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妹の傷


 駅前で彼女を待つなんて、ああ、また一つ夢が叶った。叶ちゃんだけに、僕の夢をどんどん叶えてくれる。まるでそれが叶ちゃんの名前の由来の様に……


「ごめ~~ん待った?」


「あ、うん5分くらい、でも待ち合わせ時間はまだだから」


「うふふふ」


「ん? 何?」


「ううん、やっぱり全然嘘が無いなって」


「あーーまあ」


「あははは、じゃあ、行こっか」


「えっとどこへ?」


「あ、そうか言ってなかったね、えっとね、プラネタリウム!」


「へーーーー」


「興味無かった?」


「ううん、アニメのデートみたい」


「ああ、あのアニメね、見てた?」


「うん、見てたよ」


「本物じゃなくてごめんね、私の宝物じゃなくて」


「あはははは、あったあったそう言うシーン」


「じゃあ行こう、はい!」

  そう言ってかなえちゃんは手を出す。えっとプラネタリウムの代金かな?


「ん? お金?」


「ちーーーーがーーーーうーーーーほい」

 そう言ってかなえちゃんは僕の手を握る。温かくて柔らかい感触、あああ、僕の手汚くない? 汗かいてない?


「あわわわわわわ」


「あははははは、さあ行こう、歩こ~~歩こ~~私は~~~」


「ヤバいヤバい」

 歌詞はやばい……


 と言うわけで、プラネタリウムに手を握りながら向かった。

 初めての彼女、初めてのデート、楽しいとにかく楽しい。


 駅から徒歩で20分位、プラネタリウムに入った。

 市でやっている小さなプラネタリウム、日曜日なのでガラガラでは無いものの丁度周りに人は居なく、二人でゆっくりと見れた。


 小学生向けの内容、知っている事ばかりだったが、実際に星を見ながらだと、また違った見方聞き方が出来る。


 空に光っている星は全部恒星、恒星とは太陽と同じで自ら燃え光を放っている星の事だ。(太陽系の惑星を除く)太陽を除くと一番近い恒星はプロキシマ・ケンタウリという星で、ケンタロウス座という日本ではほとんど見えない星の恒星にあたり地球からは約4.2光年

 光の速度、1秒間で地球を7周半してしまう速度で4.2年もかかる。


 4光年、実際に今見えているのは4年前の光りを意味する。

 最も近いのに4年も前の光り、遠いものだと何百年、何千年とかかっているという事。


 つまり、今届いている恒星の光は何年も何千年も前の光り、今はもうない星の光かもしれない。


 ちょっと寂しくなるような、ちょっと切なくなるような、そんな内容を二人で聞く、そして見る。

 手を繋ぎ見ていると、かなえちゃんの握る力が少し強くなる。僕も強く握り返す。


 喋らなくても伝わって来るかなえちゃんの声。寂しくないよ、私がいるよと言ってくれている。そんな気がしていた。


 

 プらネタリウムを見終わり喫茶店に入り、二人で今見た内容を話す。


 でも僕の頭はかなえちゃんで一杯、かなえちゃんの事で話しが聞けない、「好きだ離れたくない……」


「うん、離れないよ」


「ああ、また……恥ずかしい……」

 また言葉に出てしまう。恥ずかしい……


「ううん、大丈夫、嬉しいよ……」

 頬を赤らめながら僕にそう言ってくれる。ああ、まずい……僕の欲望がどんどん湧いてくる、考えないようにしないと……でも。

 目線を外せない、外したくない、好きだからもっと見たいから、かなえちゃんの顔を、目を見てしまう。

 長いまつげ、綺麗な目、小さめだけど綺麗な鼻、そして愛らしい唇……唇……


「キス……したい……」


「え!」


「あ、ち、ちがう」

 何が違うんだ? 言い訳をって僕が嘘がつけない、本音しか言えないって言う事は僕よりかなえちゃんの方が知っている。言い訳なんて出来ない。

 

