勉強会
「さぁ、入ってください」
須藤に案内され、舞と澄香とそうは、須藤の部屋に通された。
すでに古川と野沢は絨毯のしかれたフローリングへ座り、
大きな机に教科書とノートを広げていた。
「ごきげんよう」
「お待ちしておりましたわ」
古川と野沢がそれぞれ丁寧に歓迎の意を示した。
「や~、お招きいただきまして誠に恐悦至極、ありがたく存じ上げますわ」
と舞は言って、わざとらしくホホホと笑った。
「それにしても、皆さん。上品な言葉遣いなんですね?」
「そうでしょうか。あまり、私達そういう事柄を気にしたことがないもので」
「なぁ、澄香。無駄話はそれぐらいにして、とりあえず勉強会を始めようぜ。な?」
と、そーはドカッと腰をおろし、鞄から教科書とノートを取り出した。
「で、この勉強会のルールはどんな感じなんだ?」
そーの質問に須藤が答える。
「ルールですか?とりあえず、本日の宿題をやりつつわからないところは
お互いに教えあうといったところでしょうか」
「OK。じゃあ、そんな感じでスタートってことで」
舞は、いたずらっぽく笑うとカバンから教科書、ノートと一緒に
粒チョコ、ラムネ、クッキー、グミの包みを机の上に置いた。
「勉強だけじゃ楽しくないっすからね。お菓子食べながらわっきゃうふふで勉強する。
これこそ、学生の勉強会の醍醐味!」
須藤のグループは唖然とした表情を一瞬見せたが、すぐにさっきまでと同じ柔和な表情を取り戻し、
お菓子の持ち込みを了承した。
勉強会が始まり、一同6人はお互いの勉強をし始めた。
時々、クッキーをかじる音が聞こえるが、手をつけたのは、舞だけだった。
カリカリと静かにペンを走らせる音が続…
『俺のいのちぃぃぃぃぃ、
お前にくれてやるぅううぅぅうぅぅぅぅぅぅぅううぅぅぅぅぅっっぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!』
「あ、すまん。私の携帯の目覚まし機能だ」
そうは平然と言うと、ポケットから携帯電話を取り出し、切ボタンを押した。
「ま…まぁ。個性的なめざましなのですわね…」
須藤は若干の苦笑いを口にたたえながら、言葉を紡ぎだした。
「あぁ、これで朝から爽やかにお目覚めだぜ?」
澄香が、その携帯を尻目に軽く皮肉を呟く。
「いや、そう。まだ5月にしても暑苦しいと思うんですけど」
「そうか?澄香もこれ目覚ましにしてみろよ。ほら、ケータイ貸してみ」
「え、ちょ‥ちょっと」
「お二人さん、ストップ。ストップ。ほら、須藤チーム。こっち睨んでるよん」
そう言って、舞は親指で他3人を指さした。
「に…睨んでなどおりませんわ」
「そうですわ」
古川と野沢がそれぞれ、異を唱えたが、舞は気にする風でもなく
苦笑いを浮かべながら「ごめんね~」と謝意を伝えた。
「べ…勉強会を続けましょう」
須藤の一言で再び沈黙の時間が始まった。
もうクッキーに手をつける者もいなかった。
ただひたすら己の能力向上のために、目の前の敵と…
グルギュウウゥゥウゥゥゥゥウウウウゥウウ~~~~~
「澄香さん。お腹を鳴らすとか端無いですわよ。お~ほほほほほほほほ」
何故かいち早く舞が、指摘し高笑いした。
「えっと、すいません。お腹がすいちゃいまして」
「って、お前、昼ちゃんと食ってただろ。肉うどん3杯」
そーが呆れたように頭を抱え、呟いた。
「む、違いますよぉ。肉うどん3杯とおにぎり2個、
プリンパフェ1個に締めの冷やしたぬきそばですよ」
