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商人国家は、頭を下げに来た
白い空間に、見慣れない通知が浮かび上がった。
発信元:人間国家連合・商業評議会
要件:正式会談要請
名目:通商・物流契約の締結
「……来たか」
俺は小さく息を吐く。
神は恐怖で、
魔王は力の限界で、
契約の席に着いた。
では人間は?
「代表は?」
配下が即答する。
「商人国家の宰相兼、国家主席です。武力国家でも宗教国家でもありません」
俺は頷いた。
「合理的だな」
*
転送されたのは、異空間に造られた豪奢でも簡素でもない、落ち着いた会議室。
そこに立っていたのは、一人の中年の男だった。
武器はない。威圧もない。
だが――目が違う。
「人間国家連合を代表し、参りました」
男は名を名乗る前に、深く、頭を下げた。
神のような傲慢もない。
魔王のような矜持もない。
あるのは、
“交渉に来た者”の覚悟だけ。男は顔を上げ、真っ直ぐ俺を見る。
「力では、あなたに敵わない。信仰でも、恐怖でも、手が届かない」
だから――
「1人の商人として、商談契約をお願いに参りました」
太々しい表情の男に俺は、少しだけ笑った。
「いい判断だ」
*
商人国家アルセリオ。数ある惑星の中で彼らは、最初に異変へ気づいた。
物流が不自然に止まる世界。補給が崩壊する戦線。神託よりも、物の流れが重要だという事実。
「原因不明で発動しなかった神の奇跡。補給を確保出来ずにいた魔王軍が、勢いを取り戻した現状。神も魔王も、あなたと契約した。ですよね?」
男は言葉を続ける。
「ならば人間も、同じ土俵に立つべきだと考えました」
俺は腕を組む。
「条件は?」
「三つ、提示します」
男は紙ではなく、契約草案を差し出した。緊張しているのか額に脂汗が浮かぶ。
「一つ。人間国家間の物流は、すべて正式ルートを通す」
「一つ。価格・供給量は透明化し、不正干渉を許さない」
「一つ――」
男は一瞬、言葉を選び。
「あなたを、神話にも伝説にもしない」
俺は、目を細めた。
「……ほう」
「崇拝すれば、いずれ歪む。恐れれば、誰かが利用する」
だから――
「あなたは、“管理者”としてのみ扱う」
静まり返る空間。
配下が息を呑む。
神ですら、
魔王ですら、
そこまで割り切れなかった。
「面白い」
俺は、正直に言った。
「その条件、嫌いじゃない」
*
俺は、こちらからも条件を出す。
「人間側の条件は理解した」
「では、俺から三つだ」
空間に、契約条文が浮かぶ。
「一つ。物流は中立。戦争の勝敗を操作しない」
「一つ。人為的な独占が起きた場合、即停止」
「一つ――」
男を見る。
「人間同士の争いに、俺を引き込むな」
男は、即座に頷いた。
「それが一番、信用できます」
契約は成立した。
*
物流が、人間世界へ流れ始める。
だがそれは奇跡でも神罰でも魔王の威光でもない。
ー安定された物の流れーだ。
それがどれほど価値のあるものかを、人間は知っている。
男は、最後に言った。
「あなたは、世界を支配していない。だが――世界は、あなたを無視できない」
俺は答えなかった。
ただ、契約書を閉じる。
*
白い空間に戻ると、
新たな通知が、いくつも積み上がっていた。
神。
魔王。
人間。
すべてが、同じルールで並んでいる。
「……ようやく、揃ったな」
世界は、もう理解した。
剣でも、魔法でもない。
信仰でも、恐怖でもない。
流れを握る者が、上に立つ。
俺は次の契約候補を眺めながら、静かに呟いた。
「さて……次は、誰が学ぶ?」




