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陰と陽


 今までずっと影にいた。人となるべく話さない様に、関わらない様に生きていた。


 妹が僕の嘘によって大怪我をした時、僕もまだ小学生だった。


 かなりの罪悪感を抱え、二度と嘘は付かないとその時は思い誓った。

 まあ、当たり前だよね、僕の些細な嘘から妹はもう少しで死ぬ所だったんだから。

 でも当時は僕もまだ子供だった、今の状態、嘘のつけないって状態になっている事にはあまり気が付かなかった。


 子供の頃って比較的なんでもはっきり言っちゃうよね、嫌いな人には嫌い、好きな人には好きって、だから僕はそれが特に変だとは思わなかった。


 それが変だと言う事に気が付いたのは中学に入ってからだ。

 ある時僕はつい言ってしまったんだ、クラスの女の子に可愛いって……


 可愛い……当然悪口じゃない、でもさ、ろくにしゃべった事も無いほぼ初対面の人からいきなり可愛いって言われたらどう思う?


 僕はつい言ってしまったんだ、中学で初めて会ったクラスメイトに……そして、言われた……


「キモ」って……


 ですよね! 僕もそう思う……


 それからだった、僕が周りと違うと感じたのは……僕は嘘がつけない、思った事をつい言ってしまう、それにより人に変に思われたりすると言う事を。


 治そうと思った、でも嘘をつこうとするとあの時の映像が甦った。血だらけで横たわる妹の姿を……

 僕は震えが止まらなくなり、汗が全身から吹き出し、そしてトイレで吐いた……泣きながら……


 そしてこの時、嘘はどうにもならないと悟った。でもこのままじゃ……僕は僕自身に問いかけた、どうすれば良いのかと?


 そして気が付いた……嘘は駄目だが、言いたい事を抑えるのは多少可能という事を。そう、言いたい事をわざわざ言いに行く必要は無いからだ、そこに僕のトラウマは無い。


 ただ喋っている時、頭に浮かんだ言葉を飲み込む、言い換えると言うのは、嘘をついてるのと同じだと思った、思ってしまった。


 こうなるともう駄目だ、そもそもあの時、母さんにテレビが見たいと言っていれば、うんと返事をしなければ、僕のトラウマもここまで酷くはならなかったかも知れない。


 それから僕は人を避ける様になった。なるべく人と話さない、そして友達も恋人も作らない。それが最善の方法、それが一番の方法……そしてそれは上手く行った。まあ上手く行ったと言うと変だ、僕は何もしてない、ただ嘘をつかなかっただけ、たったそれだけで孤立していった。誰も僕に話しかけて来なくなった。


 でも僕はこれで良いと思っている。これは僕の罪なんだ、罪には罰が必要なんだと……


 僕は人を一人殺しそうになっている。僕の嘘によって人を、妹を大きく傷付けている。本来ならば刑務所にいかなくてはならない事、あれからまだ10年も経っていない……そんな軽い罪じゃない……だからこれでいいと思っていた。


 でも……こんな僕に手を差し伸べてくれた人がいた。僕の事を理解し、そしてこのトラウマを素晴らしいと言ってくれた人が現れた。


 この数年、ずっと日陰にいた。僕はそれだけの事をした、これが当たり前だと思っていた。


 でも……僕の手を取り僕を日陰から日の当たる所に引っ張ってくれる人が現れた。日の当たる場所で僕を優しく包んでくれる人が……


 もう二度と当たれないと思っていた日の光、今の僕には眩しく目を開けられない様な世界だった。でも彼女は僕の手を取り、どんどん進んでいく。

「暖かいよ、明るいよ」と言ってくれる。


 そして僕は知ってしまった、会話と言う暖かさを、彼女と言う明るい未来を……


 でもこれで良いのか? だって……今、妹は僕のせいで暗い世界にいる。

 僕のせいで暗い部屋、誰もいない部屋に一人でいる。


 今、僕だけが明るい場所に、暖かい場所に来てしまった。妹を置いて僕は彼女と来てしまった。僕はまだ罪を償ってはいない。妹の傷は癒えていない。


 知らなければ良かった……この暖かい世界を……

 知らなければ……日陰が寒いとは思わなかった。


 もう戻れない、この暖かさを知ってしまったら……もう帰れない、あの暗い世界には……


 でも……妹はどうすればいい? 妹は僕のせいであの世界にいる。

 そして妹があの世界にいる限り、僕の罪が許される事は……無い。

 

 だから僕はこれ以上暖かい場所に来てはいけない、これ以上幸せになってはいけない……それが僕が出来る妹への贖罪。


 でも彼女は? 叶ちゃんは? 


 彼女はそんな僕と居て…………幸せなんだろうか? 幸せになれるんだろうか?




 

さあ、この暗さにどれだけの人が我慢出来るのか……(´・ω・`)

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