ずっと一緒に
「遊馬君、帰ろ」
放課後光る金髪をなびかせて僕の席に来る、叶ちゃん。
ああ、憧れの彼女との下校、でもこれが最後になるかも……
最初で最後の彼女との下校になるかも知れない……
僕は手早く帰り支度をして席を立った。
今は春、桜は散り暖かい日が続く、朝晩はまだ肌寒いが日中は既にコートも要らない。
新入部員が声を上げる野球部の練習を横目に、僕と叶ちゃんは並んで校門をくぐる。
やはり彼女と歩いていると目立つ。下校する生徒が皆叶ちゃんを見ている。
金髪美少女と歩く優越感が僕を襲う。でも僕は今から言わなければいけない……彼女の為に、そして自分の為に……
帰り道は比較的一緒、彼女の家は僕の家から歩いて20分、比較的近い所に住んでいた。
駅から反対方向の帰り道、住宅街であまり人気がない道に入った所で、僕は授業中ずっと考えていた話しを切り出した。
「あのね……叶ちゃん……やっぱりこの僕達の付き合い、止めた方がいいと思うんだ……」
「え? いやよ!」
「あーーうん、でも……僕は叶ちゃんを傷つけるのが怖いんだ」
「何で?」
「それはやっぱり他人を傷つけるって言うのは誰でも怖いと」
「違う違う、何で私が傷つくの?」
「え? それは僕が何でも正直に言っちゃうから」
「うん、そうだね、でもそれで何で私が傷つくの?」
「え?」
「ん?」
「あれ? 話が噛み合わない」
「うん、噛み合って無いね」
「え? だって僕が叶ちゃんに性格が悪いとか性格がキツイって言ったら傷つくよね」
「私って性格悪いの?」
「ううん、優しいし頼りがいがあるし、他人に少しキツイけど、僕は好きだよ」
「えへへへへへ、ありがとう……それで、私が傷つくの?」
「あれ? えっとじゃあ、例えば叶ちゃんって僕の好みじゃないとか言ったら」
「私って遊馬君の好みじゃないの?」
「ううん、凄く綺麗な髪にフランス人形の様な顔、小さな唇、スタイルも良くて足も長い、僕の好みなんて超越してて凄く好き……」
「えへへへへへへへへ」
「いや、あのね」
「ごめんね、分かってる、遊馬君の言いたい事は、でもね、私はそんな遊馬君が好き、遊馬君なら私……心の底から好きになれると思うの、あなたは私の理想の人、だからね……私の事をもう少し信じて」
「でも……僕は男なんだ、欲望だってある……それが叶ちゃんに漏れる、僕の嫌な部分が叶ちゃんに知られる。それも……怖い……叶ちゃんに……嫌われるのが怖い……」
僕は下を向きそう言った。「情けない、こんな男、嫌いになるよね、分かってる僕は叶ちゃんにふさわしくない」あ、ほら今また喋ってる……自分の思いが勝手に出てくる……決して作者が地の文を間違ってセリフにしてしまったわけじゃない……僕は……心の声が漏れる、自分の意思に関係なく。
僕がそう言い下を向いていると、物凄くいい匂いと柔らかい感触が僕を包む……え、ええええええ!
「分かってる、分かってるから、大丈夫だから……ね?」
叶ちゃんはそう言いながら僕を抱き締める。
「で、でも今だってこんな優しい声をかけてくれているのに、叶ちゃんの匂いと感触に興奮してしまってるんだ、僕は…………最低だよ」
「あはははは、それってとっても嬉しい事だよ、私に興奮してくれてるなんて最高の誉め言葉……」
「え! でも!」
「人間なんて欲望の塊、男女が一緒にいたら絶対にエッチな事も考える、分かってるよ、でもそれを隠す方が私は嫌、可愛いねって近寄ってくる男が私の胸や身体をチラチラと見る……その視線が嫌……見たければ堂々と見れば良いじゃない! 隠れてこそこそされたり回りくどい事を言って来る方がよっぽど見苦しい」
「そんな事されてるの! 僕の彼女に許せない、誰! どいつ? 殴りたい!」
「まあまあ、良いのよそんな人だらけだから……ほら私ね目立つでしょ、もう慣れっこだから、怒らないで、ね?」
抱き締められ頭を撫でられる、まるで子供あやす母親の様に、懐かしい……天国に行ったお母さんの様に。
「う、うん……」
「遊馬君の事、理解しているつもり、ううん、まだ全部理解出来てないかも知れない、でも遊馬君はね、私と一緒にいた方がいい、あなたの事を一番理解しているのは私だから」
「そうなの?」
「うん! 私は遊馬君の事、多分遊馬君より理解しているよ」
「ええええええええ!」
「言ったでしょ、私……嘘はわかるの、何でもね、だから嘘をつけない人って言うのもわかるの……」
「それってどういう」
「貴方……遊馬君は私と一緒にいないとね……壊れるの……心が壊れる……いつか必ず」
「そ、そんな……」
「そして私も……いつか壊れる……ううん、もう既に壊れかけているのかも……だから私たちは一緒にいるしかない、遊馬君が壊れないように、私が壊れないように」
「一緒に」
「うん! ずっと一緒に……嫌?」
「嫌じゃない……けど」
「けど?」
僕がそう言うと、叶ちゃんは僕をそっと離し、顔を見る、目を見つめて来る。
「叶ちゃんが言ってる事を全部信用したわけじゃないって事は知って置いて欲しい」
「うん当然!」
ニッコリ笑う叶ちゃん、まるで天使の様に……本当なのかも知れない、彼女は僕を救える天使なのかも……
「じゃじゃあ……帰ろっか……叶ちゃん」
僕は手を出してそう言う。
「うん! 遊馬君」
その手を繋いでくれる叶ちゃん。さっき迄この手を、叶ちゃんを離そうとしていた事に後悔する。
でも……叶ちゃんが言ってた事を全部信じたわけじゃない、ただ……なんとなくそんな気がする事だけはわかった。僕はこのままだと壊れる……いや、もう既に崩壊寸前だったかも知れない。
そして叶ちゃんも…………
僕たちは出会うべくして出会った。
お互いがお互いを守る為に……出会ったのかも知れない。