参 元をたどれば神
「おおー」
この世界にやってきてはや一週間経った。
なぜ一週間かわかるか…。単純に、陽が六回昇ったからである。
そう考えれば、自分が来てどれくらいになったのかとかわかるから。
そして今日、私はついに飛べるようになった。
能力確認を行った後、夜も寝ずに練習したのだ。眠いとか全く感じられず、月とかも見られない真っ暗な中でやっていたら、〈夜目〉という能力を手に入れた。
来てから何も食べてないけど……まあいっか。
そして、もう一つ手に入れた能力がある。
〈魔力感知〉だ。
〈魔力視〉が一向に使えなくてイライラしていた私は、見れないなら感じればいい!と思い、魔力を感知し続けた結果〈魔力感知〉を獲得することができたのだ。
「やっぱり魔力で動いてるんだよなぁ」
〈魔力感知〉は色々と役に立つことがわかったので、常に発動させたままにしている。それで色々やってたら〈並列使用〉も手に入れた。
〈魔力感知〉をしながら自分の体を見ると、動かす度にそのところに魔力が流れた。足を動かせば足に、腕動かせば腕に、と。
「……魔物から魔力が抜けたら、どうなるんだろう」
まさか…死……。
「あーやめやめ、この話やめ。他のこと考えよう。そういえば、昨日レベルアップした時に能力ポイントがどうやらこうやら言ってたよね。それの確認しよう。ステータスオープン」
ステータスを開き、能力ポイントを押した。
するとステータスが消え、多種多様な能力が書かれたプレートが現れた。
「おわっ、これ全部能力?」
能力名の横に数字が書かれており、それが取得に必要なポイント量というのがわかった。
確か、私のポイントは300だったよね。
「……〈思考加速〉と〈並列思考〉、〈並列演算〉を選択」
{能力ポイント300を全て使い、〈思考加速〉〈並列思考〉〈並列演算〉を獲得しました}
何故この三つを獲得したかだって?
そりゃあもちろん、〈魔力視〉を使えるようになるためだよ。
あと、〈風の絶対王者〉の風探知。
情報量がえげつないから使えていなかったんだよね。
先週頑張れば使えるんじゃないかって思ってた自分が馬鹿だったんだよ。
何度も〈魔力視〉使っても一向に上がらないからさ。
「これで使えるぞー!!」
ワクワクしながら私は能力を発動させた。
「〈並列使用〉を発動、〈魔力感知〉〈思考加速〉〈並列思考〉〈並列演算〉〈魔力視〉を並列使用する!」
頭の中に膨大な情報が流れ込む。しかし、頭痛は無い。
圧倒的な量の情報を、〈思考加速〉で解読、理解、〈並列思考〉でさらにそれを二分にし、さらに〈並列演算〉でその情報量を元に三次元的に解読、解析、理解する。
{〈魔力感知〉の熟練度がLv1からLv2になりました}
{〈思考加速〉の熟練度がLv1からLv2になりました}
{〈思考加速〉の熟練度がLv2からLv3になりました}
{〈並列思考〉の熟練度がLv1からLv2になりました}
{〈並列思考〉の熟練度がLv2からLv3になりました}
{〈並列演算〉の熟練度がLv1からLv2になりました}
{〈並列演算〉の熟練度がLv2からLv3になりました}
{〈並列使用〉の熟練度がLv1からLv2になりました}
{〈並列使用〉の熟練度がLv2からLv3になりました}
{同種の能力の熟練度が一定に達したため、新たな能力〈並列意思〉を獲得しました}
{〈並列意思〉〈並列思考〉〈並列演算〉〈並列使用〉を統合します}
{統合能力〈並列者〉を獲得しました}
「は?え?」
能力上がりすぎじゃない?
それに統合って…。
熟練度が上がるのはまぁわかるんだけど、統合ってどういうこと?
統合させる能力なんて持ってないぞ?
もしや、これは自動的に行われることなのか?
