肆 森は意外と出会いが豊富
「うん、いい朝だね」
ここに来てからの朝の私の第一声はこれだ。向こうでは考えられないほどの綺麗な朝である。
「今日は、この草原を出なきゃな…」
一週間ほどここにいるが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
アルベリアが近づけないようにしているらしいが、それにずっと甘えてては強くなれないし生きていけないからだ。
それに、スライムが弱すぎてレベルアップができない。
強い魔物を倒してレベルアップしなければならない。
いつか、他の原龍種にも会わなきゃならないし、その時に激弱だったらなめられちゃうしね。
「さて、行こうかな」
私は近くに見える森を目指して飛んでいった。
◯
「うーん、どうしようかねぇ〜」
私は目の前に広がるゴブリンの積み重なった死体を見ながら言った。
マジでどうしよう。
三十分前
「〈鑑定〉!」
私は目の前の深い大きな森を鑑定していた。
単純にどんな森なのか知りたいっていうのもあったが、どんな森かも知らずに入るのは愚行だと思ったからだ。
[森-鑑定結果]
デロッター大森林。
世界最大級の森林であり、G〜Bランクの魔物が巣食う。
「へぇー、世界最大級ね。どれくらいだろう」
さらに私は世界最大級を鑑定した。
[世界最大級-鑑定結果]
大陸一つ分。
「アバウトーー!」
なんだよ大陸一つ分って!
どの大陸だっつーの!
説明がアバウトよ!
鑑定さんしっかりしてよ!!
「…腹括って、入ってみるか…」
そして私は、とことこと森の中に入っていった。
「やっぱり森だよね。見渡す限り、木、木、木だもん」
〈魔力感知〉でどこに魔物が潜んでいるかは粗方わかる。だが、居場所がわかるだけでどんな奴なのかわからない。
その時、〈魔力感知〉が大量の魔物を感知した。
「……行ってみるか」
歩くと遅いので、パタパタ飛んでいった。すると、随分と開けた場所に出た。
私は気づかれないギリギリのところまで近づいて、何がいるのか確認した。
「二の四の六の八の十……。あーわからん。〈魔力視〉使おう」
数を数えるならば、魔力感知より魔力視の方が都合がいい。相手の魔力量も分かるから、引くべきか戦うべきかを考えられる。
うーん、一つ一つの魔力は少ないな。
だからと言って安心は出来ないかも。
えっと数はー……ひゃっ百!?
あっ、なんか一匹だけ外れてでている。
あいつを鑑定しよう。
〈鑑定〉
[鑑定結果]
種族名 ゴブリン
性別 オス Lv 8
生命 25
魔力 5
ふーん、あれがゴブリンか…。
緑色の肌に小さな体が特徴的だな。
「丁度試したい技があったところだったんだよね。ゴブリンには実験台になってもらおうかな」
まずは、どうやって近づいて行くか、だよね。
あれだけ数がいればほぼ三百六十度見られててもおかしくはない。
私は自分の翼を見て、それから空を見上げた。
「上からやってみるか?」
私は上空からゆっくり接近した。
すると、今まで聞こえていなかった声が聞こえてきた。
「また冒険者が来たらどうしようか」
「殺しちまおうさ」
「あいつらが持ってる武器いいもんな」
「女子供も使えるし」
「男は食糧にもなる」
「それに、あいつらは俺達が弱いと油断してるからなあ」
「隙をついてザックりといく感じはたまらんよな〜」
ゴブリンの声だ。
〈言語理解〉よ、ここまで理解しなくていいのに。
「あぁもう聞きたくない…。さっさとやろう」
〈雷の覇王者〉…。
「〈黒雷〉」
その瞬間、私の体から真っ黒いものがビリビリと溢れ出て、それがゴブリンの所へ直撃した。
ビリビリしないが、なんか不思議な感じである。
ドンドンドンッと地を抉って、ゴブリン達をなぎ倒していく。ゴブリン達は、何が起こっているのか理解できず、逃げ惑っている。
中には、その場から立ち去ろうとしているものもいた。
「逃がすか、〈風刃〉!」
せっかく大量のゴブリンを見つけたんだから、一匹も逃がすわけないじゃん。
もう一つ新技いこうか。
「〈風の絶対王者〉〈風操作〉」
ここら一帯の風を集めて……。
気圧を上げる!
