陸 じいさんとネコ
神界にて
男女二人が、地上の光景を映し出す水晶玉を囲んで見ていた。
「ほう、もう第二形態に進化するのか。早いなぁ」
「彼女、やはり適任だったのでしょうか」
「俺の判断は間違っていなかったんだな」
「アルベリア、あなたは勝手にやった事をまず反省なさい」
「……」
ソレフィアとアルベリアは、ヴェニウェルをずっと見ていた。
「嵐風龍とは最強であるべき存在だ。さっさと強くなって、他の龍共に伝えてやれ。“龍王嵐風龍が帰ってきたぞ”と」
◯
「うっ……ああぁ…あ?」
ねっむ、疲れた……。
「……進化、した?」
まずステータスを見なければ。
私はそう思いステータスを開いた。
〈ステータス〉
名前 ヴェニウェル
性別 無し 年齢 0歳
種族 原龍種 嵐風龍・第二形態 Lv 1
加護 魔神の祝福
属性 風 雷 水
生命 20000
体力 900/18600
魔力 18000
攻撃力 9000
魔力攻撃 9200
防御力 8980
敏捷性 5860
幸運 650
耐性 ・状態異常耐性・全属性耐性・天候無左右・寒熱耐性・恐怖耐性
固有能力
・風の絶対王者・嵐創・天候操作・波起・水の覇王者・雷の覇王者
能力
・成長補正(Ex)・言語理解・解析・鑑定・解説・道具箱・魔力視・思考加速・夜目・魔力感知・統合分離・二重防御結界・身体強化・超嗅覚・着火・無音・気配隠蔽・詠唱破棄・風刃・風斬り舞々
統合能力
・並列者
「あれ、桁が……」
体力と魔力の桁が一つ違ってるよ。
進化ってこんなに……いや、多分違うな。
〈成長補正(Ex)〉よ、桁変えるまでいったか。
てか、体力少なっ!
「あ、幼体が第二形態に変わってる」
確かに体が大きくなった感覚もあるし、視界が高くなった気もする。背中を見てみると、背骨にかけてあった変な突起が大きくなって数が増えている。首も尾も長くなった。爪の光沢もさらに磨きがかかり、手も足も大きくなっている。
「マジで進化したのか…」
にしても、能力増えたなぁ。
今でこそ〈統合分離〉の力を使わねばなるまい!
「えっと、統合できそうなやつは……」
見ると、ステータスの能力欄に点滅している能力があった。それは、〈気配隠蔽〉〈無音〉〈夜目〉の三つ。
これから連想できそうなのは…。
「隠密……暗殺?」
{〈気配隠蔽〉〈無音〉〈夜目〉を統合します}
{統合能力〈暗殺者〉を獲得しました}
{この先類似の能力を獲得した場合、この能力に統合されます}
「おおー」
暗殺者って……。
〈統合分離〉って、自分で使うとこうなるんだな。
前はアルベリア様がやってたからなぁ。
「今思い出したんだけどさ、〈風の絶対王者〉の中に風結界ってのなかった?」
[あります。常時発動させますか。]
「うん、させるよ。これで〈二重防御結界〉と重なって三重防御結界になるね」
[風結界は任意で風結界の層を増やすことが可能です。風結界は物理防御の他に魔法防御も可能です。]
「じゃあ保険で五枚にしておこう」
私は風結界を発動させ、風で自身を五重に覆った。
するとテルが。
[あなた様の体力が1/20まで減っています。早々に回復することをお勧めします。]
「確かに、疲れてるままだと色々と面倒だもんね」
私は枝を集め、〈着火〉で火をつけた。
そして、一体のオークを火の前に持ってきた。
「一度食べてみたかったんだよねぇ、豚の丸焼き」
[それを実行するには、火が足りていません。]
「マジか。
……仕方ない、切るか」
豚の丸焼きはまたいつかやろう。
私はそう思いながらオークを一口サイズに切り、適当に枝に刺して焼いた。
「他のオークどうしよう」
[〈道具箱〉を推奨します。]
「保存機能は付いてる?」
[付いてません。しかし、熟練度を上げれば付与されます。この数のオークがあれば、〈成長補正(Ex)〉を所持していますのですぐに上げることができると思われます。]
〈成長補正(Ex)〉よ、お前はどこまでやるつもりだ。
[成長するもの全てです。]
マジかよ。
でもそれのお陰でここまでになってるんだし、結構いい感じだよね。
どれくらい熟練度上げればいいの?
