第四話 降臨
空が、裂けた。
音はなかった。
ただ、空間が静かに――
開いた。
「……来る」
トシノリの喉が、乾く。
逃げるか。
迎え撃つか。
一瞬の迷い。
だが――
足は、前に出ていた。
「トシノリ!」
ルルの声。
「分かってる」
短く返す。
手の中の剣を、強く握る。
草薙の剣。
あの時と同じじゃない。
これは、“戻るための力”じゃない。
――前に進むための力だ。
空の裂け目が、ゆっくりと広がる。
そこから――
“何か”が、降りてくる。
形が、定まらない。
人のようで。
影のようで。
だが一つだけ、はっきりしている。
目。
無数の“目”が、こちらを見ている。
「……っ!」
視線だけで、体が軋む。
重い。
押し潰される。
「トシノリ、下がって!」
ルルが叫ぶ。
「あれは――」
言葉が、途中で止まる。
言いたくない。
そんな気配。
だが。
トシノリは、一歩踏み出した。
「逃げても、同じだろ」
ルルが、息を呑む。
「……そうだけど」
「だったら」
剣を構える。
「ここでやる」
次の瞬間。
“それ”が、動いた。
音もなく。
距離を無視して。
目の前に――
現れた。
「なっ……!」
反応が、一瞬遅れる。
振り下ろされる“何か”。
トシノリは、咄嗟に剣を振る。
金属音は、しなかった。
だが――
確かに、斬った。
「……効いた?」
“それ”の動きが、わずかに止まる。
だが次の瞬間。
形が、崩れる。
そして――
元に戻る。
「……は?」
理解が追いつかない。
「再構築……?」
ルルの声が、低くなる。
「違う」
「あれは……」
一拍。
「“壊れてない”」
トシノリの背筋が、凍る。
「何だよ、それ」
“それ”が、再びこちらを見る。
無数の目。
無機質な視線。
そして――
声が、響いた。
「――干渉、確認」
トシノリの手が、わずかに震える。
「……干渉?」
ルルが、即座に言う。
「私たちが“触れた”ってこと」
「あれに」
嫌な予感が、確信に変わる。
「じゃあ……」
「向こうも来るってこと」
“それ”の周囲で、空間が歪む。
一つじゃない。
二つ。
三つ。
同じ“何か”が、現れ始める。
「……マジかよ」
トシノリが、苦く笑う。
「歓迎されてるな」
ルルは、真剣な目で言う。
「違う」
「観測されてるの」
一歩、下がる。
だが――
トシノリは、止まらない。
「だったら」
剣を、構え直す。
「見せてやるよ」
一歩、踏み込む。
「こっちの“選択”をな」
地面の回路が、光る。
空の裂け目が、さらに広がる。
無数の“目”が、こちらを見ている。
そのすべてに向かって――
トシノリは、剣を振り上げた。




