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ステイタス

 目が覚めると、沙紀は病室と思われるベッドの上で目を覚ました。個室部屋なのだろう。部屋にはベッドは一つしかなく、小さく古いテレビ、冷蔵庫があった。窓から見える景色は一概に綺麗といえるものではなく、あるのは広い駐車場と、申し訳程度に植えられたチューリップくらいだった。


 「そういえば、今日新学期初日だったっけ。」


 チューリップの開花時期は3月下旬から4月半ばだ。非日常のような体験をしたせいで、沙紀は学校のことを忘れてしまっていた。本当なら今頃、新しいクラスメイトや新しい環境に一喜一憂し、高校二年生という青春のスタートを切っているはずだった。新学期初日を乗り遅れた末路は、きっと悲惨なものになるのだろう。沙紀はこの先のことを考えると頭を抱えずにはいられない。


 「まったく面倒なんだから、体も痛むし。アリシアも助けに来てくれたなら、少しは話してってくれても良かったじゃない。せめてひと声くらいかけてくれれば、もう少し気が楽だったんだけどな。」


沙紀は意識を失う瞬間、辛うじてだがアリシアと零のやり取りを見ていた。アリシアが零を殺す瞬間も。

見聞きしてしまったのだから、考えずになどいられない。アリシアと零の会話をすべて聞き取れたわけではないが、一つだけ聞こえたことがあった。


 「神の欠片を取り出すには所有者を殺すしかない」


少なくともアリシアが何か大切なことを隠しているのは分かった。確かに私はアリシアのことをよく知っているわけではないけれど、信じたいという気持ちはあった。けれど、完全に信用できるものと思ったわけでもない。彼女が神だと名乗った瞬間から、私のなかで何かが変わったのを感じた。それはほんの小さな気の迷いかもしれない。けれど、確かに感じたのだ。

 

 沙紀はあれこれ考えるのが面倒になり、再び布団の中に潜ろうとすると、病室のドアが開いた。


 「橘沙紀さん、診察にきました。」

 

 入ってきたのは看護師だった。見た目は20代前半の女性で、髪は栗色のショートボブ。なんとも愛らしい顔立ちをしている。


「沙紀さん?」 

  

 返事がなくただ茫然としている沙紀の顔を、看護師さんが心配そうに覗いてくる。


 近くで見れば見るほど、彼女の可愛らしさが際立って見える。健康的で綺麗な肌、透き通った茶色をした瞳は、見ているこっちが吸い込まれそうになる。そんな彼女に沙紀は何故か見惚れてしまっていた。

 沙紀は自身の顔が火照っていくのを自覚し、それを悟られないよう顔を俯かせる。


 「体調悪いの?」


先程から話しかけてもこれといった反応を見せない沙紀の体調を案じてか、彼女は沙紀の瞳を覗き見る。


 その時ふと、沙紀の鼻をかすめたバラの花の匂いは、あの日神だと名乗ったアリシアの香水の匂いと一緒だった。疑いの目で目の前の看護師を改めて見てみると、ほぼ間違いないと思えるほど雰囲気が似ていることに気づく。沙紀はアリシアが心配して病室に来てくれたことに安堵したのか、心に余裕が生まれた。そのせいか、目の前でくだらない演技を続けるアリシアに対して、ほんの少しの怒りと悪戯心が生まれた。


 「大丈夫です。それより診察は誰がするんですか?」

 「もちろん私ですよ。ベッドから起き上がれる?」

 「普通病院の診察は看護師ではなくお医者さんがするんですよ。アリシア」

 

 「ありゃ、ばれてた?」

 少しも悪びれずもせずに楽しそうに笑う顔を見て、沙紀は先程の不安が消え去っていくのを感じた。


 「どうして看護師の真似なんかしたの?」

 「久しぶりにこっちに来たから、少しはしゃいじゃったの。この姿は、裏庭の芝生で横になって寝てる女の子がいたから少しだけ身体を貸してもらったのよ。それと、沙紀に用があってきたの。」

 

 そう言うと、アリシアは沙紀に向けて指を鳴らした。すると、沙紀の目にはゲームなどで見かけるステイタスのようなポップアップウィンドウが現れた。


 「使い方はゲームと一緒よ。詳しい話はまた今度ね。この後予定があるから、それじゃあね。」

 そう言ってアリシアは病室を出ていった。










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