妹は引きこもり
萬田さんと付き合う事になった!
僕に彼女が……生まれて初めての彼女が出来た。
嬉しい、思わずスキップをしてしまう。
ただ、まあ……うまくいくわけが無い、そもそも萬田さんは付き合ってみようと言った。
そう、みようだ……とりあえずって意味だ。
僕は思った事を口にしてしまう、建前が言えない、質問にはすべて答えてしまう。
ああ、でもね、別に通りすがりの人に、あなたの髪薄いですねとか、胸が大きいですねとか、言うわけではない。
それをしたら、場合によっては逮捕されちゃうよ。
僕は会話をしていると、つい本音を言ってしまう。会話の中で嘘がつけない……だからあまり人とは喋らないようにしている。
そして一つだけ、僕は嘘を付ける方法がある……それはネット……
相手を見なければ、トラウマに捕らわれない、メールならば嘘がつける。
それを彼女は知らない、自分から言うつもりは無い。
僕は隠し事が出来ないわけじゃない、嘘がつけないだけ。
会話の中でメールで嘘ってつけるの?とか言われれば別だけど……
家に帰ると僕は部屋に戻りラインを送る。さっき連絡先を交換した萬田さんにではない……妹にだ。
『ただいま』
『遅い……』
『ごめん』
『ご飯お願い』
『はい、今作るから』
『早く』
『分かった』
そう返信をし着替えてからキッチンに向かう。
途中にある部屋の扉を一瞬見つめてから……
そう、妹とラインで連絡をしていたが、妹は別に他の所に住んでいたわけではない。
僕の部屋の隣に居る……
小学生の時、僕がついた些細な嘘、そのせいで妹は大怪我を負った。
長期入院長期リハビリ、僕も小学生だからなんて言い訳は出来ない。泣いて泣いて泣きじゃくって妹に謝った。
命に関わる様な怪我ではなく、大きな後遺症が無かったのは幸いだった。
その後妹は学校にも通っていたが、中学に入った頃から不登校気味になり、今は完全に引きこもってしまっている。
僕のせいでは無いと、妹も含めそう言ってくれては居るけど……でも僕は嘘だと思っている……
キッチンで手早く料理を作る。今日は萬田さんとお茶をしていたので買い物はしていない、なので家にあった物でなんとか作った。
「冷凍食品はあまり使いたくないんだよな」
野菜炒めと唐揚げ、唐揚げは冷凍食品の物、お味噌汁を作りご飯をよそって、妹の部屋に持っていく。
家は僕と妹と父親の3人暮らし、母は2年前に他界、妹はそれから不登校気味になり、引きこもってしまう。
父は、母の死が原因だからと言っては居るけど……でも……多分違う……あれが原因の一つだ。僕はそう思っている。
「飛鳥」
妹の名前を呼びながら部屋の扉をノックすると『カチャリ』と鍵が開く音がする。
お盆に乗せた味噌汁をこぼさないように慎重に扉を開ける。
まだ外は明るいが、カーテンが閉じられている為部屋は薄暗い。
扉の近くに妹が立っている。
妹は黒いロングの髪を二つに束ねていた。いわゆるツインテール姿、身長は低く中学生には見えない、さらに顔は童顔、身体はかなり細く幼児体型、胸も小さくって僕は何を、ああ、嘘がつけない……そして寝間着姿でいた。
「ここで食べるよな」
「うん……」
「僕も一緒に食べるか?」
「ううん」
妹はそう言って首を振る。
「そっか……たまには一緒に食べような、じゃあ置いていくから」
「うん……お兄ちゃん」
「なに?」
「ごめんね……」
「良いよ……何か欲しい物あるか?」
「ラインする……」
「うん……じゃあ」
「うん」
そう言って部屋を後にする……妹はあまり喋ってくれない、それは僕の事を思ってだ。そう妹は知っている、僕のトラウマを……
何でも正直に言ってしまう僕、その僕の本心、例えば引きこもりの事とか、妹をどう思っているか、それを聞くのが怖いんだろう。
だから何か話す時は主にラインやメールを使う。ネットでやり取りをする。
それが僕達兄妹のやり方、誰でも怖いよね……その人の本心を聞くのは。
僕はこれで、こんな状態で萬田さんと付き合う……本当に? 萬田さんは僕の本心を受け止めてくれるのだろうか? 無理だ……絶対に……僕は普通の人間だ……聖人君子じゃないんだ。
感情がむき出しの人間なんて……怖いだけ……怖いだけだよ。
僕は妹を傷つけ、他人も傷つけ、そして今、初めての彼女も傷つけようとしている。
怖い……でも……でも……彼女なら……僕を、僕の心を救ってくれる、僕の呪いを解いてくれる、そんな期待も微かに感じていた。