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世界は、止まってから気づく。己の行動が傲慢だったのかを。
配送停止の影響は、即座に現れた。
白い空間に浮かぶ監視画面の一つ。
そこに映っていたのは、先ほど配送を止めた惑星――例の神が管理する世界だ。
「……あーあ」
俺は小さく呟く。
その世界では今、王都の各場所が混乱の渦に巻き込まれていた。
「なぜだ! 回復薬が作れない?」
都市の薬剤を扱う場所、製作に関わっている者たちが悲鳴をあげる。
そして別の大陸。空間を使い荷物を移動させる役割を担当しているらしき軍人が違和感に気づく。
「前線への武器補給が止まっているぞ!」
「原因が不明です。このエラーはここだけではないようでして…」
首を傾げる兵士たち。武器物資が届かなければ、戦いどころではない。頭を抱えて呻く。
「神託では“今日届く”はずだったんじゃないのか!」
都市の巨大な教会の煌びやかな祭壇。大司教らしき男が、神の姿をかたどった神像に向かって、祈りを捧げ続けている。
「あの奇跡の薬がなくては、教会は……」
騒ぐ人間たちの頭上で、
神は必死に原因を探っていた。
「おかしい……今まで通り手配したはずだ」
「スキルも、供給も、何一つ変えていない……!」
変えたんだよ。
俺が。
この世界は、俺の《物流中継領域》を通さなければ、
他世界の物資に一切アクセスできない。
それを理解していない神は多い。
「おかしい……おかしい……!」
神は焦り、
そして――やってはいけない選択をする。
*
「追加注文だ」
白い空間で、俺の前に新しい通知が表示された。
発信元:異世界管理者
内容:緊急配送要請(優先度:神権)
俺は思わず鼻で笑う。
「……神権、ね」
契約書を開く。
該当項目を指でなぞり、赤く光る条文を確認した。
――【第三条:契約違反が三度確認された場合、配送は即時停止される】
「ちゃんと書いてあるだろ」
優先度がいくら高かろうが、
契約違反は契約違反だ。
俺は却下ボタンを押した。
*
その瞬間、惑星側では異変が起きた。
神の神託が、届かなくなった。
「な、なぜだ……!?」
「なぜ声が……繋がらない……!」
神が扱っていた“外部由来の力”――
異世界間を繋ぐスキル、神が施す奇跡、スキルによって創り出された補給品の数々。
それらは全て、物流を介して流れていた。
流れが止まれば、
世界は自力で回らなければならない。
「まさか……」
神はようやく、
自分が“誰かの管理下”にあったことを悟り始める。
*
白い空間で、俺は配下から新たな報告を受け取った。
「管理者から、再交渉の要請が来ています」
「条件は……謝罪と、再契約希望です」
「遅いな」
俺は契約書を閉じ、立ち上がる。
「契約違反は三回までだ」
「四回目は――交渉すら受けない」
画面の向こうで、
世界が必死に足掻いている。
だが、もう遅い。
スキルを与えれば世界が回る?
違う。
世界は、止まってから気づく。
何に依存していたのかを。
そして今日もまた一つ、
物流を失った世界が生まれた。