気圧が上がると気温も上がる。
風、すなわち空気を圧縮した場合、それを開放したらどうなるか?
〈波起─地波〉
中心から地波で地面をうねらせ、一番外側が最高長に達した時に…。
「解除!!」
一気に風が外側に流れた。
しかし、外側は地波で盛り上がった地面のため、風は外に出ず上に舞い上がる。ゴブリンは地に踏ん張りきれず、紙吹雪のように舞い上がり、ゴミのように揉みくちゃにされた。
「うん、上々上々」
私は満足げに言った。
風が収まり、ゴブリン達は落ちていった。
大半は圧縮された気圧の中で圧迫されて死んだが、死ななかったものは落下で死んだ。それでも死なないものは、私が〈風刃〉で胴と首をサヨナラさせた。
{経験値を獲得しました}
{個体名ヴェニウェルのレベルがLv2からLv3に上がりました}
{個体名ヴェニウェルのレベルがLv3からLv4に上がりました}
{個体名ヴェニウェルのレベルがLv4からLv5に上がりました}
{能力ポイント1100が与えられました}
「ゴブリン百体でレベル3もアップですか」
能力も数倍アップしてんだろうなぁ。
私はゴブリンの死体を見ながらどうしようかと思った。
「燃やそうにも火属性とか持ってないし、埋葬とかも穴掘るのめんどくさいし」
でも、死体の処理は必要だよね…。
周りを見てみれば、木がビッシリと生えており奥が真っ暗である。
小さな木も多くはないが生えていた。
「原始的な方法でいくか」
私は周りを見た中で一番小さめの木に近づいた。
手を合わせながら枝を折り、枝についている小枝や葉を落とした。使うのでそれも拾う。
次に大きめの木から木の皮を剥ぎ取る。なるべく大きく。落ちている枝も、できる限り多く拾った。
「こんなもんかな」
実習でやったぐらいだけど、上手くいきますように。
そう祈りながら、私は枝を皮に押し付けてグリグリと擦った。摩擦をで火をおこすのだ。擦っている周りに風化させた葉を置いて、火がついたらいつでも燃やせるようにした。ときどき軽めに風を送る。
そうして十分くらいでなんとか火がついた。皮にも燃え移り、少しずつ火種が大きくなる。その上に拾った枝を置き、焚き火ができた。
{能力〈着火〉を獲得しました}
お、ラッキー。
「大きくなる前にゴブリン山でもつくるか」
手と足と尻尾を使って、せっせと山をつくる。
死体を積みながら、私は火を確認した。一つ一つに大きくついてきている。そろそろだと思った。
「四方に置けば足りるよね」
四つの松明を四方に置くと、置いた瞬間にガソリンを撒いたように一気に燃えた。
山のてっぺんまですぐに到達した。
「火葬成功ですな」
うーんキャンプファイヤーみたい。
火の粉がいい感じに舞ってるね。
燃え移んないように風のドームで囲っとこう。
「灰くらいまで燃えたら消せばいいよね」
その間に能力獲得でもしとこっかな。
私は獲得できる能力欄から、1100ポイントで取れるものを選んだ。
「んお?これいいね」
私は三つの能力を見つけた。
〈二重防御結界〉300P
〈超嗅覚〉100P
〈身体強化〉200P
〈二重防御結界〉は常用で使えば防御できるだろうし、〈超嗅覚〉もまた然りかな。
〈身体強化〉も、私より力の強い相手に出会った時に少しくらいは使えるかも。
「あとの500どうしよう」
100か200ので二~三個取るか、500で一個いいやつ取るか……。
ま、探そう。
「ふ〜ふふんふふ〜ん♪」
鼻歌交じりでプレートを下へスクロールしていくと、
「およっ」
〈解析・鑑定・解説〉500P
「へぇ〜、便利かも」
よし!