[Lv2で拡張・分離、Lv3で拡張・腐食防止、Lv4で拡張・保温・冷却、Lv5で拡張、Lv6で意思型収納、Lv7で拡張・時間停止、Lv8以降は拡張と機能向上です。]
これらのオーク全て入れたら?
[Lv4まで行くと思われます。]
「Lv4ですか。上がりすぎじゃね?」
まぁ、オークの肉がいい感じに焼き上がるまで残りのオークを収納しとこうかな。
〈道具箱〉ってどんな機能かはわかったんだけど、どうやって入れるの?
[触れれば収納可能です。Lv6に上がれば、触れずとも収納可能となります。]
とりあえずLv6目指そうかな。
そう思い、私は近くのオーク一体に触れた。
「収納!」
やり方がイマイチだったので叫んでみた。
するとオークはパッと消え、〈道具箱〉の隣に1と現れた。
なるほど、内容は表示されるわけですか。
そうとわかればどんどん収納するだけだ。
「ホイっ、ホイっ、ホイっ、ホイっ」
2、3、4、5…と、カウントはどんどん増えていく。
丁度10くらいに達してから、熟練度がLv2に上がった。
そこからまた更に15、40、60、85といき、カウントが95になって全て収納し終えた。
そして、
{能力〈道具箱〉の熟練度がLv3からLv4にレベルアップしました}
本当にあっという間にLv4まで上がった。
これで分離、腐食防止、保温と冷却が付くんだっけ。
すごいな。
パチパチっジューーっ。
「は!」
香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
さすがは高級肉とも呼ばれるオーク肉。
めちゃくちゃ美味そうです。
「はわわわぁ〜」
匂いを嗅ぐだけでこの美味さ。
味は一体どれほどのものか。
「高級肉……A5ランクか……!」
未だ食べたことのない未開発の味……!
すると、後ろの草がガサガサと揺れた。
肉の匂いで気が付かなかったのかもしれない。
肉の匂いでつられてきたのかもしれない。
「ニャニャー!とてもいい匂いにゃー!」
「ぎゃーー!!この前のネコーー!?」
「にゃぎゃーー!ドラゴンにゃー!?」
現れたのは、数日前にホブゴブリンの群れに襲われそうになったところを手助けした猫の女の子だった。
「どどどどどドラゴンンンッ!!ユユユユユダアアァァ!!ドラゴンにゃーーっ!!」
めっちゃ吃っとる。
「なんだと!?チルティー、どういうことだ!」
続けざまにあの老人も草から出てきた。
ユダと言ったか。
プチプチブチブチっ。
「は!やばい!焦げちゃう!!」
「「!!?」」
私は焦げそうになった全てのオーク肉を、サッと火から離した。
「んーいただきマース!」
フーフーと息を吹いてから、私はパクッと肉を全て口の中に入れた。
まず感じたのは、言い表せないほどの旨み。
「なにこれ!超美味しい!脂身が思ったほど少なくて、肉がいい感じで柔らかい!しかも味が濃くないし逆にサッパリした感じ!ふあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜美味いっ!最高っ!!」
私がオーク肉にひたっていると、チルティーとユダは信じられないという顔でこちらを見上げていた。
体が大きくなったから二人の身長もとっくに越しているため、私は二人を目だけを下に曲げて見る。
「な、何でドラゴンの言葉がわかるにゃ?いつの間にあたし竜語を覚えたかにゃ?」
「そもそもあれは本当に竜種なのか?龍種かもしれないが、人種と同じ人語を話す竜種も龍種も聞いたことも見た事もないぞ?」
「……」
そんな物珍しそうに見ないで欲しい。
なんだか恥ずかしいじゃないか。
[補足。原龍種は人語、魔物語、竜語、龍語の全ての言語を話せます。]
それ、〈言語理解〉の意味ある?
