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神能人離エール  作者: 葉玖ルト
16/22

16話:トリックスター 後編

「神様には神様と悪神がいます。邪神ともいいますねー。

 さらに神様を二つに分けると、神能人離の使い手である『エール』と、扱われる側の神がいます」

「ん? ということは、エールって」


 複数人いるのだろうか?

 ふと抱いた疑問である。そのことを告げると、エールもまた元気よく頷いた。


「そうなのです。出会った時も言いましたが、エールとは神様の証。エールの名こそ神様の証明。私自身にお名前はないのですよー」


 エールがうじゃうじゃ?

 



『倖、わっとっとをよこせなのですー!』

『なのですー』

『なのですっ!』


『『『『なのですーッ!!』』』』


 


 想像して身震いした。

 こんな欲の深い神様が沢山いたら、たまったものじゃない。


「私の名称のことは好きに呼んでもいいのですよ!」

「でも、エールはエールだから」

「倖がいいのであれば、エールはエール、なのですー」


 エールは僕についた肩の砂埃だけをはたくと、ちょこんと座った。どうせなら全部を綺麗にしてくれたらいいのに……。

 自分の座る位置を確保したエールは、話の続きを僕に聞かせてくれた。


「神能人離で呼び寄せられる神様は皆、彼らの許可の下に契約を交わしています。契約を許可した神様がエールに会いにきて、契約の儀……といっても、胸元に触れるだけの作業を行うのです。