 ああとうとう恐れていた事が、僕の欲望が、心の黒い物が出てきてしまった。彼女は驚いている。もう駄目だ嫌われる。


「ごめん、突然……キモイよね……」


「あ、違うの、言われて驚いたわけじゃないの……その……ここで?って思って」


「え? そ、そんな……ち、違う、今とか、すぐとかじゃなくて」


「あああ!、そ、そうか、あははは、私としたことが……勘違いしちゃった」


「え? それって……嫌じゃないって事?」


「うん、勿論、全然嫌じゃないよ、二人きりの場所でなら……私もしたいなって」


「ええええええ!」


「あはははは、だって高2だもん、付き合ってる人とキスくらい当たり前でしょ?」


「で、でも僕が初めてとか嫌じゃない?」


「あのね、私好きでもない人と付き合わないよ? 遊馬君となら、最後までだって……」


「最後ってそのエッチとか?」


「うん、だからそんなに気にしないで、私だって思ってる事、皆思ってる事、隠す方がおかしいんだから、私たち恋人でしょ?」


「そ、そうなの? いいの?」


「勿論!」


「かなえちゃん……好き!好き!大好き!」


「わたしも~~~~」

 あああ、凄い、凄いよ、かなえちゃんって、やっぱり僕の天使だ。


「さてと次はどこへ行こうか? 二人きりになれる場所?」


「ううう、もう……またからかって、そういえば今何時、あ、スマホ電源切ったままだった…………あ」

 スマホの電源を入れるとメールの受信が多数、着信履歴も……全部妹から……


「どうしたの?」


「ご、ごめん、帰らないと、妹が呼んでる」


「あ……そっか、うんじゃあ今日はここまでにしよう」

 彼女は妹が引きこもりという事を知っている。それ僕のせいかも知れないという事も。


「ご、ごめん」


「ううん、いいよ、仕方ないもんね、また明日学校でね」


「うん」


 そう言って僕はかなえちゃんと別れ慌てて家に帰る。

 ラインで妹にどうした? と返信するも、とにかくすぐに部屋に来ての一点張り。


 やっぱりまずかったか……僕は、妹を一人置い行った事、仕方ない事だけど少し後悔する。



 家に到着し、急いで妹の部屋に向かい、ドアをノックする。

 いつもと同じ様に鍵が開く音、少し躊躇しつつ、扉を開けて部屋に入ると妹はいつも通りの寝間着姿で立っていた。


「ど、どうした?」


「お兄ちゃん……どこに行ってたの」

 妹に質問される……当然僕は正直に言った。というか正直にしか言えない。


「プラネタリウムに行ってた」


「一人で?」


「ううん、二人で」


「…………誰と」

 そう聞かれた、物凄い目つきで、物凄く低いテンションで……

 もちろん僕は答えた。答えざるを得なかった。


「彼女と……行ってた……」


「そう…………お兄ちゃん……彼女……いたんだ」


「あ、うん……ちょっと前から」


「そう……私を置いて、彼女と……」


「飛鳥?……えっと」

 僕がなにか言おうとした瞬間飛鳥がパジャマのボタンを外しだす。


「ちょっと……な、なにを」


 僕がそう言っている間に飛鳥は上半身裸になった。下着は着けていない……胸も隠さずに僕の前に立つ。

 でも、僕の視線は二つの小さな膨らみには行かない……そのやや上、首の下の大きな傷に目がいく。


 そう、あれは、あの胸の傷は……僕がつけた傷、僕の嘘でつけてしまった傷……


「私は……この傷のせいで彼氏が出来ない……今後一生出来ないかも知れない……なのにお兄ちゃんは……彼女をつくったんだ……私に黙って」


「ご、ごめん、聞かれなかったから」


「お兄ちゃんが全部言うから! 怖くて聞けないだけ……ダメ! お兄ちゃんは彼女を作ったら駄目!」


「ご、ごめん」


「謝って欲しいわけじゃない、嫌、ず、ずるい、自分ばっかり、ずるいよ、嫌だよ、嫌だよ、やだよおおお、お兄ちゃんーーーーー!」


 妹は僕に抱き付き号泣する、僕は何も言えなかった。妹もそれ以上なにも聞かなかった、何も言わなかった。


 もし、妹に、彼女と別れてと言われたら……僕は……






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