不良
告白してきた男子生徒が走り去ったのを見届けると、へらへらと笑いながら不良生徒たちが沙紀に近づいてくる。3人で囲うような位置取りに着くと、そのうち身長の高い男が沙紀の肩に腕をかけようとした。
「私の身体に触れた瞬間、あんたの腕折るわよ。」
沙紀が腕を肩に回そうとした男に警告する。沙紀の声には、本人の意思とは無関係に、途轍もない威圧が込められていた。恐らく、この声を聞いたものがただの一般人だったなら、得体の知れない沙紀の迫力に負けて逃げ出していただろう。だが、彼等は逃げなかった。女にビビッて逃げるのは、男としてプライドが許さないのか、それとも今までに少なからず何度かは、恐怖と呼べるものに立ち向かったことがあるのかもしれない。いずれにしても、沙紀の最大限の優しさを無視し、背の高い男が憤慨した様子で沙紀につかみかかろうとする。
「てめえ、女だからって手出されないと思ったら大間違いだぞ!」
「あんたこそ雑魚のくせに、高貴なこの私に触れようとするなんて、大間違いよ。」
それは一瞬の出来事だった。3人が視認できないであろう速さで、沙紀は男の腕を折った。折られた本人も何が起こったのか分からず、少し角度のついた自分の腕を見つめていた。
「二度とちょっかいかけんじゃないわよ。次見つけたら全員の足を折るわ。」
沙紀は不良3人に軽い脅しをかけ、まるで何事もなかったかのように歩みを進めた。後ろからは腕を折られた男の苦痛の声が聞こえてくる。
(いいのか?あんなことして)
(いいのよ。ああゆう輩は学校にチクったりしないだろうし、万が一報告されても知らないふりするわ。誰も私がやったって信じないわよ。)
(それより、いつからお前は高貴な身分になったのだ?)
(そんなのノリよ。それに今ならあながち間違いではないでしょ。)
(神と人では天と地ほども違うのである。お前は神である私に、最高級の肉を用意するがよい。)
(消えかけのくせによく言うわ。まあ、今日くらいはいい肉買ってあげるわよ。)
(うむ。肉に免じて我への狼藉は許してやろう。)
沙紀へ伝えなければならないことがあった夜だが、肉への興奮でそんなところではないようだった。
沙紀は隣駅にある肉屋へ行くのを、走っていくか電車で行くか迷ったが、今は下校時刻真っ只中であり人目があるため電車で行くことにした。沙紀の学校は駅の目の前にあるため交通の便がよく、寄り道する生徒も非常に多い。切符を買い駅のホームで電車を待っていると、自然と周りの視線が沙紀に向かっていく。
(やっぱり変ね。)
(そうだった。沙紀、お前に伝えなければならないことがある。お前の中にある神の欠片の影響についてだ。)