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マッサージ


 妹が退院した後僕は一生懸命看病をした。

 片足をギブスで固定されていた為、妹の生活は支障だらけだった。


 父さんの仕事が特殊で、家に中々帰って来ないってのもあり、僕と母で妹の世話をしていたが、母も仕事がありかなりの負担を強いられていた。


 ……もしかしたらこの時の負担が後に母の病気に繋がったのかも知れない。


 僕はお風呂からトイレ、食事の世話、やれる事は全部やった。

 ギブスが外れた後のリハビリも行ける限り僕が付き添った。

 小学生だった僕がどれ程役にたったのかはわからない、でもやれる限り出来る限りはやったと思った。


 それで僕の罪が軽くなるわけじゃない、でも僕は出来る限りの事をやった。


 その甲斐あってかわからないが、妹の怪我は快方に向かい、ギブスも外れ、リハビリも上手くいき、大きな後遺症も残らなかった。


 僕はほっとした、これで僕の罪が無くなったわけでは無かったが、それでもその時は一安心出来た。

 

 しかし4年後、妹が突如足が痺れると言いい始めた。母さんが病気で入院した直後だった。

 病院に連れていくも異常はない、でも妹は時々「足先が痺れている、歩けない程痛い時がある」と言い出す。


 そしてそれをきっかけに学校もちょくちょく休む様になり、今は完全に引きこもってしまっている。

 

『お兄ちゃん、今日はお願い』


『うん、了解』


 妹からのメッセージが入る。僕は何も聞かずに了解と答えるとキッチンに行き、お湯とタオルとオイルを準備して妹の部屋に向う。


 部屋の鍵は開いており、扉を開けると妹はベットに横たわっていた。


「痛い?」


「うん」


「そか……ごめんな」


「ううん、お兄ちゃんのせいじゃないから……」

 いつもの会話、これはどうしても言ってしまう、そして妹はいつもの通りに答える。

 もう何年も続いているこの一連の流れ……


「じゃあやろっか」


「うん」

 妹は既にパジャマの下を脱いでいる。下着は勿論着けている。

 ベットにバスタオルをひき、その上にうつ伏せで寝てもらう。

 僕は持ってきたお湯にタオルを浸けた後によく絞り妹の太ももにかけ足を温める。

 その間にオイルを手に馴染ませ準備、頃合いを見てタオルを取り太ももにオイルを垂らす。


 今でもうっすらと残る太ももの手術痕、胸の傷とは違いメスで切った傷なので、それほど目立たない。それでも傷は傷だ、僕が付けたもう一つの傷痕……


 その傷痕をゆっくりと撫でる。僕の罪が妹の傷が少しでも消える様に、足をマッサージする。


 マッサージと言っても筋肉痛やコリがあるわけではない。そのため圧したり叩いたりということは一切しない。


 スポーツマッサージという物とアロママッサージという二つの手法を用いた独自のマッサージ方法。妹の為に僕が一生懸命勉強した僕独自の妹の為のマッサージ。


 痛みを緩和すると言われているアロマオイルをすりこむ様に妹の太ももを撫でる様にマッサージする。


 心臓方向にゆっくりとゆっくりと。


 しっとりとする妹の肌、痛みが消える様にと祈る様に僕は一生懸命マッサージをする。


「痛くない? 大丈夫?」


「うん、気持ちいいよ」


 その言葉にホッとする。足の踵から太ももの付け根に向かってゆっくりと、撫でる様にマッサージをする。そして反対の足も同様に行う。

 怪我をしてない方の足もマッサージする。理由は痛みをかばう為に、歩く際負担がかかる、そしてそれが原因で怪我をしてない方も痛める可能性ある為に行う。


 ゆっくりと30分程かけて踵から太ももの裏をマッサージ、今度は仰向けになって貰い同様にマッサージをする。


 一生懸命一生懸命マッサージした。僕は無心にマッサージをした。妹の痛みが消える様に、傷が少しでも消える様に願いながら一生懸命にマッサージをした。


「どう?」


「うん……だいぶ良くなった……」


「そか……寝れそう?」


「うん、ありがと……お兄ちゃん」


「いいんだよ、また痛かったら我慢しないでいつでも言ってよね」


「うん」

 紙を使いオイルを拭き取りさらにタオルで丁寧に拭き取る。ベットにひいたバスタオルを回収する。これでマッサージは終わり……後は……


「お風呂は? 準備する?」


「ううん、今日はシャワーでいい」


「そか、一人で大丈夫? 歩ける?」


「うん、大丈夫」


「そか、無理だったら言いいなよ」


「うん、ありがと」


 妹が怪我をした時、2階のトイレの隣にあった物置きを改築してもらい、シャワールームを設置した。

 さすがに狭くてお風呂は作れなかったけど、シャワーなら1階に降りなくても良い。

 お風呂入りたい時は僕が付き添う……階段を降りる時と浴槽に入る時が危ないから。

 勿論一緒には入らないけど、転ばない様に僕が付き添う。


 怪我をした直後はトイレの世話もやった。当たり前だが妹の身体を見て何か感じる事は無い。でも中学になった時に一度聞いた事がある。恥ずかしくないかと……でも妹は「お兄ちゃんなら全然平気だよ」と言った。


 嘘かも知れない、内心は恥ずかしいのかも知れない。かといって父さんに頼むわけにはいかない、ヘルパーさんが来てくれるわけじゃない。

 僕しか出来ない事、聞いてはいけなかった事。


 僕はマッサージの道具を全部片付け妹の部屋を後にする。もう何も言わない、言う事がない、もう何も思い浮かばない。今まで散々謝った、妹も散々謝った。これはもう何年も続いている事。これは僕たちの生活の一部……お風呂に入る様に、ご飯を食べる様に。








 

 


 

新作集中投稿これで終了します。

この後は自分の連載作品のブクマ数の多い物から優先で更新します。


自作トップ作品に近づける様に、ブックマーク、評価、感想等宜しくお願い致します。

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