「〈二重防御結界〉、〈超嗅覚〉、〈身体強化〉、〈解析・鑑定・解説〉を選択」
{能力ポイント1100全てを使い、〈二重防御結界〉、〈超嗅覚〉、〈身体強化〉、〈解析・鑑定・解説〉を獲得しました}
{〈鑑定〉Lv2が〈解析・鑑定・解説〉に吸収統合されます}
「んで、〈二重防御結界〉と〈超嗅覚〉を常時発動」
白いものが私の周りを覆ったが、それはすぐにに透明になった。
結界が上手く張れたらしい。
だがそれよりも…!
「ふしゃい(くさい)!!ひょーほげふしゃい(ちょうこげくさい)!!」
〈超嗅覚〉マジヤベェェェ!!
さっきよりも鼻にツーンじゃなくてぎぃゅゅううううってきてキッつい!!
もうそろそろ全部燃えたよね!?
もう消しちゃうよ!?
はいっサヨナラ!!
「〈水の覇王者〉─〈水起〉!」
火の頂点から水が現れ、それはどんどん膨張した。
ゴブリン山と同じくらいの大きさになると、ぼちゃんと音を立てて落ちた。火はジュワーと音を立てながら消えていく。全部燃えたらしく、全てが炭または灰となっていた。
〈風の絶対王者〉─〈風操作〉
臭い空気を風に乗せて外へ逃がす。
そろそろ鼻がもげそうだった。
「ふぃー、一件落着〜」
キーーーーン
「!」
モスキート音のような高い音がした。
〈魔力感知〉に何かがヒットした。
よく嗅いていみれば、焦げた臭いの他に別のにおいが二つ混じっている。
これは何のにおいだ?
一つは動物みたいな獣のにおい、もう一つは獣のようで獣じゃない、少し曖昧なにおい。
「血なまぐさいにおいはしないんだよね」
魔物じゃ…ない?
……確かめてみるか。
私はにおいがする方向へゆっくりと歩いた。
飛んでもよかったのだが、風上にいるので獣のにおいのするやつにバレてしまうかもしれなかった。それは避けなければいけない。〈魔力感知〉で、ある程度の距離はわかっていた。そして、〈魔力視〉で視れるギリギリのところまできた。
〈魔力視〉
視えた魔力はにおいと同じ二つ。
色が透き通っている魔力と、力尽きそうなか細い廃れた魔力。二種類混じった魔力と、一種類の魔力。どういうものなのかさっぱりわからなかった。
こんな時は…。
〈解析・鑑定・解説〉を発動!
[初めまして、解説者です。]
はい!?
頭の中に突然声が流れた。
解説って解説する何かがでてくるの!?
[本日より、個体名ヴェニウェルの補佐をすることになります。]
はあ。
補佐ってサポートの事かな?
[名をご所望します。]
え。
[ご所望します。]
……。
[ご所望…]
わかったわかった!
つける、つけるから!
意外と強引……。
私は急いで名前を考えた。
[ありがとうございます。]
じゃあテルで。
tellって、伝えるとかそういう意味持ってるから。
我ながら安直。
[解説者は、これよりテルを名乗ります。よろしくお願いします。〈解析・鑑定・解説〉を常時発動することを推奨します。常時発動させますか?Yes/No]
……Yesでお願いします。
早速で申し訳ないんだけど、私が見ている魔力がなんなのか教えてくれない?
聞くと、テルはすぐに答えてくれた。詳しかった。
[個体名ヴェニウェルが見ている魔力は、人種の獣族と人間族です。魔力純度からして、獣族は若人、人間族は老人と思われます。]
サンキュー。
「なるほどねぇ」
獣族って言うのはなんだ?
私はテルに向かって話しかけた。
[獣族とは獣人と類似族であり、人の血よりも獣の血が強いものを指します。]
という事は、鼻はきく?
[種によります。]
へぇ〜。
じゃあ……どうしよう。
とりあえずゆっくり音を立てないようにいこう。
私は、抜き足差し足忍び足で近づいた。
さっきからこんなふうに歩くの多いな。
{〈無音〉を獲得しました}
{〈気配隠蔽〉を獲得しました}
わお、能力ゲットー。
丁度いいじゃん、早速〈無音〉〈気配隠蔽〉発動。
口では言い難いが、自分の存在が周囲に溶け込む感じがした。
〈気配隠蔽〉…まるでカメレオンのような能力である。
ここら辺からなら聞こえるかな?
