覚が発達しています。風下に移動することを推奨します。]
能力〈暗殺者〉
私は能力使って音を立てずに移動した。コボルトも気付いていないようで、見張りはしかめっ面で正面を見たままだ。
よし、奇襲ならいけるかもしれない。
そう思った。
しかし…。
ん?なんか急に巣の中から魔力反応がめちゃめちゃ出てきてんですけど。
そう思ったのも束の間、コボルトが続々と出てきて武器を構える。
嫌な予感しかしないのは私だけだろうか。もちろんこの場には私しかいないのだが。
「敵前方に確認!直ちに排除せよ!」
「!!?」
やっぱり気付かれてた!くそ、こうなったら…!
私は人差し指をクイッと動かした。それと同時に風が舞い起こり、コボルトの巣で砂煙ができる。
視界を塞ぐと、私は勢いよくコボルトに襲いかかり、前にいるおそらく指揮官のような偉い感じのコボルトを二体同時に体を引き裂いた。
「ぐわぁっ」
「ぎゃうん!」
周りのコボルトも、顔周辺の酸素を抜いて窒息死させた。
それにしても、何故気づかれたんだ?
気配はちゃんと消していたし、音も立てていなかったのに。
風下にも移動していたから臭いで気づかれたという訳でもないはず。
あと感知できるものといえば魔力だけだけど……あ、魔力っ!!
「〈気配隠蔽〉があるくらいだ、魔力隠蔽的な感じのもあるはず」
まずは〈魔力感知〉を第三者視点に切り替えて……。
そうしてみると、私がいかに魔力を出しているのかがわかった。
[体内から発せられる魔力の波をオーラと呼びます。]
なるほど、私はそのオーラを無意識にとんでもない量を出していたのか。
これどうやって消せばいいんだろう。
〈気配隠蔽〉を参考にしてみようかなぁ。
私は〈気配隠蔽〉を使う時の感覚で魔力を抑え始めた。無理矢理抑え込むのは簡単だが、そんなことでは隠蔽と言うより制圧のようになってしまう。自身の魔力は、体を流れ動かしてくれる動力源だ。それを力ずくなんてしたら体が動かなくなってしまうかもしれない。
それはごめんなのだ。
イメージは、荒れる波がだんだん穏やかになり水面が立たない凪のような感じだ。水面が鏡になるくらいに透き通った感じの。
「スゥーー……」
{能力〈魔力隠蔽〉を獲得しました}
{能力〈気配隠蔽〉と類似の能力のため、能力〈魔力隠蔽〉を統合能力〈暗殺者〉に吸収統合させます}
獲得早くない!?
〈成長補正(Ex)〉だよね!?
マジで有能すぎだろ!!
「……まぁいいや、先に進もう。〈暗殺者〉発動させて、と」
コボルトは感知するにざっと二十体程度。
あれ、さっき出てきたコボルトは十体と少しがいたが、まだそんなに残っていたのか?
まぁ巣なんだからそれくらいいるのもそうだけど、犬ってそんなに集団行動するものだったっけ?
だめだだめだ、向こうのことをこっちでも当たり前だと思ったらダメだ。
この世界では犬の魔物は集団行動するっ、はいっ、それでおわりっ。
…どちらにせよ、この巣を壊すから関係無いんだけど…ね。
「私が早く嵐風龍になるために……すまない」
私はそう言いながら、コボルトの巣の中に入ろうとした。
が、しかし。
「あでっ!」
コボルトの巣の入口に顔面をぶつけた。
多分周りにもし私の知人がいたら、指を指して爆笑する光景だろう。私自身も無様だと思った。
普通に考えてみれば、私の頭から地までの大きさはコボルトの巣よりややでかい。一応そこらに生えてる木と同じくらいではあるが、普通に入れると思っていた。(5〜6mくらい?)
だがコボルトの巣の天井はそれよりも微妙に低い。屈まないと入れなさそうだ。
「なんて面倒な……」
首が痛くなりそうだ。
するとテルがいいことを言ってきた。
[魔力を操作することによりあなた様の体を縮小することが可能です。この問題を解決するにはうってつけと考えます。]
縮小……体をっ!??
いやいやまてまて、そんなことが可能だったら私の体積どうなっちゃうのさ!
なに?圧縮されちゃうわけ?
ヤバいでしょ!原理どうなっての!?
怖ーよ…この世界何でもありですか?
「……やってみよう、怖いけど」
[魔力を操作することにより]ってことは、圧縮のイメージでやればいいのか?
圧縮……あっ…しゅく………?
あ、思い出した。
「……ふふふ…そんな事しなくてもいい方法があったじゃないか……。圧縮した空気を巣の中に投げ込んで解放すれば、その衝撃で一網打尽にできるはずだ…。ふふふ……ふはははは…ふははははははっ!っげほっげほっ」
変に高笑いしたせいで噎せ返った。
「……よし」
嵐を纏う大鴉だと内部を破壊し過ぎて二次災害が起こりかねないからな。
ここはまぁ、いっちょ能力でやりますか。
まず風探知でどんなコボルトが何をしているのか、何がどの場所にあるのか、正確な位置を頭の中で整理し〈地図化〉とも照らし合わせる。〈魔力感知〉よりも〈風探知〉の方がこれには適している。向き不向きがあることは色々と実証済みだから、適材適所で使うことも結構可能になった。
「アリの巣みたいだな…」
〈地図化〉でもそうだったが、〈風探知〉により更に三次元的にコボルトの巣を感じとってしまう。コボルトの巣は入り組んだ迷路のようで、言った通りアリの巣を思わせる巣だった。枝分かれする道、その先に広がる十畳くらいの広めの楕円形の部屋がいくつもあることがわかる。
更に地下にも部屋があるのが確認できた。地下の奥には、体育館くらいはありそうな程大きな部屋があり、そのまた更に奥の部屋はそれの倍以上の広さがあった。どうやってそこまで広い巣を造ることができたのか不思議なくらいである。大方能力か何かではありそうだが、一体どれだけの数でやったというのだろうか。
「……ん!?」
一番奥の広い部屋の奥の方に、何か別のモノがいる…!
魔力は他のコボルトと大差ないけど、八体くらいいる中の一体の魔力量が桁違いなんだけど…!
[通常のコボルトを上回る魔力を確認。四十体以上のコボルトをまとめあげる統率力からして、コボルトの上位種コボルトキングと思われます。その周囲にいるものは、コボルトの上位種コボルトジェネラルと思われます。続いてコボルトの上位種コボルトメイジ、コボルトアーチャー。魔物ランクは順にC、D、D、Dです。]
「キング……」
これはまぁ、期待できそうな感じだな。
私は、やっと戦いができるという喜びと、どれほどの実力なのかという期待を込めながら、ゆっくりと静かに風を操り始めた。
///////嵐風龍の風の便り///////
コボルトジェネラル、コボルトメイジ、コボルトアーチャーらは七兄弟らしい。
コボルトキングは見分けがつかなくなることもよくあるとか。
コボルト時代、物の取り合いが絶えなかったそうだ。
ちなみに、コボルトジェネラルワンが長男と続きコボルトアーチャーは末っ子だという。
天井に頭をぶつけるというやつ、私身長低い方なので一度でいいから経験してみたいです。
ヴェニウェルを書いている途中で羨ましくなりました。
読んでくださりありがとうございました。