「そんなわけないだろう」
「っ!?」
私の背後に、黒髪の男が突然現れた。
その瞬間、私は頭が上がらなかった。
重い……!!
何だ、この体を押し潰すようなほどの重圧は!!
怖い…恐い……!
「まぁ、そんなに怖がるな」
男がそう言うと、私にかかっていた重圧が無くなった。
体から力が一気に抜ける。
「あ…あなたは…、誰ですか…?」
「誰が先に質問していいと言った?だが、まぁいい、答えてやる。俺は、魔神アルベリア」
「魔神?」
「主神ソレフィアの下に付く、魔物を管理する神だ。あと、お前を嵐風龍に転生させたのも俺だ」
「はえぇ!?!?」
驚いて変な声が出てしまった。
どういうこと!?
私を転生させただって!?
じゃあ私が龍に転生したのってアルベリアのせいだっていうの!?
「あんたの…せいか……!?」
「そうだが?」
「あんたが…私をこの姿に……!!」
「不自由はしてないだろう?」
「…それは、そうだけど…!」
「こちらに非があることは詫びる。だから能力の統合をしたり成長補正をExにしたり、お前がある程度こちらに馴染むまで安全な場所に転生させてFランク以上の魔物を近づけないようにしているんだ」
「!?」
なんと。
この非常識魔神、私を魔物から守っていてくれていたのか。
「……………ありがとうございます…」
「ん?何か言ったか?」
「チッ……あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・すっ!」
やばい、つい舌打ちまでしちゃった。
まぁそれはそれでおいといて。
絶対に聞かなきゃいけないこと聞かなきゃ。
「アルベリア様は、なぜ私を嵐風龍に転生させたのですか?」
「直球だな」
「一番の疑問ですから」
斜め上を見ながら、アルベリアはうーんと唸った。
話すことはいけないことなのだろうか。
だが、勝手に種族を変えて(しかも魔物に)転生させたんだ。話す義務はあるだろう。
いやあるはずだ。あって当たり前なんだ。あってなくてどうするというんだ!
「まず、この世界に原龍種という原種の龍種があることは知っているな?」
「ええ、鑑定した時に」
「噴炎龍、幽海龍、嵐風龍、煌土龍の四体の龍は?」
「それも鑑定で」
「なら話は早いな」
お、どうやら最初から話してくれるつもりだったらしい。
長くなるらしく、そこら辺の草の上に椅子を出して座って話し出した。
「お前を嵐風龍に転生させた理由を言う前に、話すことがある。元々この世界は主神であるソレフィアによって創られた世界だ。しかし、自分で創った世界であっても、一人だけでは管理することができなかった。そこで創られたのが、俺達分神だ」
「分身?」
「分神だ。ソレフィアは自分の神力に自我を与え、それぞれに役職を与えた。ソレフィアは全体と人間族などの人種だ。ある分神は豊穣、ある分神は産業、ある分神は天候、ある分神は自然、ある分神は畜生などなど、それぞれ一つずつだ。俺の場合は魔物だ。しかしな、分神の中にも愚かなことをするやつが出てきたんだ」
「愚かなことって何です?」
「一言で言うならば怠慢だ」
「え」
分神…仮にも神様なのに怠慢てどういうこと!?
怠慢て、怠けたり怠けてするべき事をしないことって意味だよね!?
アルベリアは続けた。
「怠ったのは天候と自然の分神だ。そいつらは、自然の管理を怠り災害を起こしまくり、天候の良さは均等にしなければならないにも関わらず、日照りや豪雨に、いつまでも晴れぬ土地にいつまでも雨が降り続ける土地などなど、問題を起こし続けたのだ。さすがにこれには俺も呆れたさ」
「なんて分神達だ……」
呆れるのがよく分かる。
今まで怠慢などしてこなかった私にとって、そんなことは考えられなかった。
どこかの偉人の言葉を借りるならば…。
私の辞書に怠慢という文字は無い!!
