赤い神経の指刺すほうへ
ねぇ、母さん……
僕はけっして産まれたことを恨んでるんじゃないんだよ。
ただ──
母さんがいなければ──
「汚れた愛だな」
産婦人科医は吐き捨てるように言った。
「きっとうんこな大人になる」
「あら、先生」
僕を産んだばかりの母さんが、見下すように笑った。
「よくわかりましたね。私はこの子をうんこのような大人に育てようと思っていますのよ」
僕は泣いた。
ちっちゃいけど力の限り、「よくも僕を産みやがったな!」と、言葉にならない大声で──
分娩室の隅から、青紫色をしたオオカミが、僕を食おうと狙っていた。
「この子は私が守ります」
母さんの声が、言った。
「食べられて排泄物になるのではなく、生きた排泄物となれるように──」
誰かの悪いことを企む笑い声が教室内に響いている。
「ヒロ──!」
茉莉花がいつものように声をかけてきた。
「一緒にあの部屋へ行こ」
うんざりしながら僕は答えた。
「あのブラックライトで海の中が照らし出される、あの部屋へ?」
教室の中は今日もうすら寒い。顔のない同級生たちが凍りついて時を止めている。
茉莉花が鼻にかかった声で、言った。
「農場で豚が殺されるように、あたしたちも子孫を残さないつもり? それって、不確定真実だよ」
茉莉花はどうして僕の遺伝子なんて欲しがるんだろう。こんな、うんこ人間の、劣等遺伝子なんか?
もしかして劣等遺伝子どうしをかけ合わせれば──マイナスとマイナスを合わせればプラスになるとでも思っているのだろうか?
くしゃみが出る!
窓が破裂音を立てて、太くて赤い針のような触手が教室に入り込んできた。僕がやったんじゃない! でもごめんなさい! あまりにも僕が召喚したようなタイミングのくしゃみだった!
ざわざわざわわ……
トウモロコシ畑が揺れるように、空気が赤く染まっていく。
「行くよっ、ヒロ」
茉莉花がすっくと立ち上がった。
「変身!」
変身できるなんて知らなかった。僕と茉莉花は揃って緑色の蛇に変身すると、赤い神経指刺すほうへ、ニュルニョロと素速く飛びはじめた。
母さん──
母さん──!
僕はけっして産まれたことを恨んでるんじゃないんだよ。
ただ──
母さんがいなければ──
僕はこの世界にいなかったんだ!
描かなくてもよかったんだ、こんなわけのわからない物語なんて!
「敵襲! 四次元30分の方向!」
茉莉花がそう叫びながら砕けていった。




