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『辺境伯夫人の安眠計画 〜二度寝を邪魔する「破滅フラグ」は、この手で叩き潰させていただきます〜』  作者: こもり詩


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第4話:初めての「最適化」と、見えない鍵盤

昨日、カシアンが言っていた「魔物の活発化」。それが何を意味するか、元社畜の私には一瞬で理解できた。


(魔物が来る=お屋敷を守る「守護結界」の出力が上がる=その大元である「魔力炉」の負荷が爆上がりする)


視界の端に「設計図(UI)」を呼び出し、お屋敷の現状をスキャンする。


【屋敷全体・魔力伝導率:72%(あちこちで魔力が漏れています)】 【結界の安定度:警告(手動の継ぎはぎメンテナンスでガタがきています)】 【想定される整備時間:3時間(カシアンの残業確定)】 【最適化された術式を使用時:5分】 【確保できる追加の睡眠時間:+175分】


案の定、地下のインフラ拠点から「もう限界です!」という魔力炉の悲鳴が聞こえてくる。


(カシアンがこのスケジュールなら、間違いなく魔力炉の事故が起きるわ。そしてこのお屋敷はドカン。私の布団は消滅。……そんなの、絶対に回避しなきゃ!)


私は「お花を摘みに……いえ、少しお散歩に」とアンに告げ、隙を見て地下への隠し階段へと潜り込んだ。地下は、現場の過酷な労働環境特有の、重く淀んだ空気に包まれていた。


「……なるほど。特定のカシアンに頼り切ったシステムの極みね」


巨大な魔力炉を前に、私は袖をまくった。 実を言うと、魔法なんて一度も使ったことはない。けれど、この炉の前に立った瞬間、私の視界に「それ」が強制的にポップアップしたのだ。


【外部デバイス:魔力制御炉を検知しました】 【ドライバの読み込み中……成功】 【操作権限:管理者アドミンとしてログインしますか? [はい / いいえ]】


(え、これ……ログインできるの?)


おそるおそる脳内で「はい」を選択した瞬間、私の視界は一変した。 濁った魔力の奔流の隙間に、幾千もの光の線――魔力の「ソースコード」が浮かび上がったのだ。


(そうか……。以前のリゼットは『魔力だけは高い置物』扱いだった。それは、彼女の体が『超広帯域な光回線』のような、魔力を流すための完璧な基盤を持っていたからなんだわ)


基盤ハードウェアは最高。でも、それを動かす知識ソフトウェアがリゼットにはなかった。 逆に、私には前世で培った「論理的思考」と「システムの組み替え」の知識があるけれど、魔法を動かす力がない。


(リゼットの『体』と、私の『脳』。この二つが合致した今なら――書ける。この世界の理を、私のやり方で!)


私は誰もいない魔力炉の前で、大きく息を吐いた。 そして、空中に私にしか見えない「不可視の盤面」を思い浮かべる。前世で、指の一部になるほど叩き続けた、あの長方形の入力装置キーボード


私はすっと両手を宙に浮かせた。


そして、まるで見えない鍵盤を叩くように、指先を高速で動かし始めた。


「タタタタンッ、タンッ!」


実際には音など鳴っていない。だが、私の脳内には心地よい打鍵音が響き、指が空を切るたびに、魔力炉を構成する術式がパチパチと組み替わっていく。


【分析:カシアンの魔力が無理やり全体を稼働させています】 (うわぁ、ひどい。何世代前よ、このスパゲッティみたいに絡まった術式……! これだけの回路がリゼットの体にはあるのに、カシアンが一生懸命『手旗信号』で指示を出してるようなものね。効率が悪すぎる!)


私は指の動きを加速させる。 右に、左に、空を舞うように指を踊らせ、散らばった魔力の信号を整理して繋ぎ直していく。


不思議な感覚だった。指が、勝手に最適なキー――魔力の結節点を探り当てる。 「キーボードを叩く」という慣れ親しんだ動作が、私にとっての「詠唱」であり、「魔法の行使」そのものになっていた。


(これなら、魔法の使い方が分からなくても、ブラインドタッチ感覚で世界を書き換えられる!)


【調整完了:所要時間 4分32秒】 【布団の守備力:大幅上昇】


(よし……これで屋敷が吹き飛ぶリスクは回避したわね)


「――何をしている」


背後から響く低い声。カシアンだ。最悪のタイミングでのエンカウントである。


「……安定している……? 君が、やったのか」


鎧姿のカシアンが、驚愕の表情で魔力炉の前に立っていた。背後には数人の騎士たちもいる。


私は即座に「儚げモード」を全開にし、ふらりと壁に手をついた。


「……ごめんなさい。少し……炉の鳴き声が、辛そうでしたから」 (※脳内訳:このままだと魔力炉が爆発して私の安眠拠点が消滅しそうだったので、全力で直しただけです)


「そんなことが……。これほどの密度の魔力を、一人で整え直したというのか……!」


カシアンが私の肩を抱き寄せる。その力は折れそうなほど強いのに、壊れ物を扱うように優しい。


「……すまない。私の不甲斐なさが、君をここまで追い詰めていたのか……」


カシアンにとって、この完璧に整備された魔力炉は、リゼットが「自らの命を削って捧げた最後の祈り」に見えているのだ。


「……もう二度と無茶はするな。……いいか、二度とだ」


カシアン様の震える声。それは命令というよりも、自分自身に言い聞かせるような、悲痛な響きだった。


私はカシアン腕の中で静かにUIを閉じた


(よし……これでシステムの爆発リスクはゼロ。カシアンの夜勤も減るはずだし、今夜は誰にも邪魔されずに寝れるわね)


その夜。私は最高級の布団で「完璧……」と呟きながら眠りについた。


【ニート安定度:+15】 【カシアンの執着度:+999】


なお、カシアンは「妻が命を削って自分を支えてくれた」という衝撃と、彼女を死なせたくないという恐怖で、朝まで一睡もできなかったらしい。


【ミッション完了:インフラの自動化に成功】 【報酬:カシアンの『過剰な保護責任ロックオン』を獲得】

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