俺(薬草売り)の村に勇者がやって来た!?
カルチャリカ公国南西に存在する大きな山と川に囲まれた小さな村、カルチャッカ村。村民50人で若い者は次々町に出稼ぎに出向いており大半がお年寄りと、まあ典型的な温かい村とでも言うべきだろうか。この村ではそれぞれがそれぞれの分野で働き、お互いに協力し合うことで自給自足の生活を成り立たせている。
この村で薬草売りをしている19歳この俺、クリス様も立派なこの村の一員である! といってもまあ持病で町に出稼ぎに行けずに村で働いてもらわせているのだが……。
「いらっしゃいませ! あっ、武器屋のおじさん! はい! いつものですね! ありがとうございます!」
いつものように俺はやって来る客に元気よく挨拶する。もちろん持病があることを人に察せられないためである。店の店長には『お前みたいな若くて粋のよい連中が薬の棚の前にいるから客が来るんや! 病弱な顔してたらすぐ首飛ばすからね!』と言われている。
「あらっ、クリ坊。今日もしっかり働いているかい?」
俺をそんな頭から踏まれてしまいそうな名前で呼んだのは隣の宿を取り仕切るマダム。
「ねーあんたも聴いた? 昨夜もまたあの魔獣がこの村にやって来たってよ!」
マダムが急に話の話題として持ち出した『あの魔獣』。そう、この村は最近3か月間、夜『魔獣』によって、作物を荒らされるという事件が起きている! 村にとってその作物は自給自足の源であり、村の作物が荒らされることはもはや死活問題なのである。
「昨晩はオリーブさんのカボチャ畑が狙われたそうよ! 次はあんたらの畑かもしれないよ! 気を付けなさい!」
この店が所有する薬草畑はそのオリーブさん家の畑のすぐ隣なのである。今までのように順番で襲われるなら、次は俺達の畑かもしれない。
「あっ、まあ気を付けます……。」
気を付けたとしても襲われる時が来たら襲われるだけなので……。この村には『魔獣』を狩るのを生業にしている職業『魔獣狩り』なんか専らいない。なので襲われるときは誰も抵抗できず魔獣が帰るのを待つだけなのだ。
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暫く薬草を元気良く売っていると突然後ろから肩を叩かれた。
後ろを振り返ってみるとそこには赤い鎧に剣を腰からぶら下げた好青年が立っていた。
「何か御用ですか?」
「……………。」
俺は彼の目を見て尋ねるが彼はいっこうに答えない。
「あのー、お客さん、何か御用ですか?」
「…………。」
彼は3回ぐらいコクりとうなずくが何も喋らない。
「あっ、わりぃわりぃ兄ちゃん、勇者は職業柄喋れないようになってるんだ! なぜかって言われたらまあ企業機密になっちまうんだがな!」
好青年の後ろから可愛い体型の背中にハンマーを担いだプッチョさんが俺に説明する。
「ごめんなー兄ちゃん! 今俺達旅の一行は薬草が底をきらしちゃって……、ここで調達できないかねー。」
「あっ、はいわかりました! 薬草ですね! どのくらいですか。」
「うーん、人が死なない程度に!」
俺は思わず苦笑いしてしまった。
「そりゃあそうなんですけど、お客さんは薬草何グラムがほしいんですか?」
「んじゃまあ取り敢えず30グラムかな。」
俺は言われた通り30グラムの薬草を袋に詰めて渡した。
「30ゴールドです。」
「うわっ! やっす! 隣の町なんか70ゴールドだったぞ!」
「まあここで作ったものを直接ここで売っているんで。他の町の薬草よりは安くなりますよ。」
ここの店には薬草、毒消しから怪しい薬まで、数多くの薬が売っているが、それら全てがこの村で直接作られているのでどれも安く仕入れることができる。