[魔獣の言葉や獣の言葉は専門外であるため、〈言語理解〉はそれがわかります。]
なるほど。
というわけで話しかけてみた。
「言葉、わかる?」
「「!!」」
よかった、わかったみたいだ。
「こんにちは、ユダとチルティー。私的には会うのは二度目になる。よろしくな」
「?二度目?どういうことにゃ?」
「ほら、二人ともこの前ホブゴブリンに会ったでしょ?」
「!何故それを知って」
「んで、その後ホブゴブリンの群れが来ることを察知してその場から退散しましたー。合ってるでしょ?」
「合ってる…けど、何で知ってるのにゃ!?」
チルティーが聞いてきた。
ユダさん、顔怖いです。
「ホブゴブリンの群れの方向から風吹いたでしょ?あの風吹かせたの私」
「「はあぁ!?」」
おーハモったー。
にしても、このユダとチルティーってのはどういう関係なんだろう。
「助けてくれてありがとうにゃ」
「礼を言う、助かった」
二人は頭を下げた。すると、ユダは険しそうな顔をして聞いてきた。
「一つ聞く。お前、ただの竜種ではないだろう。お前の種族はなんだ?」
これは言っていいことなのか?
嵐風龍って言ったら大変なことになりそうなんだけど。
どうよテル。
[それは、あなた様が決めることです。]
だよねー。
先に口止めしとこうか。
「言うのはいいけど、絶対に誰にも言ったら駄目だよ?」
「わかった」
「あたし達口は固い方にゃあ」
「私は原龍種が一体嵐風龍。名前はまだ明かせないけどね」
ニコッと笑いながら言うと、ユダとチルティーは口を金魚みたいにパクパクさせていた。
「嵐風……龍…」
「SSSランクの……超絶激レア魔物……!」
「あのーお二人さん?」
「「はいぃッ!」」
やっぱり言わない方が良かったかなぁ。
[後悔するべきではないかと。逆に、有益な情報を貰う方がよいと思われます。]
確かに。
そうそう、私属性三つもあるのに
魔法使えないんだよね。
使い方とか教えて貰えるかな。
[あなた様の持つ属性を相手が持っている場合可能です。ですが、使い方はどの魔法も同じなので、相手が持っていなくても基礎を教わることは可能でしょう。]
よし、じゃあ私がやることは。
「折り入って頼みがあるんだけどさ、私に魔法教えてくれない?使い方をよく知らないんだよね」
「使い方でしたらいくらでも教えられます」
「敬語やめよ?」
「これからわしの家に来い。そしたら明日から教えられる。心配するな、恩人…いや、恩龍を殺すようなことはせんよ」
色々と早いな。
歳的にはユダの方が上だから、敬語を使われると逆におかしいと思っちゃうんだよね。
「ねぇねぇ、オークの肉まだ残ってるかにゃ?」
チルティーがちょんちょんと突きながら話しかけてきた。
「そりゃまぁ大量に」
オークのカウント95もあるからね。
「お願い!オークの肉食べたことがないのにゃ!食べさせて欲しいにゃ!」
「なんだそんなことか。いいよ、私一体じゃ食べきれないし」
「やったにゃー!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながらチルティーが喜んでいると、先に進んでいたユダが叫んできた。
「ほら、早く来い。日が落ちるまでに着かなければならないんだから」
「はーいにゃ」
スキップしながら進むチルティーを見ながら、私は思った。
案外これもいいかもしれないな。
◯
神界にて
水晶玉を見ながら、ソレフィアとアルベリアは言った。
「元人間だからか、人種と接することに抵抗が無いな」
「それがこの先仇にならなければいいのだけど」
「ソレフィア様」
ソレフィアとアルベリアの前に、緑基準の服を着た緑髪の美女が現れた。
彼女は、豊穣の神だった。
「ハロフレア、どうしたの?」
「はい、嵐風龍が復活したことで自然の歪みが正常となり、天候も安定致しましたので、今年は凶作にはならずに済むかと思われましたのでご報告しようかと…」
「そう、ありがとう。
コルネアとユラノアはどう?」
コルネアは産業、ユラノアは畜生の神だ。