 まあ契約を行えば人間界の美味しい物を食べられるので、断る理由はないですけどね!」


 エールはあくまでも皆が皆、食べ物を欲しているように答える。

 ……エールの頭は美味しいものしかないのか。


「一方ロキのような神様は、そもそもエール側がいらないと判断して扱ってもらえない見捨てられた神様なのです」


 確かに……悪戯をする神なんて、人間側からしてもはた迷惑だし……憑依したくないよな。

 そういう運命を背負っているのだから、仕方ないのだけど。


「契約を交わした神様のメリットは、エールと繋がっているおかげで存在消失を免れること。

 さっきも言いました通り、人間界の美味しいものを頂けることなのです!」


 ここでも美味しいもの発言。

 なんだか、遠回しに貢げと催促されているような……。


「契約をされない神様は、神としての役割を全うしていないと見なされて粛清されてしまうのです。

 粛清された神様は信仰者の想いにより、記憶を消失して生まれ変わるのですが、刻まれた定めは変わらないのです。

 それに、消滅する時は壮絶な痛みを伴うと聞くのですー」


 つまり何度、魂が顕現しようが、同じことの繰り返し……というわけか。


「けれど普通の神様が邪神に発展するケースもあるのですよ。

 エールと契約を行っていても、神様が人々に災いをもたらすと、邪神になっちゃうのです」

「邪神になったらどうなるの?」

「神々の力を持って粛清されます。粛清された神様は先も言いました通り、信仰者の意思を持って生まれ変わるのです」


 うーん、神様の世界にも色々とあるんだなあ。特殊な事情ってものが。


「話を戻しまして、それが嫌なのであればエールと契約をして神々のルールから逸脱しなければなりません。

 それは即ち、エールと繋がることで粛清対象から逃れることができるのです。

 神様とエールは、切っても切れない縁なのですよ!」


 僕の肩の上で、パタパタと足を動かしながらエールは神様サイドの事情について説明を終えた。

 今までの説明をまとめると、ロキを放っておけば静粛されることになる。

 このまま悪戯を振り撒き続けても、粛清されてしまう。

 ロキはどう足掻いても静粛を免れないのはわかったが、それがどうして黒木といる理由に……。


「まあ、なぜロキが黒木憬に憑いているのかは結局わかりませんが。

 そんなに黒木憬に、粛清に至るまでの時間を共に過ごすだけの魅力があったのでしょうか?」


 黒木はロキのせいで色々と弱くなった、というわけではなく……元々が虚弱体質だった。体も、精神も、とある理由で病んでいた。

 そのロキも、消滅から逃れるために致し方なく現れて……黒木に目をつけた。


「つまり黒木憬から引きはがすには、ロキを否が応でも引きはがし、送り返す必要があるのです」


 今まで黒木を救うためだと思っていた。ロキを黒木から剥がすことさえできれば、あいつは助かるんだと奮起していた。

 でも今、考えが変わった。片方しか救えない、片方しか救わないのではなく、僕は両方を……救う。


「――それって、契約を交わして神能人離のレパートリーの一部になれば、ロキも消えずに済むってことだよな?」

「はいです! ……って、え?」


 僕が何を言いたいのか理解したのか、エールはぎくりと身を強張らせこちらを見る。僕も真剣になって、顔をエールの瞳に映した。


「いっいやなのですよー! 私のレパートリーにあんなのが混ざるのは気に食わない、のです!」


 ぶんぶんと顔を横に振り、とんでもないと激しく拒絶する。僕は咄嗟にエールに言葉を返した。


「でも! 黒木を……」

「黒木憬だけを救えばいいのです! ぷんぷんっ」

「エール……ッ!」

「ぶう」


 頬を膨らましこちらを睨むエールは、紛れもなくロキを嫌っていた。僕は目の前の神に懇願する。エールから視線を逸らさない。ただ一点を、届け届けと見続ける。

 しかし聞く耳持たぬエールは顔を逸らした。仕方ない、奥の手を使うか……。


「わっとっと、もう買わないよ?」

「う、う、かっ考えるのですっ」


 なんて単純な神なんだ。プライドも何もないのか……ッ!

 さすがに能力に関わることだから、少しは反論してくるかと思った。考えると発言をしたもの、エールの口元が緩んでいるあたり、僕は『プライドとわっとっとの間で揺れてるんだな』と呆れ顔で見つめていた。




「それにしても、ロキもいい迷惑ですねー。私のお仕事が増えるじゃありませんか」

「でも、結局……どうしてロキは黒木を選んだんだろう」


 ――帰り道の河原。

 僕は首を傾げながら、未だにロキがどうして黒木を狙ったのか、意図が理解できず唸っていた。

 腕を組んで考える中、エールは僕の前を先行しながら告げる。


「別に黒木憬じゃなくてもよかった、という疑問なのですか?」

「うん。そこにいたのがたまたま黒木だったのか、それとも黒木に執着する特別な理由があるのか。

 一緒にいても人体に影響がないのなら、黒木を苦しませることが目的なのも違うしなぁ」


 もしかしたら僕の知らないところで、何かが起きているのかもしれないけど。

 『助けて』あの黒木が自分の言葉で、自分の意思で、熊に助けを求めた。

 何に対しての“助けて”だったのか? ああ、考えても混乱するだけだ。


「全貌は、ロキに聞けばわかるのですよー」

「うん……」

「ロキに、ロキの言葉で真実を言わせてやるのですよ! だからそんなに考え込まないで欲しいのですー」


 エールなりに勇気づけの言葉を掛けてくれたのだろう。

 うん、そうだな。

 全てはロキと対峙して、ロキから白状させる。ロキ、黒木、待っていろよ。

 僕はエールと共に、この力でお前達を必ず救い出してみせる。


「さーて、真面目な話をしていたらお腹がすいたのです! ご飯、今日のご飯はなんなのですか!」

「うーん。最近、肉料理を食べてないなー。たまにはすき焼きでもどうかなって思うんだけど」

「わーい! すき焼き、好きなのですー!」


 エールは先程までのしかつめらしい表情とは打って変わり、僕の肩の上に勢いよく飛び乗った。


「わかったからはしゃぐなって!」


 ――帰り道の河原。

 犬を散歩させている主人や買い物袋を抱えた主婦、ランニングを行っている人。通る人、通る人が僕をじっと不思議な物を眺めるように注視していた。けどこの光景にも、もう慣れた。

 ……慣れたよ。


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