チュートリアル5 非戦闘地区
セントラル
この世界の中心、真理の塔を囲む様に出来た中立自由貿易国である。
基本的に戦争介入は無く、この都市を管理、運営をしているのは女神ルーティアナの使徒である
どちらかと言えば宗教国家にあたる…のか?
この都市の特徴は何と言っても戦争、PvP以外で他国のプレイヤーと交流が出来る場所という事である
ヒューマンを筆頭にエルフ、ウルフマン、
ドワーフ亜種、ニューマン、魔種、半機人などなど各国特有の人種、種族が集まる
そして貿易面は通常武具、鉱石等の素材など多種多彩な物が各国から流通しており金さえ払えば高レベル帯のアイテムがレアリティRまでなら手に入る
全てのプレイヤーにとって、ホームタウン以上にお世話になる場所かも知れない
「あわわわ…な、何この人、人、人だらけわぁぁぁぁあああ〜!?」
「ア、アイ!?」
早速、人の波に押し流されかけるアイの手を間一髪で掴む事に成功したセリカと3人で何とか商店の壁沿いまで避難している最中である
「ひ、酷い目にあったよ〜」
「なんかイベントでもあんのかよ…多くねーか?」
現在、このバラッド戦記の世界総プレイヤー数は120万人
そのうち日本サーバーのプレイヤー数は30万人にも及ぶ
故に…
地獄の人混みである
例えるならば毎日が花火大会の雑踏
よくもまあこれ程までに人が居たものか
リアル世界でもこんな人混みを見た事も体験した事もない
我々が今いるセントラル中央通りに至っては、満員電車に無理矢理押し込められていると言う例えがもっとも妥当だろう
「ア、アプデ来たからですかね…」
胸を圧迫され過ぎてむせ返りながら言ってみた
「…どさくさに紛れて上を…見るな…」
「は、はいぃ…」
セリカさんのドスの効いた声でそそくさと視線を下へ戻す
今、俺は地面に突っ伏している
背中にはセリカさんの足
グイグイとセリカさんは足を押し付け
その度に俺の胸は圧迫される
裸足でグリグリでは無い
それはむしろ、ある特定の性癖の人物にはご褒美という呼び方で知られている行為であるが俺にその様な趣味も性癖もない
しかもブーツでグイグイである
なんなら
「オラオラどうしたどうした!もだえ苦しめ!!あははははは!!!」
と言わんばかりのグイグイである
と、ここで先に訂正させて頂きたい
俺は…いや、私は無実だと
「何ブツブツ言いながら私のパンツ覗こうとしてんだ駄犬が…ああん?」
知らない間に言葉にしていた様だ
気をつけねば
「セリカ…さん、そろそろ許して頂けないでしょうか…あはは…」
上を向いたら怒られるのでセリカさんの表情はわからないが多分わかる…
ゲスな生き物を見下す様な目で俺を見ているに違いない
「な〜駄犬…人混みに紛れて私の尻を触った感想は…どうだ…?」
「違うんだ!!アレは押されてたまたま!!」
「で?」
「好きな感じの曲線でした…」
グイグイと背中にブーツがめり込んでいく
「ぐげぇ!!」
背中と行き交う人々の視線が非常に痛い
「セリちゃん…ワンコさんもわざとじゃないよ…この人混みだもん」
アイがフォローしてくれる
全く良い子だ…
「それに恥ずかしいよ…」
多分こっちが本音だ…
「チッ…よし、言い訳くらい聞いてやる…
視線は下のままゆっくり立て」
まるで取り押さえられた犯人の様に
手を頭の後ろに組みゆっくりと立ち上がると当のセリカと目が合う
凄い睨まれてる…つらい
「で?」
冷ややかな刺す様な虫ケラを躊躇なく踏み潰す様な一部のスキルもない視線と言う名のガンが飛んできた
「だ、だから…その…な、ほら、人混みで押されてさ…わかるでしょ…」
使いっ走りをさせられるイジメられっ子の様に愛想笑いを浮かべてみたが無表情で何の反応も返してくれないセリカにいたたまれなくて下を向いてしまった
これじゃあ本当にイジメられっ子だ
「だ、だいたいさ…お、俺は生身の女性に興味があってだね…バーチャルなフィギュアみたいなキャラに、よ…欲情なんかしないし…」
この言い訳まがいの説明も小学生レベルだ
ただ聞いて欲しい…本心ですから…これが本当に本心なんですよ…
確かにフィギュアの様なキャラに身をやつしているとは言え、女子(仮)の可愛さと言うのはリアル女子とはまた別のね!わかるよね?ね?