「いや、それだけ食べて、今更お腹空いたといえるお前の胃の大きさを見てみたいぜ。私は」
「そー。失礼ですよ。女の子に対して」
「じゃあ、澄香。女の子らしく、
肉うどん半分ぐらいで、『私、もうお腹いっぱい。食べられな~い』とか
かわいこぶってみろってんだ。
そもそも目の前にクッキーとかお菓子があって何故手を出さない?」
「だって…今ダイエット中で…」
「待て。矛盾してるからな、お前。
肉うどん3杯食べてて、ダイエット中とか。ギャグかっつーの」
「だから違いますって、肉うどん3杯とおにぎり2個、プリンパフェ1個に締めの冷やしたぬきそばです」
「っていうか、なぜそこまで昼ごはんのきちんとした献立に拘るんだ。
あと、デザートの後に締めの冷やしたぬきっていうのは、ツッコミ待ちか何かか?」
「違います。パフェはむしろ前菜みたいなものです」
「いや、前菜はご飯の最初に食べるものだからな」
「じゃあ、後菜です」
「何百年も続く料理界の黄金の献立に勝手に革命を起こさないでくれ」
「はいはい、お二人さん。喧嘩はそこまで。ほら、まだ須藤さん睨んでるよ。
そのうち、勉強会追い出されちゃうよ」
「ほほほ。お腹がおすきでしたら母に言って何かご用意させましょうか」
須藤が、立ち上がりかけた。
「いや、結構」
しかし、澄香よりも先にそーが、その提案を制した。
「今、こいつ言っただろ。ダイエット中って。なんで甘やかしちゃダメなんですって。
澄香。お前に命じる。罰として今日一日、断食な」
「罰ってなんの罰なんですかぁ?」
「この勉強会の空気をブチ壊しにした罰。
私は、こう見えて切羽詰まってんだよ。わかる?」
「いや、期末までまだまだじゃないですか」
「甘い。次赤点とったら、特別クラスなんだぜ。
常在戦場。常に敵は目の前にいる。期末もすぐそこだ」
「はぁ、やっぱ私。暑苦しい人は好きになれないです」
「何か言ったか」
「ほらほら、二人とも勉強、勉強」
舞が二人を制するように頭に軽くチョップを見舞った。
そして、やっと静けさを…
ぷぅぅううぅう~~~~~~
部屋中にどこかマヌケな音が響き渡った。
「いや、失敬。屁、こいちゃった」
素早く舞が手を上げ、呵呵とあっけらかんに笑った。
「ちょ、ガマンしろよ」
「え、無理、無駄、無謀。だって、ガスお腹に貯めたら体に悪いじゃん」
「いやいやいや、その発想おかしいでしすから。TPO考えろよ。
曲がりなりにもここ他人の家だぜ?しかも、目の前の半分はほぼ初対面の人だぜ」
「生理現象なんだから仕方がない。以上、今週のまとめでした」
「勝手にまとめるな」
「あぁ、もう。じゃあそうはどうして欲しいわけ?
何?死ね?私に死ねっていうの?」
「そんな事言ってないだろ。いや、むしろ生きろ!
生きて、その愚かな一生を全うし、永遠の生き恥の中彷徨うといいさ」
「ひでぇ、今、かなり酷いこと言ったよね、澄香」
まるで助けを求めるかのように澄香の後ろに隠れた。
「は…はぁ。酷いというか、意味がよくわからなんですけ…」
澄香が自分の味方になってくれないことが癪だったのか、舞は立ち上がり言い放った。
「ちっ、もうやってらんない。勉強したいとか言ってる割には
他人に絡んで遊んでる奴いるし。あ~もう。私、ちょっと頭冷やしてくるわ」
その言葉を残し、舞は部屋を後にした。
残されたのは、須藤チームとそーと澄香だけだった。
舞は、表に出るとケータイに届いているメールを見た。
その知らせは、百恵からであった。




