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三国志異聞~長坂の狼~

作者: 筑前助広

 銅鑼の音が鳴ったのは、二百の騎兵を率いて、森の中を疾駆していた時だった。

 趙雲は、左右からの殺気を感じ舌打ちをした。

 鯨波。敵の伏兵である。駆け抜けるか、戦うか。迷ったのは一瞬だけで、趙雲は片手を挙げ、全員に合図を出した。

「皆殺しにしろ」

 そう命じて、趙雲は馬腹を蹴った。

 遮る者は、ことごとく突き倒した。守る戦いではない。殺戮である。一人殺せば、一人救われる。趙雲は、敵兵を確実に殺した。このような戦いは、初めてである。

 ほぼ一息で、趙雲隊は伏兵を蹴散らしていた。

「さて」

 趙雲は、馬を止めた。

 劉備軍の殆どは、既に壊走している。だが、これは敗北ではない。劉備という男が生きてる限りは、我々は何度も再起出来るのである。

 伝令が入った。

「中軍が、敵の急襲を受けております」

「何?」

 中軍には、劉備の妻子がいる。最初の伝令と入れ違いに、別の伝令が入った。

「曹操軍が劉備様の所在を捕捉。陳籍殿の影兵が防戦すれども、敵軍精強。趙雲隊の来援を乞うとの事」

 悩む暇は無かった。

「李庶」

 趙雲は、副官の名を呼んだ。

「この隊を任せる」

「なんと」

「殿の元へ行け。そして、陳籍に借りを作るのだ」

「では、趙雲殿は?」

「中軍の援軍へ」

「何名連れて行かれますか?」

「私一人だけだ」

「しかし、それでは」

「命令だ。全力で殿をお守りしろ。殿のお命がある限りは、負けではない」

 そう言うと、趙雲は駆け出していた。



 森を抜け、原野に出た。

 軍旗が目に入った。曹の文字、敵軍である。だが、迫ってくる様子は無い。堅陣を敷いているようだ。

 その陣の奥、劉備軍の中軍が視認出来た。完全に包囲されている。

 あそこだ。考える前に、身体が動いていた。

 敵の第一線に、突き入った。

 槍を奮う。首が舞い、返り血を全身に浴びた。白銀の鎧が、血に染まる。

 腹の底から、咆哮した。戟。一斉に突き出されたが、槍で一蹴した。指揮官らしい男が出てきた。名乗らせる前に、趙雲は馬腹を蹴った。馳せ合う。首が飛び、身体が馬上から落ちた。

 新手が、正面から迫った。歩兵。しかし、それを遮るように、百ほどの騎兵が横から飛び出してきた。

 劉。そして、陳の文字だ。

「趙雲殿」

 名を呼ばれた。黒い鎧に、黒い頭巾。陳到だった。

「陳到か」

「よくぞ、ご無事で」

 陳到は、激しく肩で息をしていた。

「お前……」

 趙雲は、陳到の左手首から先が無い事に気付いた。血止めの為か、縄で固く締められている。

「左手は、張遼にくれてやりましたよ。代りに奴の片足を頂戴しましたが」

「大丈夫なのか?」

「剣は片手で十分です。さぁ、ここは、我が隊が引き受けます。趙雲様は中軍の救援へ」

 眼が合った。陳到に、死相はない。生き残るつもりなのだ。

「すまん。生きていれば、また会おう」

 死ぬ時は共に。陳到は五番目の兄弟なのだ。それを、口に出して言った事はない。



 中軍に到達した。そこは村落だった。

 乱戦を演じている。趙雲は、敵兵を突き倒しながら、村落に駆け入った。

 泣き声。赤子のものである。その声を辿った。小屋の中だ。下馬し、踏み込む。赤子が机の上で泣いていた。阿斗だ。幸いに怪我はない。

 その奥の部屋から、妙な息遣いが聞こえた。踏み入ると、そこで男女が媾合っていた。

「貴様」

 叫んだ。男が振り向く。軍装は曹操軍のものだった。

「なっ」

 剣を抜き、男の首を刎ねた。

「甘夫人」

 駆け寄り、夫人を抱き上げた。腹部に、深い刃傷。息は無かった。

「申し訳ございませぬ」

 阿斗を懐に抱いき、小屋を出た。



 村落を裏口から出た。狭い間道である。

 敵軍が待っていた。小隊ではあるが、もう避ける術は無い。

 趙雲は、槍を小脇に構えた。

「我は趙子龍。容赦はせんぞ」

 敵軍の氣が、一瞬怯んだ。

 今だ。そう思い、馬腹を蹴った。

 一人、二人。突き倒す。軍旗の下には、指揮官らしい男。慌てて剣を抜いている。

「我こそは、夏侯恩」

 すれ違う。一閃。夏侯恩と名乗った男の首が地に落ちていた。


<了>

僕が本格的に小説を書きだした、第一作のデーターが出てきましたので投稿してみました。趙雲はやっぱり好きな武将の代表格です。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり超雲かっこいいですね、僕も某ゲームでは彼ばかり使ってましたw
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