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2~白き王都の英雄王~・1

 フォンダンシティ、名工ガトーの工房。

 少し前までは住み込みで騒がしい弟子がいたそこは、彼がいなくなるとこんなにも静かな場所だったのかとガトーに思わせる。


(……また、行っちまった。世界がどうとか、とんでもねえ話に巻き込まれて……)


 二十年前、災厄の襲来に立ち向かうために息子のように可愛がっていたオグマも、殻に閉じ籠っていた彼を連れ出してくれた仲間たちも行ってしまった。

 もし彼らがそのまま戻らなかったら……結果的に世界は救われ、誰ひとり欠けることなく戻ってはきたが、そんなもしもの話を考えてしまうことは一度や二度ではなかった。


 そして、また今回……


「……はあ」


 弟子であり可愛い孫の、最後に見た笑顔が脳裏に甦る。


 ガトーは精霊通話機に手をかけると丸い物体が両端についた棒――全体では精霊通話機(マナ・フォーン)という名称だが、この部分は通話機と呼ばれる――を持ち上げてそれぞれを耳と口許にあて、文字盤を慣れた指さばきで叩いた。


 数回、無機質な音が耳に寄せた側から聴こえ、やがて止まる。


《……俺だ》


 そうして応えたのは、ぶすっとした男の声。

 名乗りもしないその男を、ガトーはよく知っていた。


「おう、俺だ」

《そういう詐欺なら通用せんぞ》

「違ぇよ、ばーか」

《冗談だ、ガトー》


 くくっ、と通話機の向こうから噛み殺した笑みが漏れる。

「おめえの冗談は昔からわかりにきぃんだよ……」と口を尖らせるガトーだったが、お陰で多少は張り詰めた気が和らいだ。


《お前からとは珍しいな。何かあったのか》

「あ? そんなに連絡してなかったか?」

《……そうだ、お前はそういう奴だ。たまには王都に来い。それとも俺の方から……》

「飛んでくる、ってか。相変わらず元気だなおめえは。その元気をスタードの奴にちっとわけてやれや」


 ガトーが気安く話している相手は、先代の王モラセスだ。

 こうやって誰が相手でも態度を変えないガトーの性格と職人としての腕に惚れ込んだモラセスは、一度彼を城に招き、お抱えの職人にした過去がある。

 それ以来対等な友人関係が続いており、精霊通話機が普及した今はたまにこうやって連絡をとっているのだ。


《それで?》


 用件はなんだ、と言外にモラセスが促す。

 普段は自分ばかりが特に用もなくても連絡していたが逆は全くなかったため、よほどのことなのかと構えているようだ。


 もっとも、こういったことに無頓着なガトーにその自覚はないのだが。


「……カカオがそっちに行った。騎士団のチビどもにくっついてな」


 ややあって絞り出したガトーの声は、先程までの調子と違って低く抑えたものだった。


《お前の孫の押し掛け弟子か。またどうして?》

「話すといろいろややこしいんだが、なんかまた面倒なことになっちまってるみたいなんだ……時空がどうとか、歴史がどうとかな」

《ふむ……》


 あまりにもわからないことが多い現時点で、ガトーがモラセスに話せることはそれほど多くはない。

 それでもわざわざ連絡をとって、伝えたかったことは……


「とにかく、もし会うことがあったらよろしくってこった」

《わかった。覚えておこう》

「おう、頼むぜ」


 祖父として、ただただ心配だから。


 通話機の向こうの友人はガトーの想いを汲み取ると、僅かでも気が紛れるようにと他愛のない世間話を始めるのだった。

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