こんな人がいたんだ
放課後、僕と萬田さんは駅の近くにある、女神の喫茶店に来ていた。
各々がセルフでコーヒーを頼み、空いてる席に着く。
かなりの美人で、しかも金髪姿、彼女といると物凄く目立つ。
店に入った瞬間に周りから注目されているので僕はちょっと緊張していた。
「あーーもう、あの店員嘘ばっかり」
席に着くなり先ほど注文を聞いていた店員を愚痴り始める……
「どうしたの?」
「私が頼んだ品物無いって言ってたけど、あれ嘘……なんだろう誰かの為に取ってあるって感じがする」
「本当にわかるんだ」
「うん、今のは目が泳いでたし、言葉尻に切れがなかった。比較的簡単にバレる嘘ね」
「へーーー凄いね。僕はまた良くいる超能力的な事を自ら語って、自分は特別な人間だって思っている痛い人だと思ってたよ」
「ふーーん、嘘がつけないって本当なのね」
「あ、ご、ごめん」
「良いのよ……そういうの好きだから」
「そういうのって、罵られるのが?」
「違うわよ!」
「あ、ごめん」
「本当に謝って……るわね~~」
「あ、うん、悪いとは思ってるんだ、でも本音がつい……」
「そうか……でも……嘘をつかないって……そういう事か……」
萬田さんは、何か気がついた様子で深く考え込んでいる。どうでも良いけど、やっぱり可愛いな……この娘……
「そういう事って?」
「私ね、嘘が嫌いなの、妹が子供の頃から凄い嘘つきでね、今でも嘘ばっかりなんだけど、その妹に騙されないように、嘘をつく時の表情とか、しゃべり方とか色々研究したの……そうしたら段々とわかって来て……でも今は逆にわかりすぎちゃって……皆嘘ばっかりつくの……本当……誰も信じられない」
「ああ、まあそうだよね、それで?」
「うん、嘘が嫌いだけど、嘘をつかない人なんていないし……だから我慢して生活しなくちゃって思ってた。だけどやっぱり、つかなくても良い嘘とか許せなくて、つい言っちゃうんだよね、それで皆に嫌われて……私ね諦めてたの……心の底から信用出来る人なんて現れないんだろうなって……でも……いた、いたんだって、今凄く嬉しい」
「えっと…………え? ひょっとして……それが……僕?」
「うん! 嘘をつかない人なんているわけ無いって思ってた。でも、いたんだ、本当にいたんだって……信じられない……」
萬田さんは僕を嬉しそうに見つめる。その柔らかな表情に思わずドキドキしてしまう……でも僕は君とは違う……僕は嘘が嫌いなわけではない、嘘をつかないといけない事もあるって知ってる。だけど……怖い、それがその人に、その人の生活に……人生に、どう影響するかわからない。妹の様に……僕は……それが……怖い……怖いんだ。
「でも……僕は、嫌なんだ、嘘をつかないって、時に人を傷つけるんだよ……僕は、こんな自分が……嫌いなんだ」
「そんな事ない!」
「あるよ!」
「無い! 絶対に無い! 私なら……嘘が嫌いな私なら、絶対に傷つかない! 嘘をつかれる方が傷つく!」
「そんな事言えるのは今だけだよ」
「そんな事無い!」
「あるよ……今までそうだった、皆を傷つけて、僕はいつも一人に……」
「じゃあ……やって見ようよ!」
「やるって……何を?」
「私達……付き合って見ようよ!」
「え?」
「私達付き合って見ようって言ったの!」
「え、えええええええええええ?」
付き合うって、彼氏彼女の付き合うって事だよね、つまり……
「本音で、何も隠し事無しで、心の底をさらけ出して付き合えるなんて、最高だよ! 嘘が大嫌いな私にとって貴方は理想の人……だから付き合って見ようよ!」
「…………本気?」
「うん! 勿論!」
「僕は嘘がつけないんだよ? 君が嫌いになったらそう言っちゃうんだよ?」
「うん! じゃあ聞くね? 今は?」
「え?」
「今は?……今は私の事……嫌い?」
「…………好き……かも」
「あははははははは、じゃ決まりね!」
「あああああああ………………う、うん……えっと……じゃあ……宜しく……お願いします」
こうして嘘のつけない僕と嘘の嫌いな彼女、僕達はあっさりと付き合う事になった。