参拾捌 勇者一行3
皆さんお久しぶりです。
お待たせ致しました、38話です。
どうぞ
ユウリの機嫌は、非常に、大変、頗る良かった。
いやみったらしくユウリの魔法の出来について「どうせできてないんだろう」と高を括って話しかけてくるキイチとアイリの前で魔法を見せ、高くそびえ立った鼻を折ることができたからだ。
無論、その後すぐに回復したキイチは「海中で使えなけりゃ意味ねぇんだからな!」と声を張り上げたが、海中へ潜り先日よりもその時間が長くなった頃には吠え面をかいていた。
「では、行きます!」
その声の後、ユウリは水魔法で六人を包み込み、丸い球体に仕上げた。そして、足元の水を固定し水球の外側を水流が抵抗しないよう調整して、海に入水した。
ここまでは、前回と同じだ。
海岸近くの浅瀬は比較的穏やかな海流で、色とりどりの小さな小魚や海草に、気性の穏やかな大型生物が悠々と泳いでいる。陽の光が水の中で反射し、色鮮やかな珊瑚と貝殻が宝石のように輝いていた。
「何度見ても綺麗だわぁ。1つ欲しいわねぇ」
「アイリ、今手を出したら水球の水流に巻き込まれて腕が千切れるわよ。外が見える程穏やかに見えるけど、外が見える程静かに速く流れているのよ。残像と同じね、速すぎて形が見えるなんて」
「ひいっ」
ルルーアの言葉にアイリは小さく悲鳴をあげてキイチに寄り縋った。
「ほんと、ユウリに感謝しなさいよね。余程のセンスとコントロール力が無くっちゃここまでの制度にはならないんだから。学校に行っても一人いるかいないかぐらいなのよ?道具による補助の力を抜きにしても、成長すればBランク冒険者とも楽に渡り合えるスペックは持ち合わせてるわ」
「ぅえっ!?あ、ありがとうございます!」
突然褒められたユウリは驚きながらも魔法の制御を緩めなかった。
その様をルルーアは「うんうん」と満足気に頷きながらアイリとキイチに向かって話を続けた。
「魔法のセンスピカイチのユウリに、後でちゃんと礼を言うことね。今のでもし制御失敗したら私達皆海の藻屑になってたんだから」
「あっ、アンタ危ないな!?」
「危険じゃない!!」
「失敗しない範囲をちゃんと見極めてるから大丈夫よ。そんなヘマしないしさせないわ」
「ほ…ほんとだろうな」
その時ケンゾウは、失礼ながらも久しぶりに常識的なキイチを見る事ができたと少し笑っていた。
◯
水深はいよいよ4000mを超え、完全に深海へと足を踏み入れていた。キイチとケンゾウ、ユウリとアイリは、深海は暗闇で何も見えないというイメージがあった。しかしこの海の深海は、シーライトバグという光る虫の魔物や星海草という淡く光る海草によって、月と星のみくらいの数メートル先までは見通せる程の薄暗さを保っていた。ルルーアとジェンバは特に何も言わず反応も薄かったため、話を聞いていたか以前に来たことがあったのだろう。呆けている所を「プププ」と笑われ、キイチは額に青筋を立たせていた。
しかし道中完全に安全であるという訳ではなく、その間に浅瀬の時には無かった深海魚達による突撃攻撃をしかけられていた。深海魚達の鱗はとてつもない深海の水圧に耐えるために非常に頑丈な作りをしており、腕が千切れると言われたユウリの水壁を意図も簡単に貫通してキイチ達に降り掛かった。
ルルーアの説明を聞いていたからこそその壁の怖さを知っていたキイチ達四人は、魔法の要たるユウリが倒されないように(アイリは渋々)深海魚の猛攻を防いでいた。
「こいつらを普通の深海魚だと思うんじゃねぇぞ?今俺達を襲ってやがるのは神魚バハムートや悪魔竜レヴィアタンらの眷属と言われる深海の魔物だ。少しでも気を抜けば腕一本、最悪体をくり抜かれると思っとけ!神魚寄りは魚の原型を保ってるので、悪魔寄りは角やら牙やら鰭やらが鋭利且つ黒い奴らだ!」
「そんな、事っ、言われて、もっ!判別、なんて、できるわけない!でしょう、がっ!!」
「おうそりゃそうだな、嬢ちゃんは手一杯か」
「涼しい顔っ、してんじゃっないわよ!」
アイリは武器の聖杖を棍棒のように振り回して魚を追い払っていた。無論、アイリは魔法寄りの聖女である。元々体力が平均的である上に職業的にも攻撃力が上がりにくいため、一度に払う事ができず何度も殴らなければならず、それを繰り返すが故に息もどんどん切れていく。
もはや被るものすらない。
「もうあったま来た!ケンゾウジェンバ、バフ盛りまくってあげるから二人で右側やってちょうだい!けちょんけちょんにしてやんなさい!」
「アイリちゃん、皮が剥がれてるよ……」
「うるさいわよ!!キイチ君は左側!ルルーアはその援護に回って!ユウリ、アンタは私の結界の中に入ってなさいよね!」
