ラブレターなんていいことない
(やっと学校終わったわね。さっさと夕飯買って家に帰りましょうか。)
(うむ。我はステーキを所望するのである。)
(あんた、少しは遠慮っていうものを知ったらどう?)
(我の辞書にそんな言葉は存在しないのである。)
(はいはい、分かったわよ。)
特に誰からも話しかけられることはなく、沙紀は終業のチャイムが鳴ったら教室を出た。軽い足取りで下駄箱へ向かい、靴を取り出そうとするとなかに手紙が入っている。
(ラブレター?)
(であろうな。やはりモテる女は違うな)
(うっさいわよ。)
今すぐ中身を確認したいが、周りにちらほらと下校する生徒が見え始めたため場所を移動した。近くにあった来客用の女子トイレに入り、改めて手紙を見る。差出人の名前は書かれていないが、なんとも丁寧に封がされている。きっと几帳面な性格なのだろう。夜から催促されるような思念を感じたので、人生初めてのラブレターを開封していく。そこには今日の放課後、体育館裏で待っていますと書かれていた。
(仕方ないわね、とりあえず行きますか。)
(早く済ませて買い物にいくぞ、いい肉がなくなってしまう。)
初めてラブレターを貰った沙紀だが、正直言って嬉しい気持ちよりも面倒くさい気持ちのほうが勝っていた。よく青春物語に出てくるようなことだが、あれは本当にラブレターを貰った側の気持ちは表現できていないのだろう。仮に相手が想いの寄せる意中なら話は別だろうが。体育館裏に向かう途中、少々柄の悪い男子3人グループに目をつけられた気がしたが、さして問題じゃないので足取りを緩めることなく目的地へと向かう。沙紀の高校は他と比べて無駄に敷地が広く、場所によっては移動するのに苦労する。ほどなくして体育館裏に着くと、そこには面識のない男子生徒が立っていた。向こうは沙紀の存在に気が付くと速足でこちらへと向かってくる。
「あ、あの、来てくれてありがとうございます。それで、その、好きです。付き合ってください。」
恥ずかしがり屋なのか、それとも普段からそうなのか、沙紀の目を一度も見ることなく言葉を捲し立てる。
「ごめんなさい、あなたとは付き合えないわ。それじゃあ」
(随分と軽く振るのだな。)
(子供とは付き合わないだけよ。)
(お前も子供だろうに。)
告白してきた男子生徒から別れを告げて立ち去ろうとすると、先程見かけた柄の悪い3人グループが近づいてきた。
「こんなとこで何してんの君たち?もしかしてお前ら付き合ってるとか?あひゃひゃひゃひゃ」
下品な笑いの絶えないこいつらに、沙紀は軽蔑の眼差しを向けているが、一方で告白してきた男子生徒はビビッて下を向いていた。そんな彼に不良グループのリーダーと思われる人物が、腕を肩に回しながら声を荒げる。
「おいお前、用がないならさっさと帰れよ!ああ?」
「ご、ごめんなさい。」
そう言って駆け足で去っていった。
(屑ね。)
(屑であるな、告白した相手を捨てて逃げるとは。それにしてもこんなちんけな輩に絡まれるとは、ぷはっ!やはりモテる女は違うのである。)
(まじであんただけ夕飯野菜にするわよ。)