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4~決意、刃に乗せて~・1

 薄暗い洞窟の奥に隠された小部屋に囚われの令嬢がひとり、俯いていた。

 ただ、どういう訳か彼女の周りには可愛らしいクッションや誰がどうやって持ってきたかわからないふかふかのソファやテーブル、寒くないように毛布なども置かれており、置かれた状況の割に不自由はないように見える。


(トランシュ、無事かしら……)


 利用するために下手なことがあったら困るからか、しっかりと安全が確保されている彼女の思考はむしろ恋人に対する心配へと向けられた。


 自分が囚われてしまったがために身動きがとれなくなった彼に、もしものことがあれば……


「お前が英雄王と再会することはない」

「!」


 気配なく現れた無機質な化け物に、フローレットの全身を本能的な悪寒が駆け抜けた。

 頭と四肢をもち一応は人型を形作られているが、表情もわからない図形の集合体をヒトと見るのは無理がある。


「葛藤に揺れる未熟な騎士の精神はお前という支えを喪えば容易く崩れるだろう……英雄王になるはずだった男の末路が私的な感情を暴走させた末の自滅、などというのは愉快で滑稽だとは思わないか?」

「な、なにを言って……あなたは……!?」


 壁際に後ずさったフローレットに、まるで予告でもするように鋭く尖った腕を向けると、化け物は無防備な彼女目掛け……


「させません!」


 ギィン、と硬質な音が響く。


 降り下ろされた化け物の腕を受け止めたのは素早く間に潜り込んだ少女の双剣。

 間一髪のところでこの場所を発見したカカオ達の中でいち早く動いたメリーゼのものだった。


 金と赤、左右で異なる色彩の瞳が真っ直ぐに化け物を捉える。


「あんな……あんな結末に、させてなるものですか!」


 フローレットを殺されればトランシュは魔物化して暴走し、破滅の道を辿る。

 時空の精霊と長くいた影響だろうか、この化け物が介入した結果起こる出来事を視てしまった彼女の決意はその鋭い剣筋にあらわれていた。


「あんな結末……? 小娘、貴様は一体……」


 本来なら知り得ないことを口走る少女の剣をひとつ、ふたつと捌きながら訝る化け物だったが、


「かっ飛べ火球、まっしぐら!」

「ぬっ!?」


 後方から飛んできた火の玉にその思考を遮られた。

 魔術を放った小柄な少女……モカと、その前方で彼女を守るように立つカカオとクローテが化け物の視界に入る。


「ちっ、子供がっ……」

「子供だと思って舐めてかかると、恥ずかしいことになっちゃうよー?」


 にやりと不敵に笑う少女に、表情こそないものの化け物の纏う気配が変化した。

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