廃れゆく土地神
話は現在に戻る
世界に存在する神はアリシアだけではない。今も尚、地球上の至る所に神と呼ばれる者がある。だが、代行者としてだ。アリシアと沙希が持つ神の欠片、あれがひとつからふたつに割れた時、極小さな破片ができた。それはふたつに比べればゴミみたいなものだが、曲がりなりにも神の欠片だった。
それをアリシアが有効活用しようと、地球上の資格あるもの達に与えていったのが始まりだ。
「んー、こっちのほうかしら。」
沙希は何となく破片の場所がわかるようだ。
車を走らせること1時間、辺りは沢山の木々に囲まれ、目の前には大きな山がそびえ立つ。
「ここら辺かしらね。早くお家に帰りたいっての。」
嫌な予感を感じてか、護身用の木刀を身につけ車を降りる。
「とりあえず、適当に散歩でもしましょうか。」
改めて自分の手にある木刀を見つめてみる。
ちょっとだけ、緊張するな。
はじめてのおつかいは、誰でも緊張するものだ。
舗装されてない山道を歩くこと小一時間、少し拓けた場所に鳥居がある。
「この鳥居、ちょっとへん。」
なんだろう。鳥居の中の風景が重なってる見たい。
けど不思議。さっきまでの嫌な感じが全くしない。
沙希は鳥居の中に足を踏み入れる。待ち受ける試練を知らずに。
鳥居の中をくぐると、そこには古びた神社があった。後ろを振り返るも先程通ってきた鳥居の姿はなく、代わりに永遠と続きそうな下り階段がある。
「これを降りるのは骨が折れそうね。」
「そんなことはない。帰ろうとすれば、帰ることはできる。道とはそうゆうものだ。」
声の方向に振り向くと、そこには曲がった杖を支えに立っている老人の姿があった。沙希は声に反応することなく、木刀に手を伸ばす。
「そんなに警戒するでない。助けてやった恩を仇で返すのか。」
「助けた?私は別に助けて貰う必要などない。」
「気づいていないなら仕方あるまい。あの鳥居はただの鳥居ではない。魂のみが通ることの許された、この世と肉体に別れを告げる代物じゃよ。」
老人は髭を擦りながら言った。
沙希には目の前の老人が敵か味方か区別が付かずにいた。
先程の言葉を信じるのなら、この老人が私を助けてくれたのは事実。でも、証拠がない。
いや、あの鳥居の中は二重に見えていた。あれは私を守るための結界のようなものなのかもしれない。
沙希は老人を見た。正確には、老人の本質を。見た目に惑わされず、物の本質を見る。これは誰にもできることではない。たとえ、目の前の老人にも。
「私の勘を信じることにしようと思うの。先程は助けてくれてありがとうございました。」
「まあ良い。こっちへ来なさい。話がある。」
老人はそう言って、沙希に背中を向け歩き始める。
その瞬間、駆ける。今の自分の精一杯の力を脚に込めて。
時間にして1秒にも満たなかっただろう。沙希が抜いた木刀は、老人の背中目掛けて振り下ろされ、切れる。背中から溢れるものは、血液ではなく、黒く禍々しい力の塊。それは、沙希が山に入る前に感じたものと一緒だった。
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