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10~旅立ちを前に~・3

 夕暮れ時、騎士団の修練場は今はちょうど誰もおらず、貸し切り状態となったそこに通り抜けた風が少女の紺瑠璃の髪を揺らした。


「……よし!」


 父とも別れ一人になったメリーゼは訓練用の木刀を構えると、傷だらけの案山子(かかし)に向かって駆け出す。


「はっ、やっ、てやぁ!」


 リズミカルに地を蹴る足、剣もさながら舞い踊るように前から後ろから斬りつける。


(体が軽い……これも腕輪の力、なのかしら?)


 橙の陽光を受けて、細い手首を飾る金色が煌めく。


 夕陽に照らされる彼女の剣舞は美しく、けれども鋭く冴え、見る者を惹き付けるものだった。


「また強くなったんだね、メリーゼは」

「!」


 ふいにかけられた声に、メリーゼの動きが止まる。

 先刻会議室から追い出された英雄王の息子、シーフォン王子がいつの間にか柱に寄り掛かって彼女を見ていた。


「シー、くん……」

「父上もフレスも何も教えてくれないけど、何かが起きているんだろう?」


 シーフォンの問いに一瞬、メリーゼはどう返すべきかと考えを巡らせる。


「そう思うのは……城下町を襲う黒い魔物を見たから?」


 あれだけ派手に暴れた“未知の恐怖”の存在が王子の耳に届いているのは別に不思議なことではない。

 探り探りなメリーゼに、シーフォンはつかつかと早足で歩み寄ると彼女の肩を掴み、真剣な顔を見せた。


 とん、とメリーゼの背に案山子が当たり、逃げ道を塞がれる。


「僕の手が、消えかけたんだ」

「えっ……!?」

「消えたのは一瞬だったけど、あの感覚は気のせいなんかじゃない。直後に起きた事件といい、嫌な予感がするんだ」


 シーフォンの言葉にメリーゼはすぐに英雄王……正確には、彼の妻であるフローレット王妃の身に起きた時空干渉を思い出す。


(そうか、王妃様があの時に亡くなるということはそれよりも後に生まれるシーフォン王子も存在しなくなるんだわ……)


 狙われたフローレット王妃はもちろん、彼女を喪うことで運命を狂わされたトランシュも消滅しかけていたが、メリーゼ達の知らないところでこの青年も自らの存在を脅かされていたのだ。


 消えたのが一瞬だったのは、影響が広がっていく順番なのだろうか……などと考えていると、


「その表情……やはり何か知っているんだね?」


 普通なら考えられないような話を聞かされたのに、心当たりが顔に出てしまったのだろうか、シーフォンの目が鋭く細められ、さらに距離が近付く。


「あ、あの、シー君……」

「メリーゼ、僕の身に……いや、世界に何が起きたのか、教えてくれないか?」


 彼は決して生半可な気持ちで聞き出そうとしている訳ではない。

 話すべきか否か、考えあぐねていると、


「おーい、メリーゼぇー!」


 張り詰めた二人の空気をハンマーで叩き壊すようなカカオの声に、シーフォンが思いっきり顔をしかめた。


「……無粋で品のない声だ。一度引き下がるとするよ」

「えっ……」

「メリーゼ……僕に話せないならせめて、あまり危険なことはしないでくれ」


 それじゃあ、と離れるシーフォンと入れ違いにやってきたカカオは、去っていく王子の後ろ姿とメリーゼを交互に見る。


「メリーゼ、ブオルのおっさんどこにいるか知っ……お前、何かあったのか?」

「い、いえ、何かというほどでは……」


 ランシッドがこの場にいれば大暴れしていたであろうことがなくもなかったものの、ひとまず誤魔化すメリーゼ。


(あまり危険なことはしないでくれ、か……)


 解放されたことにほっと息を吐くが、シーフォンの去り際の言葉を心の中で反芻した彼女は……


「あんなことを言われてしまうなんて、騎士としてまだまだ未熟ということですね。もっと頑張らないと!」

「……へ?」


 ぎゅっと木刀を握り締め、色違いの瞳に決意の光を宿すのであった。

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