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第一章:第四話 再会②

 男の口から出たのは自分の名前だった。しかし彼に見覚えはない。少し癖っ毛の髪。柔らかい目元。“好青年”と言う表現が似合う雰囲気をしている。


「半蔵。放すのだ」

「……御意」


 男が言うと、忍装束の男が手元を動かす。すると小春の足に巻き付いていた拘束が解けた。自由になったところで上半身を起こし、座り込んだまま目の前に膝をつく男に向き直る。

 空色に金の装飾が施された白い衣服。長身の威圧的な男と同じく鎧を身に着けていた。ただマントを羽織っていて、彼より豪奢な雰囲気がいくらか身分が高そうに思える。


「あ、あの……なんで、私の名前知ってるの……?」


 恐る恐る訊くと、男は懐から巾着を取り出し、中から何かを出してそれを小春に向かって差し出す。

 油性ペンで黒塗りの星の半分側だけを描かれた小さな消ゴム――

 見覚えのあるそれに、小春もリュックからペンケースを開ける。消ゴムを取り出し、持った手を男に向かって伸ばした。男も小春に手を伸ばす。二人の持つ消ゴムが合わさり、星の形が綺麗に繋がった。


「やはり、小春殿でしたか……」


 目の前の男と、あの時の幼い少年が重なる――


「まさか……竹千代なの……?」

「今は徳川家康と名乗っております」


 小春が調べたとおりだ。松平竹千代は、後の徳川家康だった。

 家康と知り合いだとわかり、少しばかり警戒心を解いたのか、そばにいた男たちから感じる空気が和らいだ。小春と家康に歩み寄る。


「殿、この者は?」

「私の幼い頃からの友だ。泰平の世を目指す同盟を結んでいる」

「“泰平同盟”だよね。小春です。初めまして」

「小春殿。この者たちは私の家臣。本多忠勝と服部半蔵だ」


 改めて忠勝と半蔵を見る。長身で体格がよく、威圧感はあるが、ゴツくはない。美丈夫という言葉が合う。家康が『爽やかな青』なら忠勝はまるで『夜の藍』だ。

 半蔵は細身でしなやか。軽装な忍装束だが上品さがあり、どこか色気を感じる。

 そして家康は例えるなら『春の空色』のような暖かい空気。整った顔立ちの三人を前にして小春の胸の奥はざわついた。

 そしてゆっくり立ち上がると、転んで擦りむいたのか、足が痛んだ。


「なんと、お怪我を……申し訳ござらぬ。小春殿とは知らず、我が家臣が……」

「いいよ、いいよ。大丈夫だから。忠勝と半蔵も気にしないでね」


 二人にもそう言い、小春はリュックを背負い直す。家康と同じく忠勝は申し訳なさそうな表情をしたが、半蔵の方は表情が読めなかった。


「どこかに向かう途中だったのでございますか?」

「うん、まあ……家に帰るとこだったんだけど……帰り道が見当たらなくて」

「もしや道に迷われたのでは……」

「そんな感じ……」


 歯切れの悪い返答しかできない。ある意味これは迷い込んでしまったようなものだが、この状況をどう説明していいかわからない。


「……殿。夜も更けてきております。陣へお戻りを」

「そうだな、忠勝。小春殿、ついて来られよ。傷の手当てをしようぞ」


 家康たちについて行くと、そこには葵の――徳川の家紋が施された陣幕があった。その中に入ると、数人の男たちがご飯を食べたり話したりしていた。それぞれ傍らには兜を置き、格好は甲冑でいわゆる侍の姿だった。


「もしかして、戦中?」

「そうではないが……近々、戦は起こります」


 小春の問いに答えた家康の表情はどこか悲しげだった。

 奥に通された小春は、傷の手当てをしてもらい、そのまま椅子に腰掛けていると料理まで運ばれてきた。食べるよう促され、ちょうどお腹が空いていた小春は遠慮なくいただくことにした。

 口に広がる芋の味と、痛む足の傷。夢とは思えない感覚だった。意識ははっきりしている。記憶に障害もない。明らかに現実だ。

 信じられないが、過去に――戦国時代にきてしまったのだ。


「小春殿?」

「え、あ、ううん。なんでもない……」


 心配そうな家康の声に小春は笑顔を作って再びご飯を口に運ぶ。忠勝と半蔵はどこかと訊くと、彼らは周囲を絶えず見回っているらしい。

 食べ終わった後も会話は尽きなかった。そして、あの日出逢ってからのことを聞いた。


「そっか……あの後、すぐ今川へ人質に……」


 八歳だった家康は、あれから織田と今川の人質交換で元々行くはずだった今川に行かされたらしい。


「はい。それから十年が経ちました」

「まだ人質生活なんだね。泰平の世は遠いか……ご、ごめんっ」


 この手の話は彼にとってNGワードだった。しかし家康は笑っていた。


「もう泣きはしません。大人ですからな。妻も子もおります」

「マジで!?あんな小さかった竹千代が……すっかり大人になっちゃったね」

「小春殿は、まったく変わりませぬな。お若いままでございます」

「あはは……まあね」


 なんせあれから十年経っている。竹千代は成長して当然。しかしこちらは一週間だ。時空を越えただけでも驚きなのに、自分だけ年が変わらず、大きくなった彼を見るのはなんとも不思議な感覚だった。

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