である。
「ソレフィアも黙っていられず、その分神を消し去ったんだ」
ソレフィア様怖えー。
あんなに綺麗な顔してるのにすごいことするなぁ。
聞いてて思ったけど、本当にやばいやつだったんだ。
「そのあと、自然と天候を誰が管理するかという事になってな。さて、ここからが本題だ。その時俺は、俺に任せてみないか?と言ったんだ」
「まさか……!」
「そう、そうして生まれたのが原龍種だ。
火、火山を司る噴炎龍。
水、海を司る幽海龍。
風、天候を司る嵐風龍。
土、大地を司る煌土龍。
その四体が存在するだけで、自然と天候が安定する。神がやるべき事を、魔物である龍がやる。なかなか無いことだろ?
そして、それはつい数ヶ月前まで続いていた…」
「続いていた?」
「死んだんだよ。嵐風龍アウィニーが、自身の命を賭して三体の龍の争いを止め、世界を元に戻して死んだんだ。おかげで何ヶ月も天候が荒れ、異常気象に見舞われる地域があったんだ。だから、何としてでも次の嵐風龍となるものを見つけなければならなかったんだ。そこで見つけたのが…」
「ちょっと待ってください、それっていつからの話なんですか?そもそも、どうして三体の龍は争ったんですか?」
私は二つ質問をした。
話を途中で切るような真似をしてしまったが、これ以上進むと聞けなくなってしまうから仕方ない。
アルベリアは普通に答えてくれた。
「原龍種は古代から存在する。簡単に言えば、この世界が創られて数年後だ。つまり、今より数百万年前。その間は互いに互いを牽制し合い、たまに小競り合いをする程度だった。だが、数ヶ月前のは違っていた。争いの原因は……」
「原因は……?」
「……………」
「……………」
長いよ!!
そんなにためなくていいよ!!
早く言ってくれよ!!
「…人間族だよ」
「原因が人間族?」
「そうだ」
なんだか、大体想像がついてきたぞ…。
「人種…特に人間族は最も愚かな種族だった。まるで世界の中心が自分達である、自分達がいるからこの世界は成り立ってると思っているくらいにな。元々そんな思想を掲げる奴が多かったんだが、今回のは度が過ぎていた」
「何したんですか人間族は」
「…種族発展のためと言って、自然を破壊したんだ。自然を司っている噴炎龍イラプション、幽海龍シーギオ、煌土龍マザーレクトは、それに激怒した。特に煌土龍は森も管轄下だからな、伐採する人間に怒りをあらわにしたんだ。幽海龍も海を汚されて激怒。噴炎龍は元々短気だったから、そんな人間を許せなくて激高」
「アウィニーは?」
「空気汚染だけだったし、元々温厚で器の大きい奴だったからそこまでは怒らなかったんだ。だが、怒りに駆られた三体は、己の職務を放棄した。それにより、所々での自然災害、凶作が起き、自然バランスが崩れ始めた。完全崩壊の寸前までいった。そして、ついにアウィニーの我慢が限界に達し、三体の龍を立ち上がれなくなるまで潰したのだ。初めて見るアウィニーの怒りに、三体はすぐに大人しくなった。しかしな、完全崩壊は免れたとはいえ、全ての再生は難しかったのだ。そこでアウィニーは、自らの命を使うことにした。力だけでは及ばないが、命ならば可能だろうと考えたのだ。実際に、壊れかけていた自然バランスが軌道に戻ったからな。だが、天候を司る嵐風龍が消えた以上、天候が荒れるのは必然だった」
「そこで、私が転生するという話を聞きつけた、と?」
「あぁ。過去を見てみれば、お前は良い感じの器だと思ったな」
「それで私を龍に?」
「そうだ。そして、新たな嵐風龍誕生により、天候も落ち着き始めている。もしお前が人間族に転生していたら、さらに大変なことになっていたかもな。お前が嵐風龍に転生したことで、世界を救えたと思え。これが、お前を嵐風龍に転生させた理由だ」
「……あなた…分神なんですよね?」
「今は、今までの功績を認めてもらい、ちゃんとした神、魔神アルベリアとして存在している」
なんて神だ。
だが、私はこの神に助けられてばかりと言っていい。
もし私が人間族に転生していたら、アルベリア様の言う通り、大変な世界に転生していたという事だ。
「じゃあ、俺はこれで帰るからな。能力に統合させるやつを入れておくからな。せいぜい頑張れよ?ヴェニウェル」
「ヴェニウェル?」
「お前の名だよバーカ」
そう言ってアルベリアは姿を消した。
一瞬ムカッとしたが、名前をつけてくれたのは、少しだけど嬉しかった。
「ヴェニウェル…ねぇ」
{名付けにより、ステータス値が上がりました}
「え?」
名付けで能力アップ?