「あれっ! あんたたしかカルチャリカ公国第4皇子にして職業『勇者』のヘラクレイア様ではねーですか!?」
店の奥から現れた店長はその勇者を見るなりそう言った。
勇者は何も言わずにうなずいた。
「えっ、店長この人知ってるんですか!?」
「知ってるも何も、この方はカルチャリカ公国の次期王子の弟君にして、かの有名な魔王ハーデスを倒しこの国の英雄になった御方だぞ!」
「まあまあそうあまり騒ぎたてるなや。んでまあ話は変わるんやけどこの薬草の店に入るまでにこの村の畑を目にしたんやけどなんか荒らされているところが妙に多かったんやけど、なんかあったか?」
俺は勇者様にすがる気持ちでお願いした。
「勇者様聴いてください! 私達の村に『魔獣』がやって来て村の作物を荒らされて村中困っているんです! この村にそのような魔物を倒せる人などいなくて……。お願いします! やつらを凝らしめてください!」
勇者は必死にお願いする村人(俺)を見てコクりとうなずき何も話さず、ただカッツポーズをしてみせた。
―――――夜―――――
勇者は村の真ん中の広場で腰を下ろして待っている。
それから3時間後、やつの侵入を知らせる鐘が鳴った。
「『魔獣』が村に入ってきたぞー! 村のものは家の中に避難しろー!」
勇者はやっと腰を上げた。途端にやつも勇者の存在に気づく。
「グルウォォォォォォォォォォォォ!!!」
魔物はそう吠えると勢いよく勇者に噛みつこうとする。
それを上手にかわした勇者はやつの背中に周り軽くやつの尻尾を触った。
ブオッ! 途端にやつらの尻尾に火がつく。
「ガウッ! ガウッ! ガウッ!」
やつは焦って火を消そうともがいている。
ジャキーン! 勇者の剣が豪快にもやつの尻尾を切り裂いた。
「クルォォォ。」
やつはそう鳴くともと来た闇の中に姿を消した。
勇者もまたやつの後を追って闇の中に消えていく。
「村はもう大丈夫だ! 俺達はこれからあの魔物の住みかを追うから! 村の人たちはもう遅いし、今日は寝てろ!」
そういうと勇者一行の方々も闇の中に消えた。
―――――翌日―――――
早朝から今日の商売の準備をしていると勇者が来たときと同じように俺の肩をたたく。が、これもやはり何も話さない。彼はにっこり笑って俺をみつめるだけだった。
「あー、ヘラクレイア様は『魔物は俺達がやっつけた!』って言ってるよ。あれからやつの住みかをを探ったらとんでもない所に行き着いたよ。何と隣の町で飼われていたらしいぞ!!」
俺達は全員で驚いた。
「なっ、何!? 隣のやつらだとっ!」
「お前らそこの村の商売敵なんだろ! まあよくある手口だわな! でどうする? あの魔物なら町に入る手前で捕獲しといたけど。」
村の老人たちが怒りを顕にする。
「やられっぱなしも気に食わねー! 戦争だ! 戦ってやるぞー!」
「ふっ、そりゃあ物騒なこと! でもあんたら老人が剣を振り回してもあんまり怖くねーぜ!」
「うぅっ…。」
村の老人たちはその事に納得してしまって何も言い出せない。
「……あのー。俺にいい考えがあるんですけど……。」
「……なんじゃ?」
俺は薬の棚から催眠効果のある薬を取り出して答えた。
「あの魔物に催眠術をかけて襲わせればいいんじゃ……。」
「なるほど! その手があったか!」
「俺も賛成だ!」
「俺も!」
珍しく村の寄り合いで全員一致で賛成した。
「決まりだな! 後はこの旅の御一行に任してもらえればこっちで何とかやっとくから!」
「ありがとうございます!」
―――次の日、隣の町は自分の飼っていた『魔獣』によって大量の作物を荒らされたとさ。おしまいおしまい。
勇者はあくまでもRPGの主人公です! 何も話しません。