龍との出会い。
沙紀はお気に入りのサンドイッチを食べるのに町中にある小山の頂上にある休憩所に来ていた。沙紀の住んでいる町には高層ビルや高層マンションの類の建物はないので、ここへくれば辺りを一望できる。中学生からのお気に入りの場所だった。
普段はあまり使わないベンチへ腰を下ろし、買ってきたサンドイッチを広げた。ふわりと鼻に香るバターの匂いはそれだけで沙紀の食欲を刺激した。
(学校抜け出して公園で昼食取るの思ってた以上にテンション上がるわね。)
「時雨か?」
沙紀がサンドイッチを頬張ろうとしていた所に、ベンチ裏の草陰から声がかけられた。振り向くとそこには何やらよく分からない蜥蜴のような小さい生き物が立っていた。仮に生き物が声をかけたのだとすれば只事ならないことであり、沙紀は周囲に気を配りながらその生き物から距離を取ろうと後ずさる。
「お主、時雨かと聞いているのだ。」
「残念ながら人違いよ。」
「そうか。確かによく見ればどこにも面影は見当たらないな。驚かせて悪かったな、人間。」
そう言って蜥蜴のような生き物は背を向け歩き去ろうとしていた。
「待って、貴方は一体何者なの?」
小さな蜥蜴は沙紀の声に振り向き、少し逡巡した後沙紀が先程まで座っていたベンチに座り込み、沙紀に言った。
「これも何かの縁というものだろう。少しばかり話してやらんこともない。」
サンドイッチを間にしてベンチに座り込んだ沙紀が、先程と同じことを聞く。
「あなたは一体何者なの?どうして言葉を話せるの?」
「我は龍である。名前は夜空だ。龍といっても昔のように体が大きくないし、色々と制限が掛かっているがな。」
「龍ですって?確かに言われてみれば背中に翼があるわね。でもまさか龍だったなんて。」
「我からも聞きたいことがある。貴様からは4000年前の友だった時雨という神と同じ気配を感じる。それはなぜだ?」
「神ね。詳しいことは言えないのだけれど、私の身体には神の欠片が宿っているの。もしかしたら私に宿っている神の欠片は、元々その時雨って人のものだったんじゃないかしら。」
「なるほど。確かにそれならば貴様から時雨の気配がするのも納得できる。」
そう言って昔の記憶を懐かしむように、愛でるように、夜空は優しい表情で目を閉じた。
沙紀は感傷に浸っている夜空の邪魔をしないよう、そして恐らく寂しい想いをしているだろう夜空をあやすように、しばしの間頭を撫で続けた。