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魔王は、力で奪えると思っていた
異界の深淵。
黒き玉座に座す者――魔王は、苛立ちを隠さなかった。
「補給が、来ない……?」
報告に来た配下の魔将が、片膝をつく。
「はっ。侵攻中の三世界にて、武器・糧食・魔力触媒の供給が停止しております」
「原因は……不明」
「不明だと?」
魔王の指が、玉座を軋ませる。
あり得ない。
魔王軍は、奪い、殺し、支配することで成り立っている。
補給が止まるなど――
戦う以前の問題だ。
「神どもか?」
「それが……各世界の神々も、混乱している様子で」
「“外部から遮断された”と」
その言葉に、魔王は嗤った。
「遮断、だと?」
神を遮断できる存在。
もしそれが事実なら――
「面白い」
魔王は立ち上がる。
「ならば、その遮断とやらを――力で引き剥がすまでだ」
*
白い空間。
俺の前に、異様な通知が表示された。
発信元:魔王領域
内容:物流中継領域への侵入行為を検知
「……やっぱり来たか」
配下が一瞬だけ緊張する。
「迎撃命令を?」
「いらない」
俺は首を横に振った。
「“迎撃”は、同じ土俵に立つ行為だ」
「魔王には、それが理解できていない」
監視画面に映るのは、
無数の魔王軍。
空間を裂き、
次元を踏み越え、
《物流中継領域》へ侵入しようとしている。
だが――
「……進めない?」
魔将の声が、空しく響く。
剣も、魔法も、呪いも、
すべてが“途中で止まる”。
壁があるわけじゃない。
敵がいるわけでもない。
そこに“道が存在しない”だけだ。
「どういうことだ……!」
魔王自身が居城より力を送り出す。その圧倒的な魔力が、空間を歪ませる。
軋む空間。ガラスを引っ掻いたような軋み音に、部下たちが思わず耳を塞ぐ。
「馬鹿な。我の魔力が通用しないだと?」
不可思議な力に抗う魔王。
それでも――
魔軍は一歩も、進めない。
*
「魔王は、世界を壊す力を持っている」
俺は淡々と状況を眺めながら言った。
「だがな」
指先で、契約領域を示す。
「物流は、“壊す”ものじゃない」
「“通す”か、“止める”かだ」
魔王軍がどれだけ暴れようと、
物流網には触れられない。
なぜならここは――
力が介在する前の領域だから。
「侵入行為は、契約違反以前の問題だ」
俺は通知を開き、
一文だけ返した。
――《警告:不正干渉を確認。これ以上の接触は、全領域遮断対象とする》
*
警告を受け取った魔王は、沈黙した。
「……遮断、だと?」
次の瞬間。
魔王領域へ向かう、
すべての物流が――消えた。
前線の軍が止まる。
後方の工廠が沈黙する。
魔力循環が、途切れる。
「まさか……」
魔王は、初めて理解する。
奪えないものがある。
壊せないものがある。
そしてそれは――
力の上に存在している。
*
白い空間で、俺は静かに告げた。
「魔王」
返事はない。
だが、聞こえている。
「取引を知らない者ほど、物流を軽んじる」
「そして軽んじた者から、真っ先に詰む」
画面の向こうで、
魔王が歯を食いしばる。
この時点で、勝負は終わっていた。




