日常
何も分からず走っていた。手をひかれるまま、逃げるように。一歩前へ進むたびに大事なものが落ちていくようだった。周りには同じように、逃げて行く人々の影が見える。赤い夕陽が目に焼き付いて離れなかった。
見慣れていたはずの空が、風景が、色が、突然怖くなった。それでもただ、海を目指して走るだけだった。
「アスカ、起きなさい!」
母からの声に目を覚ます。
「いつまで寝てるの!今日はお母さんのお手伝いをするんでしょ!」
大声で叫ばれると、起きたくなくなるものである。
「分かってる、今起きるから。あと少し......」
アスカが再び目を開けると、そこには母の姿はなかった。
急いで階段を降りて行く。朝の日差しが眩しかった。
「良い朝だなあ。」
着替えて外へ出て行く。母、イリスの後ろ姿に怯えつつ近づく。
「遅かったわね。アスカ」
イリスは前を向いたまま話かける。
「お母さんは、背中にも目がついてるのね。ところで手伝いってなに?どうせ片付けだろうけど。」
「よく分かったわね!でも今日はいつもと違うわよ。あなたに本の整理をしてほしいの。」
「本?おばあちゃんの部屋にあるアレ?時間かかりそう......」
「お、アスカ!おはよう!何してんだ?」
「トウマ!おはよう。暇そうね、どう?一緒に読書でもしない?」
トウマは走って逃げようとしたが、遅かった。
アスカは、通りすがりの少年を巻き込むことに成功した。