どういうこと?
まぁ開けばわかるか。
「ステータスオープン」
〈ステータス〉
名前 ヴェニウェル
性別 無し 年齢 0歳
種族 原龍種 嵐風龍・幼体 Lv 2
加護 魔神の祝福
属性 風 雷 水
生命 2500 (+1500)
体力 1900 (+1200)
魔力 1590 (+820)
攻撃力 1200 (+1000)
魔力攻撃 1220 (+1000)
防御力 1260 (+989)
敏捷性 1000 (+858)
幸運 282 (+250)
耐性 ・状態異常耐性・全属性耐性・天候無左右・寒熱耐性
固有能力
・風の絶対王者・嵐創・天候操作・波起・水の覇王者・雷の覇王者
能力
・成長補正(Ex)・言語理解・鑑定Lv2・道具箱・魔力視・思考加速・夜目・統合分離・風刃
統合能力
・並列者
「はああぁぁあっ!?なんだよこれぇ!!!」
いやいやいやいや!
名付けでここまで上がるとかさ!
レベルアップした時もそうだけど、能力上がりすぎなんだってば!!
変な加護まで入ってるし!!
あの魔神の仕業か!?
なんなのこれ!!
成長補正(Ex)!!
やっぱりこれはお前の仕業か!?
「上がることに越したことはないけど…!」
私は頭を抱えながら言った。
成長補正(Ex)…貴様は侮れぬ。
「あ、〈統合分離〉が入ってる」
すぐに切り替えてステータスを見ると、アルベリアが入れたと思われる能力を見つけた。能力の統合は結構便利だと思う。
そういえば、能力の常用って、複数できるのかな…。
「〈並列者〉ならなんとかなるかな?〈並列者〉を〈鑑定〉」
[並列者-鑑定結果]
並列能力を統合してできた統合能力。
全ての事を並列して行うことができる。
その能力は、統合前のものよりも強力。
「おおー」
なかなかいいね。
並列系を全部入れたってことかな?
並列使用も入っているから、複数の能力常用が可能だね。
よし。
「〈並列者〉を発動、加え、〈魔力感知〉と〈魔力視〉の常用」
すると、能力発動と同時に、私の目に綺麗に輝く魔力が映し出された。
流れる魔力はオーロラのように輝き、私を魅了した。
「綺麗な魔力だな…、けど……」
これだと、ろくに景色も見れないな…。
結局、〈魔力感知〉だけで十分と思い、〈魔力視〉は見たいと思った時だけ使うことにした。
私は空を見上げた。
もう赤く染まりかけている。
「そろそろここから動かなきゃって思ってたけど、日も傾いているし今日は寝て明日にしよう」
それから私は近くの木に飛んでいき、枝にお腹を擦り付けて眠りについた。
◯
とある火山。
─なぁ、お前らも気づいてんだろ?
とある深海。
─えぇ、当たり前じゃない。
とある地底。
─帰ってきた……。
───我らの王が……!!
「会いに行こう」
「新たな王の元へ」
「我らの嵐風龍の元へ…」
それぞれの場所で、それぞれの龍が動き始めた。
その影響は、他の龍にも伝わり、竜達が乱れた。
そしてそのことを、ヴェニウェルは知らない。
読んでくださりありがとうございました。