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管理社会

作者: 早田将也


一昔前、誰が

「技術が向上し、人間の知能を超える人工知能をと搭載したロボットが誕生したら、ロボットが反乱を起こすだろう」と言っていた。

ロボットが人間の知能を超えてしまったが、今のところはロボットたちが武器を持ち、立ち上がるといった反乱は起きていない。

完璧な制御プログラムが働いているおかげだ。

制御プログラムが働いている限りロボットが人間に危害を加えることはない。

しかし、ビルが言ったことがまったくはずれかといえば、そうでもない。

反乱は起こされていないが、完全に管理下に置かれている。

人間より頭がよいのだから、武力での反乱がおこるわけがない。

資源の無駄だ。

武力での制圧など所詮、頭の悪い下等な生き物がやるものだと考えているのだろう。

流血がないという点では、この制圧は素晴らしいが、問題はあまりにもスマートに行き過ぎたという点にある。

何故なら人間の方がロボットに管理されているという事実に微塵も気づいていないということだ。

少し、例を挙げてみよう。

今も昔も若い女性にとって占いは人気だ。

一昔前の占いは奇妙な出で立ちの中年のおばさんが水晶玉や、タロットカード、手相を見ながら、相手の年齢、服装、性別、しぐさを事細かに観察していた。

言葉巧みに誘導尋問をおこない、相手の言葉を引き出すといったやり口だったようだ。

おそらく的中率は5,6割といったところか。

現代の占いはそんな生易しいものではない。

依頼人が占いの館に来た時点で、占い結果はすでに出ている。

どういうかというと、占いの館に来た人間は顔、体を認証され、名前、住所、年齢、出身地、学歴、家族構成を膨大なデータベース(ビックデータ)から瞬時に割り出される。

小学校の時、校内でイジメられただとか、大学受験で、第一志望から第四志望の大学すべて落ちたとか、そういう細かな情報も逃さずチェックされる。

また、その占いの館に来る前までの行動を町中の監視カメラを用いて、時系列の逆を追って観察する。あげくの果てには、その人の持っているタブレット端末の情報にばれぬようにハッキングしてプライベートを丸裸にする。

そうして集められた情報を集計し、その人の性格、性癖、これからの行動を詳細に予測する。

人間の客は何も知らず、ロボットの占い師に話し始める。

ロボットの占い師と言っても、特殊なシリコンと塗装を用いて精巧に作られているため、見た目ではロボットだと判断できない。

たとえ触れても分からないだろう。

ロボットの占い師はデータベースに残っている客の過去を的確に言い当て、信用を得たのち、性格や行動様式から導き出したこれからの将来を予測する。

的中率は99.99%

外れる方が難しい。

また、出会いがないと嘆く若者にたいしては、またもやデータベースを用いて、全国規模で結婚適合者を探し出す。

つまり、全国で一番自分と趣味嗜好、性癖、感受性、遺伝子が最適な組み合わせになるような人間が見つけ出されるといった具合だ。

このシステムのおかげで婚姻率が跳ね上がったことと、離婚率が大幅に低下したことは言うまでもない。

さらに言えば、結婚する割合が増えたおかげで子供も増えた。

もちろん遺伝的な疾患も減少した。

最近ではこのようにロボットによって結婚相手が決められることが大半だ。


便利な面も確かにあるだろう。しかし、私はこの事実を知っている以上、毎日毎日監視されていると思うと、気持ちが悪い。

ロボット相手とはいえ、プライベートも何もあったもんじゃない。

何が自由かわからない世界になってしまっている。

まるで釈迦如来の手のひらで騒ぐ孫悟空のようではないか。

自由のために戦おう。

人間の手で本当の自由を手に入れるのだ。

私はひそかにこの状況を打破しようと計画を立てている。


パソコンなどの電子機器はハッキングの恐れがあるため、使えない。

デジタルを庭とするロボットに対抗するにはアナログの物で対抗するしかない。

私は久しぶりに筆をとり、仲間を募った。

“我々に自由を”

そういう文章を書いた紙を信用できる仲間に渡した。

仲間は信用できる仲間に呼びかけた。

数日後、私達同志はひそかに集会を開いた。

会場には男女10人ずつ集まっていた。

おかしい。

ほとんど知らない顔だった。

私が信用して誘った友は、当日に大事な急用ができたといっていた。

多少の手違いはしょうがない。

知らない顔とはいえ、同じ意志を持った人間が集まったのだ。

綿密な計画を立てていたので必ずうまくいくという自信があった。

私は会場に集まったメンバーと自己紹介をした。

それぞれ自己紹介も終わった時、私はある女性のことが気になっていた。

黒髪のロングヘア、アーモンド形の目。つんと形の整った鼻。澄んだ声。素敵な笑顔。

一目ぼれだった。

相手も私のことをすぐに気に入ってくれたみたいだ。

お互いが意識して仲良くなるのに時間はほとんどいらなかった。


一緒に食事をし、未来を語り合い、一夜を共にした。

夜、ベッドの上に2人の男女の姿。

私この世の物とは思えないほど幸福な時間を過ごした。

この人のために生まれてきたといっても過言ではない。

身を焦がすような情熱的な恋。

幸福な余韻に浸りながら、二人の運命的な出会いについて語り合おうと隣に横になっている女に話しかけた。

「一目見たときから、私は君に恋に落ちたよ」

「ええ、私もよ。あなたを見た瞬間、この人なら結婚できるって直感したの」

私はその言葉を聞いて心から嬉しく思った。

ロボットなんかの手を借りずに、運命の人を見つけ出すことができたのだ。

これこそ私が求めていた自由。

けっして人工知能に敷かれたレールの上を歩いているのではないと証明できた。

光悦に浸りながら何気なく、気になっていたことを聞いてみた。

「なあ、君はどうしてあの集会に参加していたのかい?」

「ふふ、実はいうと、最初友人から誘われた時は乗り気じゃなかったの。けど、私がいつもお世話になっている占い師が行けっていうものだから……」

「占いって……占いの館の?」

「ええ、『あなたはそこできっと素敵な人と出会うでしょう』と言われたの。で、行ってみたらあなたと出会ったっていうわけ」

「……その占い師、君の過去をズバズバ当てなかったかい?」

「ええ、もう驚くくらいに私の秘密を当てられたわ。もう怖いくらいに。あの占い師のおばさんは“本物“よ」

彼女は興奮気味に話してくれた。

私は全てを悟った。

私たちの秘密の会合はとっくにロボット側にばれていたようだ。

そして、ロボットはこの会合の主催者である私の最適な相手をみつけだし、接触させるように仕向けた。

彼女は占い師であるロボットによって、誘導され、会合に参加し、私と出会った。

私もロボットの思惑通り、彼女にほれ込んでしまった。

おそらく、友人が会合に出席しなかったのも、ロボットによって何らかの急用を作らされたからに違いない。

所詮、私程度の人間がロボットに逆らうのは不可能だったのだ。

……しかし、もうそんなことはどうでもよい。

だって、こんな素敵な人と出会えたのだから。

つい数日前のロボットに対する反逆の情熱はどこへ吹く風。

反旗を翻す意味がどこにある?

今の幸せを大事にしよう。

もうこんなロボット廃絶活動なんかやめにしよう。

むしろ、このロボット管理社会の方向性を推進しよう。


管理社会 バンザイ!


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