「物流は滞りなく、物価の上がるところが出てきましたが何の問題もありません。最近漁業も復活してきたことで、市場に魚が増えてきました」
「畜生に関しては問題ないです。自然界の食物連鎖にも変わりはなく、安定しています」
「そう」
「ソレフィア様は何を見ていらっしゃるんです?」
「ああ、最近転生した女の子よ。このアルベリアが勝手に転生させたのよね…!」
「嵐風龍に転生させたんだからいいでしょう」
「「嵐風龍に転生!?」」
二人はどうやら知らなかったらしい。しかしハロフレアは知っていたようだ。二人同時に声を上げた。
「別世界のものにこの世界の理の一部を任せているというのですか!?」
「そんなこと、許されるはずではないことでは!?」
「では、お前達ならどうしたというのだ?」
「っ!」
言葉に詰まった。しかしアルベリアは続ける。
「俺が彼女を転生させなければ、更にルゼラヘイムは荒れていた。彼女を嵐風龍に転生させたことで、お前達も人種達も得しているだろうが。彼女も案外満足しているようだしな。で、お前達には何ができた?豊穣と畜生など、言ってしまえば自然から派生したものと変わりない。産業も自然に頼ってできるものだ。そんなお前達に何ができるというのだ。言ってみろ」
「それは……」
「……」
アルベリアにきつく言われ、二人は黙ってソレフィアの前から去った。ハロフレアも、小さく礼をするとスっと消えてしまった。
「アルベリア、今のは言い過ぎよ。もう少し言葉を考えなさい」
「ハイハイすみませんでし…お?ヴェニウェルのやつ、あの人間に魔法を教わるつもりらしいぞ。ちゃんと習得できるのか?」
アルベリアはヴェニウェルの映る水晶玉を見てワクワクしながら言った。
「話を逸らさない!…でも、彼女ができるかどうかは気になるわね」
ソレフィアもヴェニウェルの成長には興味があるらしい。
神の興味を引くものは地上には少ない。確率的には億分の一だ。つまり、二人分の神の興味を引いているヴェニウェルは、かなりの特異点だった。
「ヴェニウェルが持つ属性は風水雷の三つ。魔法についてはそこまで教えていなかったからな。人間族と獣族からよく教わるといい。本来ならばあまり関わってほしくはないが、引き離すのはそのあとでも構わないだろ?」
アルベリアが聞くと、ソレフィアは小さくため息をついて言った。
「確かに私も魔法については教えていなかったから、それでいいわ。ただし、二ヶ月までよ。それ以上は認められないわ」
「それくらいでいい。許可してくれるだけでもありがたいからな」
そう言ってアルベリアはソレフィアの前から姿を消した。
元は分神とはいえ、彼もそれなりに力をつけてきている。
主神ソレフィア
魔神アルベリア
豊神ハロフレア
産神コルネア
生神ユラノア
主にこの五柱の神が世界を管理し、
噴炎龍イラプション
幽海龍シーギオ
煌土龍マザーレクト
そして新たなる嵐風龍ヴェニウェルによって、ルゼラヘイムの安定が保たれている。
正直に言って、ソレフィアは最初、魔物に任せるのは反対だった。
しかし、新たな分神を作ったとして同じ失敗をする訳にはいかない。
魔物にそんな大役を任せられるのだろうか。だが賭けてみるしかなかった。
そしたらどうだろう。もう既に何百万年も平和が続いた。
だからこそ安心しきっていた。
だから嵐風龍を死なせてしまった。
「ごめんね、アウィニー…」
そして今度は、まだ十年と少ししか生きていない女の子に、その役を押し付けてしまっている。不安で仕方なかった。
だが、そんな不安は今は無い。
彼女はいきなり別世界に飛ばされ、約束とは違う種族に転生させてしまったが、その状況にも恐怖にも負けず、一歩ずつ確かに踏みしめて進んでいる。
彼女なら任せられる。彼女ならしっかりとその役目を果たしてくれる。今はそれだけだ。
「頑張ってね、奏恵ちゃん……いえ、ヴェニウェル」
◯
その頃の私はというと、
「魔法ってどんなんだろうなぁ」
とまぁ、呑気にしていました。
読んでくださりありがとうございました。