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5~時の迷い子~・3

「保護者って……」


 大きな目を瞬かせるカカオに、モラセスは続ける。


「未熟だが二度、刺客と戦った経験がある。時空の精霊と接した時間の長さも、何かの役に立つかもしれん」


 モラセスの言葉にカカオ達は、メリーゼが視たという干渉された結果の未来を思い出す。

 ランシッドの娘である彼女には、確かに他者にはない力が目覚めつつあるようだ。


『親としてはあんまり賛成したくないけど……そうだね、メリーゼの適性は必要かもしれない』

「他の連中だって多かれ少なかれそういう奴等だ。なら、こいつらに足りない経験や技量を補う保護者がいればいいだろう」


 そこでたまたま迷いこんできたブオルに白羽の矢が立ったという訳だとモラセスは語る。


『確かにブオルなら狙われてる本人じゃないから問題ない、か……』

「そうでなかったら僕がついて行きたかったんだけど」

『英雄王はお城でじっとしてて!』

「えー」

『えー、じゃない!』


 聞き分けのない子供とそれを叱る親のようなやりとりをする四十路の英雄王と時空の精霊。

 そんな光景を唖然として眺めていたブオルだったが突然吹き出し、笑いだす。


「ははは、なるほど……確かにモラセス様のご先祖様と御孫さんだ」


 どういう意味だと睨むモラセスに、そういう意味ですよとブオルは返し、


「こんな未来が待ってるなら、それに繋がる過去を守らないとな!」


 そう、言った。


「……協力してくれるのか」

「させるつもりだったくせに何言ってるんですか。それに、私の主君は貴方ですから」


 貴方の我儘には慣れてますよ、と笑うブオルを見つめ、モラセスは眩しそうに目を細める。


「すまないな……本当は俺が行きたかったのだが」

「やめて下さいよその歳で」

「ふむ、さすがに老いた。もう十年若かったら行ってたがな」

「十年!?」


 十年若くても七十代半ばになる男は「冗談だ」とからかいながら、視線をカカオ達に戻す。


「未熟だと思われていたガキ共も冒険を経て仲間達と廻り逢い、困難に立ち向かい、最終的に世界を救う英雄となった。条件はそんなに変わらないと思うぞ」

「……そうだね」


 トランシュも頷き、フローレットの肩を引き寄せると、


「君達は既に僕達の命を救った英雄だったね」


 幸せそうに微笑みあう二人は確かにカカオ達のお陰で今ここにいるのだ、と告げた。


「えい、ゆう……」


 カカオはその言葉が、響きが、胸の中に浸透していくのを感じた。


「じゃあそういう訳でよろしくな、小さな英雄さん達……と言いたいところだが」

「ああ、その格好だと目立つな」


 バリバリの王都騎士団所属です、といった格好のブオルは自分の服装を改めて見下ろし、そして先程相当騒がれたことを思い出して溜め息を吐いた。

 今の騎士団には、この時代には自分はどこにもいないのだという実感と、思い出の名前で呼ばれお化け扱いされた悲しみがよほど堪えたようだ。


「おじちゃんのサイズの服なんてすぐ用意できるの?」

「私の……貴方の屋敷にいくつか服が残っているはずです。それを着ては?」

「おお、それだ!」


 クローテの提案で、とりあえず格好の問題はなんとかなりそうで、ブオルは安堵の表情をした。


「面白そうだな。俺も行く」

「ほんとフリーダムですよね、相変わらず」


 当然の如くついて来る主君の行動は予想済みだったようで、従者は呆れて笑うとその後ろについて行った。

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