表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/23

第一章:第五話 再会③

 そうしてしばらく話していると、なにやら陣幕の外が騒がしい。


「なに……?」


 不思議に思っていると、幕が捲られ一人の人物が入ってきた。

 薄紫や淡い金色の衣装、緩く流れる長髪を後ろで少し結んでいる。いかにも人の良さそうな顔立ちは、白粉で華やかだった。武将というより貴族のような格好の、のほほんとした雰囲気が漂う者だった。


「そち、見ない顔じゃ。名は何と申す?」


 その声を聞いて、男だとわかった。


「小春だけど……あなた誰?」

「義元様……!」


 慌てて家康が平伏する。一方小春は現れた男を見つめた。義元……どこかで聞いた名前――


「っあ!……今川義元!?」


 “海道一の弓取り”の異名を持つ戦国大名だ。信長に桶狭間で敗れたと本に書いてあったのを思い出す。偉い人なのはわかるが、見た目がどうもそう思わせない。華やかで気品で、美しい。


「小春、とな。そち、我に対してその態度は失礼じゃの」

「ご、ごめんなさい……」

「打ち首にするかの」

「え、打ち首って」

「義元様、どうかそれだけは……!」


 小春の助命を願う家康の焦りようとは対照的に、小春は危機感をまったく持っていなかった。言葉自体は絶体絶命なのだが、義元の顔と雰囲気を見ているとどうも危ない感じがしない。と――


「義元様!」


 大声で義元の名を呼ぶ声がする。そして忠勝が陣の中へ飛び込んできた。


「先ほど義弟君が陣中見舞いにとお見えでした」

「なに、義弟がかの。我と蹴鞠に来たのかの?」

「おそらくそうだと思われます」

「そうか。我はもう行く。打ち首はどうでもいいの」


 義元は、蹴鞠るのが楽しみであるの、と言いながら立ち去った。それを見送り、忠勝は小春たちに頭を下げた。


「申し訳ござらぬ。突然押し入ってしまい……」

「ううん。なんかよくわかんないけど、助かったよ」

「忠勝。小春殿を助けてくれて感謝する」

「殿のお役に立てて良かった」


 頭を下げるなら小春の方なのに、なぜか忠勝がさらに頭を下げた。


「その……某も殿と小春殿に混ぜてもらってもよろしいか?」

「え?」

「陣幕の外を通りがかったら、とても楽しそうな声が聞こえたゆえ……」


 それで中を覗いたら、ちょうど小春が義元に打ち首を言い渡されていて、彼の義弟が訪ねて来ていることを思い出し、機転を利かせてくれたらしい。


「もちろん大歓迎だ、忠勝」

「うん。みんなで仲良くしよ。……あ、半蔵」


 気づけば忠勝の横に半蔵が立っていた。


「ご苦労、半蔵。異常はないか?」

「何も……」

「ねぇ。半蔵も一緒に話そ?」

「私に戯れは無用……お前の言動を聞いているだけで十分面白い」

「私そんな面白いこと言ったっけ?」

「義元に打ち首を言い渡された時の殿とお前の反応の違い」

「……半蔵。実はけっこう最初の方からここにいたんだね」


 忍の彼については未知だった。新たに忠勝も加わったことで、談笑を始める。半蔵も発言はないものの、小春たちの会話に耳を傾けていた。


「忠勝って子どもいるんだ」

「稲という。女ながら武芸に興味を持ち、お転婆で困っている」

「さすが忠勝の娘という感じですぞ。此度の戦にも連れてきているそうだ」

「へぇ。後で会ってみたいな。そういえば家康も結婚してるんだよね」

「去年、息子が生まれもうした。名は竹千代という」

「あんなにかわいくて泣いてた家康がお父さんかぁ。感慨深い……半蔵は?」


 話を振ってみるが、半蔵から返答はなかった。


「あの……半蔵……?」

「聞こえている」

「申し訳ござらぬ、小春殿。半蔵は口数が少ないゆえ。決して冷たい男ではありませぬ」

「半蔵は奥さんとか子どもとかいなさそうだよね」


 そう言うと、半蔵はぴくりと反応した。


「お前もいなさそうだ」

「私はまだ結婚とか早いし」

「小春殿……一体おいくつでございますか……?」

「それは……女性に年齢訊くなんて失礼だよ」

「も、申し訳ござらぬ……」


 家康には悪いが、本当にその点だけは説明しようがなかった。


「ところで忠勝。頼みたいことがある」

「なんでございましょう」

「小春殿を忠勝の陣に泊めてもらえぬか」


 家康の発言に小春は目をぱちくりさせた。


「我が徳川の陣営は男ばかりにて、小春殿が気を遣われるかと」

「殿。それは我が陣営も同じことでは」

「だが忠勝の陣には稲がおる。まだ幼いが、同じおなごがいる方が小春殿も少しは安心できるであろう」

「小春殿は殿の古くからの友。今日知り合ったばかりの某より殿と一緒の方が……」

「っ、私の陣はだめだ!」


 珍しく語気が強かった。普段は穏やかな家康の声が、ほんの少しだけ上ずっている。

 忠勝はわずかに目を細めた。


「……承知いたしました」

「あの、家康。泊めてくれるってどういう……」

「小春殿。もう遅い時間でございます。出発は明日にされては……」


 出発もなにも、この時代では行く当てがない。


「うん……ありがとう」


 お腹がふくれて、そろそろ眠くなってきたところだった。お言葉に甘えて、小春は忠勝について徳川の陣営を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