聞こえてきたのは、女の子の声と老人の声だった。
「ユダ、なんか焦げ臭いにゃ」
「そうかね、わしにはそんなに臭わないが…」
「絶対するにゃ!あたし鼻には自信あるもん!」
「はっはっは、チルティーが言うならばそうかもしれないな」
私の体から力が抜けた。
拍子抜けだ。
気性の荒いなんかイっちゃってる感じの野郎共だと思ったら、ホンワカで可愛い感じの猫ちゃんと、穏やかな◯ャムお◯さんみたいな髭長じいちゃんだったよ!
警戒した私がまるで馬鹿だったみたい……。
さて、ここはどうすべきか……。
すると隣からガサガサと音がたち、大きめのゴブリンが現れた。
[ホブゴブリンという、ゴブリンの上位種族です]
ホブさんでしたか。
いやいやそうじゃなくて!
あの二人危ないんじゃない?
大丈夫かな?
ちょっと様子見よっと。
「チルティー、頼む」
「任せてにゃー!」
猫の獣族が飛び上がり、ホブゴブリンの頭目掛けて飛び蹴りを食らわせた。
顔面に当たったので、飛び出てる鼻は骨が折れたようだ。ホブゴブリンはギャーギャー叫んでいる。
肉球がフニってしてて痛くなさそうなんだけどなぁ。
すると、
「誰か!おい!助けてくれぇ!!猫の女と男の老人がいるぞ!!」
「!!」
助けを呼んでいる。
自分の仲間に、助けを呼んでいる…!
猫の子は……!?
「何言ってるのかわかんないにゃー。騒いでても意味が無いのににぇー」
そう言って、猫の女の子はホブゴブリンの首を掻き切った。
だが、私は驚いていた
通じてない!?
どうして!?私にはハッキリわかるのに!
[人種には人語、魔物には魔物語というものが存在します。個体名ヴェニウェルは〈言語理解〉を所持しているため、他種族の言葉を理解することができるのです。]
だとしたら不味いねぇ。
[何がですか。]
テルが聞き返してきた。
言葉が通じていないってことは、あの二人はホブゴブリンに増援が来ることを知らない。
あの二人が危ないってことだよ。
[それが、個体名ヴェニウェルに何の関係があるのか、テルにはわかりかねません。]
…私は元人間だからさ、目の前で人が無残に殺されるのは見てられないんだよ。
だから、ちょっとだけ手を貸す。
〈風の絶対王者〉─〈風起〉
ホブゴブリンが来る方角は〈魔力感知〉と〈超嗅覚〉で粗方わかる。
そしたら、その方角から風を吹かせる。獣の鼻は人の倍とか言うし、彼女ならわかるだろう。
「にゃにゃ!?」
「チルティー、どうした」
「こいつと同じホブゴブリンの臭いがこっちからするにゃ!」
「増援……!さっきの叫びは、仲間を呼ぶためのものだったのか…!?早く逃げるぞ。奴らが来る前にここから離れなければ!」
「わかったにゃ!あ、その前に魔石を取るから待ってにゃ」
見た目に反してグロいことするなぁ。
私は内臓を漁る光景を見ながら思った。
「終わったにゃ」
「よし、じゃあ行くぞ」
老人がそう言うと、二人は駆け足で森の奥へと走り去っていった。
その少し後にホブゴブリンが到着したが、それは私がおいしく経験値をいただいた。
{個体名ヴェニウェルのレベルがLv5からLv6に上がりました}
{能力ポイント400が与えられました}
「ふぅー、レベル上がったぁ」
能力ポイント増えたなぁ。
なんかのために、今はとっておこう。
私はあの二人を思い出した。
「あの猫ちゃんとおじいさん、また会う気がする」
その予想は当たっていた。
また近々、会うことになる。
読んでくださりありがとうございました。