F1201号室 林さん>>Scene.03
「ねーパパ?いつ帰って来れるの?」
不満の入り混じった子供の質問に、夫婦は気づかれないように目配せした。いつだと思う?いつかなぁ?と二人で笑顔を繕いながら子供のねだったおにぎりを取ってやる。
「ぼくねー、こないだの運動会の練習、一位だったんだよ」
「かけっこか?凄いじゃないかコータ」
「だからさパパ、約束して?」
「何を?」
「ぜったい一位取るから、運動会見に来てね?」
「…………」
「約束したよ!」
父親は困ったような表情で、もぐもぐとおにぎりを頬張る子供を見ていた。言うか言うまいか、聞くか聞くまいか。考え巡らせた後、意を決して切り出す。
「コータ、運動会はいつなんだい?」
「もう少ししたらだよ」
「もう少しって言われてもな、」
「予定では、来月の終わりなの。延期したらその翌週」
子供の母親が済まなそうに口を挟んだ。およそ一月半後だ。その日数に、この時点で既に光が射す事はないと、本人もその妻もよく知っていた。そうか、と小さく返事をして、父親はおもむろにお茶を口に含んだ。
「ねーパパ?絶対来てよ?一位取るからね!」
「ゴメンな、パパ頑張るけど、忙しくってまだどうなるか分かんないな」
「やだ!来てくんなきゃやだ!」
「コータ、パパにワガママ言わないの!パパお仕事大変なんだからね?」
「でもリョータくんのパパもナナちゃんのパパも、お仕事してるけどお休みあるもん!何で?!」
「コータ、」
「やーーーだ!」
◇◇◇◇◇