14脚^2
鳴り止まぬ感激、止まらない叫び……
そして、今僕はまだかまだかと心臓を高ぶらせている。
簡単に言うと運動会って訳だ。
しかも、二人三脚リレーの時間。
非常にまずくなってきた。なぜなら胸の奥底から失敗の二文字が消えないからだ。失敗したらどうなる?怒られる?失望される?
いや、最悪のパターンがある。
クラスからの孤立。そして、人生のend。
そうならない為には今、勝つしか無い。
僕の順番はよりによって一番最終だった。
ああ!なんで何で!よりによってアンカーなんだよ!益々最悪だ。
「あ、もうすぐ抜きそう。抜いた!!二番だ!こりゃ責任重大だね。」
今、喋ったのは僕のパートナーの仲谷美香。同じ女という生き物。
「ね?美香はまさか酷い結果だったから話もしなくなるなんて事しないよね?私達仲良しだもんね?」
溜まってた疑問をぶちまけた。
「まさか~二人三脚ぐらいで。それに酷い結果になったら、私も悪いんだから。だ・か・ら、気楽に走ろーよ!田美ちゃん。」
その笑顔はもはや狂気だった。人が何を考えてるかなんて全く分かりゃしない。だから、人間という生物は成り立つのだ。しかし、時にそれは憎たらしくなってしまう。それが今だったりして。
「あと二組だ!よし!頑張るぞ!」
僕の肩を叩いて立ち上がった。しかし、テンションが如何せん上がりすぎたらしく足が繋がってる事を忘れてたらしく、転びそうになったがなんとかそれは阻止できた。
「ちょっと!やる前から怪我しそうになってどうすんの!全く……」
「えへへ……張り切り過ぎたね。」
列に隙間が出来たので、僕らはちょっと前に進んだ。ゆっくりゆっくりと。息を合わせるように。
レースを見てると、内のクラスは随分と早いようだ。先頭を男子のペアが走っている。ところが、力が入りすぎたらしくそのペアは盛大に転んでしまった。
もしかしてこれは僕達が失敗してもなんとかなるのでは?と思ったが、すぐに立ち上がり他の転んだペア達をあっとゆう間に抜かして行った。
「次の次だ。行くよ!」
「おう!任しとけ~!」
二人してにんまり笑った訳だが状況は益々最悪だ。なぜなら僅差だから。つまり、勝てるかどうかは僕ら次第?ふざけんじゃないよ!
ギリリと歯ぎしりをした。
そして、次が来る。
「次だよ。準備、準備!」
「分かってるよ!」
トラックの外から二番目に立った。もうやるしか無いみたいだ。悪魔すらも止められなくなってしまったこの状況でなぜあなたは笑えるの?私は泣きそうだよ……
「一位の3-c早い!二位の3-aと随分差を付けている!逆転出来るか。3-a!」
実況の声がグラウンドに響いた。3-aは僕のクラスだ。負けているのか。なぜか安心して胸を撫で下ろした。
「来たー!よし!掛け声行くぞー!1,2.1.2!」
一位のクラスだ。もう、数十メートル先には肩を組んで走っているランナーの姿が!
「後は任せた!」 「分かった!」
そう二組は一瞬会話をした。響きはほのかに美しさを纏った。
「来た!行くよ!ほら、1.2……」
「分かってる!1.2.1.2!」
だんだんと足踏みを合わせてゆく。そして、バトンは僕に渡った。
まず左足、そして右足、また左足とゆっくり走ってゆく。そして、息が合ったその時、一気にスピードを上げていく。不思議な気持ち。さっきまであんなに不安だったのにどんどん楽しくなってく。まるで……この二人ならどこまでも行けてしまいそうなそんな感じ。
「見えた!あと、数メートル!」
目の前にトップのペアが見える。確かにあと数メートルだ。が、その差は中々縮まらない。あと、数メートルなのに!
「あっ!」と声を挙げた。目の前のペアが突然転んだのだ。これはチャンスだ!スピードを更に上げ、一気に追い抜く。が、しかし
「そうはさせるか!」ペアの片方は僕の足を掴んだ。バランスを崩した僕らは同じ様に転倒してしまった。その隙に立ち上がろうとする。
だけど僕らは負けていなくて足を掴んだペアが立ち上がった一秒先に立ち上がれたのだった。
「あーーーっ!並んでいます!トップが並んでいます!aとcが並んでいます!頑張ってください!」
実況の声を聞いて、更に頑張る!しかし、並列だ。
やがてゴールテープが見えた。
「あと少しーー!」そう叫んだ時だった。
cのペアは最後の力を振り絞って飛び込んだったのだった。僕らはその数秒後にゴールした。
息切れしながら、足の縄を解く。足からは血が流れていた。
「ちょっとー!妨害行為です!Cのペアが足を掴んで妨害行為をしたんですよ!」
美香は運営のテントで怒っていた。
「もういいよ……二位なだけで満足だから。」
と僕は言った。
「も~!田美はいつもそうなんだから!それじゃいつか損するからね!」
あはは。と笑うしか無かった。空は雲が流れていた。
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「はっ!」
と目覚めたのは朝日が登る前だった。
「夢か。馬鹿らしいわね。あれから四十三年も経ってるのに。」
呆れて頭を掻いた。すっかり頭も白髪になってしまった。何よりも変わったのは
「美香……もう亡くなって十八年にもなるのね。」
そう美香が亡くなってしまった事だった。
「命日は明後日か。伝えに来てくれたのかな。ごめんね。忘れてて。」
足元は縄で縛られた様な感触だった。今となっては全てが懐かしい。そう思うとこの白髪も愛おしかった。
「そう言えば近所の学校運動会だった。二人三脚とかあるのかな?」
子供達の一生懸命な姿を想像して私は寝た。足の不思議な感触はゆっくり消えていくのだった。