僕の欲望
それから僕と彼女は毎日一緒に帰り、毎日話をした。
学校の帰りに毎日、天気が良ければ公園で、天気が悪ければ喫茶店で、毎日毎日話をした。
凄く楽しい、こんなに楽しく話せるなんて今までなかった、この先もあるとは思ってなかった。
本当にたわいもない話、テレビの話、お笑いの話、学校の話、テストの話、先生の話、たわいもない話を毎日毎日話していた。
、
そう、今まで僕ができなかった、たわいもない話……たわいもない会話。
今までは誰かと話をしても相手の話に興味が無かった時、僕は言ってしまう「興味ない」って……
友達の好きな物が嫌いだった時、僕は言ってしまう「嫌い」って……
当然僕は社交辞令も出来ない。だって自分の気持ちに嘘がつけないから……
それを言ったら相手を怒らせてしまうって分かっているのに、相手の嫌だと思う事を言ってしまう。
そんな事を言ってしまったら、相手を傷つける。誰もがやってる気遣いが僕には出来ない、空気は分かるけど、それを抑える事ができない。
その空気が読めるというのがまた厄介だ。相手の機嫌が悪い時、わざわざ言ってしまう、「機嫌わるいんだ、なんで?」と……相手が聞いて欲しくないってわかっていても聞いてしまう。
当然嫌われる、嫌がられる。
だから、僕はなるべく人と喋らないようにしていた。話さなければ嘘はつけない、余計な事は言わないで済む。
でも彼女は違った。僕が興味が無いとつい言ってしまっても、「まあまあ聞きなよ面白くなるから」と言ってくれる。
僕がそれは嫌いと言っても、「でもひょっとして私の話しを聞いたら好きになるかもしれないよ」と言ってくれる。
彼女は僕が何を言っても、怒らない、イラつかない、いつも笑顔でいてくれる。
それに気付いた時、僕は当然彼女に聞いた。すると彼女は……
「うん、だって遊馬君のいう事は全部本当の事なんだもん、分かりやすくて凄く楽」と言った。
それがどう言う事かと尋ねると、いつもは相手がなんでそんな嘘をつくか考えてしまう。相手の裏を読みに言ってしまう。だからすぐに覚めてしまう、会話が面白くなくなってしまう、という事らしい。
だから僕と話すのは凄く楽で凄く楽しいそうだ。
そしてこの数日で僕は彼女の凄い事がもっとわかった。
彼女は僕が傷つくような事はなるべく言わせないようにしている。
例えば性的な話だ。僕の性癖や趣味、心の底にあるドロドロした願望、過去の失敗、そういう嫌な事、隠していたい事は絶対に聞かない。言わせない様に誘導さえしている。
凄いと思った、それも気付いた時に言ったら彼女は「当たり前だよ、私は遊馬君の事は遊馬君よりしってるから」といつものセリフを言う。
この数日で僕は彼女にどんどん惹かれている。僕は彼女の事が、かなえちゃんの事がどんどん好きになっている。
もっと話したい、もっと一緒にいたいと思っていた。そして……
「ねえ遊馬君、そろそろ帰りにだけじゃなくて、休みの日にも合わない?」
「あ、うん……そうしたいんだけど……でも妹が……」
「あ、そうだね……」
「ううん、僕も会いたい……ちょっとくらいなら大丈夫かも」
「ほんと!」
「うん……多分?」
「あはははは、多分か~~」
「あ、うん、でも……あまり遠出をしなければ大丈夫」
「ほんと!じゃあ明後日、日曜日会える?」
「うん、多分大丈夫だと思うんだけど、何かあるの?」
「うん、前から彼氏と一緒に行きたい所があるんだ~~」
「ど、どこに行くの?」
「内緒!じゃあ明後日駅前に12時ね」
「うん、いいけど……内緒って、気になるな~~」
「そんな変な所じゃないから大丈夫だよ」
「は~~い」
そう言われ僕は素直に返事をする。
「可愛い可愛い」
いつもの笑顔、学校では一切見せない、僕にしか見せない笑顔に僕はドキドキしてしまう。可愛い……
「か、可愛いのは、かなえちゃんだよ~~僕の笑顔……僕だけの笑顔……可愛い……」
「あははは、ありがと」
明後日生まれて初めてデートをする……ああ、かなえちゃん……好き……大好き……
でも大丈夫だろうか……今までは考えないように、していた、してくれていた。でも……デートってなると、そうはいかない、僕は絶対に考えてしまう……
彼女とキスしたい、彼女とエッチな事がしたい、彼女が欲しいって事を……僕の欲望を考えてしまう。
そうしたら、言ってしまう、僕のドロドロした部分を……僕の黒い心を、彼女に……言ってしまうかもしれない、その時彼女は今までの様に、笑って流してくれるんだろうか……
怖い、怖いよ……彼女に嫌われるのが怖い、この楽しい日々が無くなるのが……怖い。
僕はもう……彼女を失うのが怖い……