「ね?ね?ってなんだ?」
ヤバイ!また言葉に…
「だいたい、やましい事がないなら何でアイに向かって言い訳してんだ? ああん?」
……無意識って怖いね…。
「あれ〜おっかし〜な〜……。
セリカさんに面と向かって説明してたはずなんだけど…あれ〜な…なんでかな…おっかし〜な〜……。」
とアイに話しかけている自分…つらい
アイさんも苦笑いですわ…
「チッ…まあいい…次はへし折る」
へ、へし折るって何をだよ…
「ふっ…私の尻を触れた事を生涯自慢するがいい…二度とこんな幸せはないだろうからな…ふっ」
嫌〜な笑みを浮かべ
ツインテールをかき上げながら言われたが貴様の尻はどんなスペック持ってやがるんだ…
しかも二回も「ふっ」言いやがって…
「くっ…しかし!!!」
俺はセリカに面と向かって言うぞ!
不慮の事故なのに踏まれ辱しめられたこの屈辱
ここで黙っていたら俺の尊厳は地に堕ち
ひいては我がMAOの沽券にかかわる
負けるな俺!戦え俺!権力に屈する訳にはいかない!!!
言ってやる…言ってやるぞ!!
「しかしなんだ?早よ言えよ…聞いてやる」
「ひょえ!」
己が意思を再確認中に冷たく声をかけられたせいで声が裏返って変な返事でた
セリカさんは冷たい表情でこちらを見ている
こいつの…いや、この人の目は本当に眼力が強いよ…
でも、ワンコ負けないモン!!
「そ、そもそも…あのね…その、失礼な言い方になるかも知れませんがね…アバターは…女性な訳ですけどね……中身、あ、中の人が…女性とは限らない世界な訳じゃないですか…いや、気分を害されたらすみませんなんですけどね…」
ほら!俺!言ってやった!!
「ふーん…」
冷たい表情そのままにセリカさんはニタァっとこれまた冷たい笑みを浮かべた
「私は…中身、いや中の人…だっけか?」
言うなり俺はガッシリとこめかみを掴まれた
「おまえらが言うところの…」
指が肉に食い込んでいく…
ど、どんな握力でしょうかセリカさん…
「美」
アイアンクローですよねコレ…
「人」
アイスを一気に食べた時のキーンの数十倍のギィィイィイィィィィイイインンンが俺を襲う
「さんだが?何かぁぁぁぁあ?」
「ぎぃよぇぇぇえええええ!!」
アバター越しにどういう原理か俺の痛覚にクリティカルヒットしたアイアンクロー
そういえばこの間のアプデ以降、この痛覚セーブ機能を始め色々と不具合が報告されている
痛覚セーブ機能、レベルマッチング、ボイスチャット、転移門 etc
Gmax社の製品で不具合と言うもの自体がまず珍しい
なにせ世界中の国が、政府が、ごり押しするGmax社である
セキュリティーはもちろんシステム面も完璧、否、完璧以上に完璧
人は必ず何処かで大なり小なりミスをするものだが、あまりにもクリーン
人が携わっているのかも怪しい程の完璧なGmax ideaがこの不具合の連発なのだ
とか考えている場合ではない
「痛でででででででででででででででで」
「ん?、あら?痛覚セーブがまた不具合か?」
少し悪い悪いといった表情になるセリカさんですが
「とかぁぁあ言いながら何故にぃぃぃい手を離さないのでしょぉぉぉかぁぁぁあ!!」
「あはッ悪りー悪りーあはははは」
やっとの事でアイアンクローから解放されたのだが目の前がグニャグニャするわ何か考え様とするたびに頭痛が…なんか表面じゃなくて中に痛みが…
「セリちゃん…もう…」
頭を抱えてクラクラしている俺を優しく介抱してくれるアイさん…マジ天使!
結婚してもいいよ……まあ、アイさんにも選ぶ権利あるけどな…
セントラルは非戦闘地区である
痛い事は、絶対ダメです。
そんな事を考えながら、こんな酷い目にあったんだしせっかくなので
セリカの尻の感覚を思い出す
こめかみがズキズキ疼く
どうやら俺はセリカの尻と言うキーワードを考えると頭痛がすると言う奇病と一生涯、
生きていく事になるのかも知れない。