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4~決意、刃に乗せて~・3

「このまま一気に、でっかいのいくよ!」

「このガキ、調子に乗って……!」


 激昂した化物が一直線に向かってくるが、モカは怯える様子もなく詠唱を始める。


「モカ、あぶねえ!」

「いえ、大丈夫よカカオ君。あそこは……」


 と、メリーゼの言葉が終わる前に化物の足元、彼が踏んだ地面が、鮮やかな翠の光を発した。


「うぉっ!?」


 途端にそこから巻き起こった旋風が標的を襲う。

 威力こそ低いものの意表を突いたそれは、化物の足止めには充分なものだった。


「あの風は……」

「クローテ君が仕掛けた罠です。魔術の応用で、触れた地面に敵が踏んだら発動する術をかけたの」


 メリーゼの言葉で、カカオはクローテが先程蹴りを放った時にさりげなく地面に手を置いていたのを思い出す。

 攻撃から離脱までの動作の流れにしか見えなかったが、その間にきちんと次の手を打っていたのだ。


「ガキ共が、小賢しい真似をっ……」

「その小賢しい真似もこれで終わりだ」


 倒すまでには届かなかった威力もそれ自体が目的ではなく、魔術の詠唱時間を稼ぐため。

 火と水、ふたつのマナがモカとクローテの周囲に、色が見えるほど濃く集まり出した。


「蒼紅よ混じれ、鮮やかに!」

「交わり絡み、そして爆ぜよ!」

「「いけぇっ!」」


 モカの炎とクローテの水のマナが生み出す強力な術。

 複数人で息を合わせることにより効果の高い術を唱えることができる、複合術だ。


「ぐぉぉぉっ!」


 凄まじい熱と蒸気をもろに受けた魔物はさすがに堪えたようで、苦しみよろめき出す。


「今だ、とどめを!」

「わかっています!」


 今度は軽いなどと言わせない。

 メリーゼは意識を研ぎ澄ませ、双剣に輝きを纏わせた。

 そして地を蹴って呻く魔物の眼前まで距離を詰め、一瞬ぐっと引くと、


「たあぁぁぁぁぁっ!」


 気合いをこめた叫びと共に、目にもとまらぬ速さでいくつもの鋭い突きを繰り出した。


「があぁぁぁぁぁぁっ!」


 力が足りないなら、他で補う。

 一撃一撃に光のマナを乗せた渾身の刃は弱った魔物を貫き、致命傷を与えた。


「やった……!」

『ってやり過ぎだよメリーゼ! これじゃ情報が聞き出せないっ!』


 ガシャ、と音を立てて文字通り崩れていく魔物に慌てて駆けつけるランシッドだったが、既に遅く丸い頭部が地に落ちる前に砂となって消えてしまう。


「ご、ごめんなさいお父様、つい……!」


 ハッとして剣を鞘に納め口許を押さえるメリーゼは少女の顔に戻っていて、


『……いや、加減が出来る余裕はなかったね。こちらこそすまない。みんなが無事で良かったよ』


 静かに微笑み、頷くランシッドは王の顔をしていた。

 同時に辺りに広がっていた特殊な空間も消え去り、もとの洞窟の風景が戻る。


……正確には、カカオ達がもとの場所に戻ってきたと言った方が正しいのだが。


「フローレットおばちゃんは……」

「歴史を変えられなかったんだから、ちゃんとこのあと助けが来るはずなんだってさ。現代の王妃様がぴんぴんしてたのがその証拠だろ?」

『そういうこと。むしろ異物である君達が下手に関わったらいけないよ』


 とはいえ、意識を失ったまま洞窟の冷たい床に倒れているフローレットを放置していくのは忍びなかったが……


「う、うーん……」

『やばっ、行くよみんな!』


 彼女が今にも意識を取り戻しそうな気配を察知して、足早にその場を離れた。


 そうして彼等の気配が完全にこの時代から消えたあと……


「……あら?」


 囚われの令嬢はゆるりと目を開け、不思議そうに辺りを見回し首を傾げるのだった。

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