「う、うん」
鬼の形相で指示を出すアイリに、キイチはたじろぎながらそれに従った。
「え…………アレが、アイリ??えっ、じゃあ今までのは??猫を被ってたのか???」
ルルーアの長い耳は、キイチのそんな言葉を残らず聞いていた。
一方ケンゾウとジェンバはアイリからの支援を受けて、深海魚を叩き切り弾き返し受け流し、指示通り右側一面を二人で捌ききっていた。
しかし、ケンゾウは何か違和感を感じていた。
「なぁジェンバ!」
「あん?どうした」
「な、なんか俺の所っ、神魚寄りが多くないかっ!?」
「……そうか?」
「いやっ!そうだよ絶対そうだ!」
ケンゾウが強くそう言うため、ジェンバは少しだけ視線を寄越しながら魚を払った。よく見てみると、たしかに角付きが少ないと感じられた。
大きく振り払い、その一瞬の内に更に注目して見ると、一匹二匹と時々現れるものの、神魚寄りが圧倒的に多かった。
「勘違いじゃなく本当に多いな」
「なんっでた!」
「知るか!おい、ルルーア!あとどんくらいで群れを抜ける?」
「ユウリの進みからしてあと十分て所よ!ていうか話しかけないでちょうだい!あんたと違ってこっち大変なんだから!余裕かますようならそのボサボサの髭毟り取るわよ!」
「ひー、おっかねぇ長耳族だ」
「何か言ったかしら!?」
「何も言ってねーよ!……ま、あと十分頑張れや」
あと十分。
明確な時間がわかったことは良い事だが、それでも辛い現状は変わらない。
隣でジェンバがまだ余裕を持って戦斧を振り回し、その余波だけでも十数匹の深海魚を追い払っていた。
高レベルだからこその余裕でありできる技だ。この深海魚達のレベル帯は100から150前後という所。まだ100にも満たないケンゾウ達が苦戦するのは当たり前だった。
力不足、実力不足を改めてハッキリと思い知らされたケンゾウは、歯を食いしばりながら剣を振るい盾で弾いた。
「キイチ!悪魔寄りには光魔法、神魚寄りには水と光以外の魔法で対応しなさい!悪魔寄りには本当は聖属性が良いけどあんたは持ってないんだから。アイリは対魔結界と全員へのバフを切れないように続けること!」
「わかってるわよ。『聖女の援護』!我が聖は 我が同胞たる 者と共に【聖なる領域】!御神に捧ぐ 清浄なる戦の舞【神聖なる舞闘】!」
アイリの技能と神聖魔法により、水球内に白い紋様と光が現れ悪魔寄りの深海魚が嫌がるように離れていった。勿論キイチ達にはステータス値上昇のバフが乗っており、深海魚を倒し追い払う力が増している。
「五分持つわ。守りは任せなさい!」
その言葉と同時に、皆は攻撃にさらに力を込めた。場の要たるユウリを護衛してくれるのだ。守りを気にせずに攻撃に集中することができる。ユウリも自身の防御にこれ以上手を回す必要も無くなったことで、より速く進む事が可能となった。
「っクソッ!」
あと少し、あと少しの時間でこの面倒臭い時間が終わる。その安堵とただ魚を追い払うだけという勇者としての見せ場が無いという焦りが、キイチの動きを著しく鈍らせていた。
「キイチ、避けて!」
「っぐぁっ!っ、このっ!」
真下から猛進してきた深海魚に反応が遅れ、避けきることができず肩を負傷してしまった。
しかし膝をつく暇も無く、深海魚は好機とばかりにキイチに集中し始めた。
肩を庇い片腕のみで攻撃をいなしながら反撃するのは、熟練と言うほど戦いに慣れていないキイチには難しいことだった。
「キイチ、少し下がって!傷を癒せ【治癒】」
「っ、ありがとう、アイリ」
「気にしないで、あとちょっと頑張ろう?」
「あ、あぁ…」
さっきまでの口の悪さはどこへやら、いつも見ていた彼女に戻っていた。
そうだ、あと少しなんだ。そうアイリの言葉で再度心に気合いを入れた。
そして戦い続け、ようやく終わりが見えた。
「3、2、1……抜けます!」
その声の瞬間、深海魚は突然一目散に逃げていった。
「皆さ…」
「よしっ!やっ……え」
「なによ、これ」
「嘘だろ……」
「「…………」」
穏やかな海でも、楽園のような美しい海でもない。
キイチ達の前に広がっていたのは、喜びも希望もまとめて呑み込むが如く激しい竜巻の大群だった。
全くもって情けないことこの上なく、ええ、ええ、リアルが忙しくメンタルがやられていくという事で、筆が乗らず停滞してしまっていました。
回復したというわけではございませんが、そろそろ更新しないとまずいと思い急いで他を書き上げ更新した次第です。
不定期且つ亀更新で本当に申し訳ありません。
読んでくださりありがとうございました。




