思い込みと仕様の違い
自分のステータスを見て驚いた。
目を閉じて落ち着いてから開いてみるが結果は同じ。
(何この数値!?どういう事!?)
足すまでもなく合計が低い、確かに100振り切ったはずが半分⋯いや半分どころか切り捨てられている。
「あの⋯あまり気落ちしないでくださいね、冒険者になる事が決して良い事とは限りませんから」
そう言い残してベスターさんは業務に戻っていった。
それと入れ替わりにリーゼさんが声をかけてくる。
「ベスターさんの言う通りよ、あのね⋯冒険者になっても必ず成功するわけじゃないし運が悪ければ死んでしまう事だってあるんだから」
「⋯え?あ⋯はい。そうかもしれませんね」
「あれ?あまり気落ちしてない?」
「ステータスを見てショックではありますね⋯」
(筋力と運勢が仕様上の最低値より下って⋯)
「あー⋯やっぱり大丈夫じゃないかもしれません⋯」
思ったより効いたようでカウンターにもたれかかり脱力する。
少しの間思考放棄していると頭を撫でられ焦点が合う。
「⋯ごめんなさい。リーゼさんが居るのにこんな格好で失礼を⋯」
「いいよいいよ、自分のステータスを知ってショックを受ける人は偶に居るから。」
頭を上げているのに撫でるのをやめようとしない。
「あの⋯何で撫でてるんです?」
「え?嫌だった?」
「嫌では無いですけど少し擽ったいです」
「ステラちゃん髪綺麗だよねー、サラサラだし触り心地が癖になりそう」
(⋯ステラちゃん?)
「リーゼさん、ステラちゃんって?」
「ん?名前でしょ?アルステラだからステラちゃん」
「ええ⋯、そこはアルスじゃないんですか?」
「そっちは男の子っぽいでしょ、ステラちゃんの方が合っているよ?」
(元々男の子の名前のつもりだったんだよなぁ⋯アルス=テラで)
撫でるのをやめる気配がないのでまた頭を下げる。
「はぁ⋯魔法への手がかりが⋯」
「そんなに魔法に拘るなんて、何か事情でもあるの?」
「拘ってるつもりは無いんですけど、ちょっと行き詰まってるんです。魔力を出す事はできるのですが魔法として発動しないと言いますか⋯」
「魔力を出す?魔法を出すのではなく?」
「あれ⋯?もしかしてやり方がおかしい? 普通魔法使うのって何かモニョモニョ唱えますよね」
「モニョモニョって⋯確かに中級者とかはやる人もいるけどね⋯」
「あれって決まった言葉があったりするんですか?炎のーとか敵を焼き尽くせーみたいなの」
「ううん、そもそも必ずしも言葉を並べる必要って無いはずなのよね。あれって魔法のイメージを自分に言い聞かせる自己暗示みたいな物らしいし」
「え?そうなんですか?」
意外な話に興味を引かれる。
「私も詳しくは知らないけどね、特に威力や規模に拘らず簡単な低級魔法なら単語1つでも出せるわよ」
「リーゼさんも魔法を使えたりするんですか?」
「使えるわよ、仕事でよく使うしいつも査定の後にやってるわ」
「え!?気付かなかった!どんな魔法ですか!?」
リーゼさんが手を見せて
「汚れを落とす魔法よ、クリーンって魔法なんだけど使い慣れてるから言葉は発する必要が無いの。査定で色々触るからね、そんな手でお金を触ったり頭を撫でたりできないでしょ?」
と手をひらひらさせる。
(た、確かに⋯全然気にしてなかった⋯。でもクリーンって魔法の名は知る事ができたぞ)
手に少しだけ付いた土汚れを見ながら綺麗にするイメージで唱えてみる。
「⋯クリーン⋯クリーン?⋯⋯クゥリィィン」
「⋯最後の変な言い方は何?」
リーゼさんが笑っている。
「⋯何も起こらないなぁ」
「うーん?低級魔法だからある程度魔力があれば簡単なはずなんだけどね。さっき見た魔力値なら余裕だと思うんだけど⋯」
不思議そうに首を傾げる、そして何かに思い至ったような表情になる。
「ステラちゃん共通語を綺麗に話すから気付かなかったけど、もしかして違う国から来てたりする?」
(共通語?国?)
「あ、はい。確かにこの国の生まれではありませんけど⋯」
「出身国の魔法系統なんじゃない?共通語を学んでいるから今ならクリーンって言葉が通じると思うけど祖国に居た時は何て言ってた?」
「国の⋯言葉⋯」
(当たり前に話せていたから気が付かなかった⋯言語の違いか⋯)
「何だろう?掃除?浄化?」
「掃除に浄化?まだこっちの言葉になってるわよ」
「あれ⋯?ええと」
(意外と切り替えられないな)
『掃除⋯洗濯⋯浄化⋯?』
ー対象が指定されていませんー
(!!)
日本語で唱えるとスキル獲得の時のようなメッセージが表示される。
(日本語か!確かにクリーンは今でこそ通用するけど本来は外国のもの)
「聞いた事のない言葉ね、何処の国の言葉なのかしら⋯」
(対象の指定?汚れ⋯自分⋯違う⋯もしかして)
小さめの魔力塊を出して汚れた部分を覆う。
『⋯浄化』
無色だった魔力塊が白く色付き溶けるように無くなると覆っていた手の汚れはすっかり無くなっていた。
「お⋯おぉぉ⋯できた!できましたよリーゼさん!」
「よかったわね、そんなに喜ばれると助言した甲斐があったわ」
リーゼさんが優しい顔で言う。
こちらは解禁された魔法にテンション上がりっぱなしだ。
(次は何を⋯何を試そうか、火かな?まずは火魔法かな!?)
「⋯ステラちゃん」
魔力塊を出したところでリーゼさんから声がかかる。
「⋯魔法が出せて嬉しいのはわかるけど、施設内で許可無く攻撃魔法を使うと処罰対象だからね?」
「⋯あ、ハイ⋯」
ボクは正気に戻った。
リーゼさんに謝り筋力2には重いと判明した扉を開けて外へ出る。
(宿でも攻撃魔法はダメと太い釘を刺されてしまったし、今日は大人しくしていよう)
などと思うはずもなく
(攻撃と思われなければセーフだよね!)
そよ風を起こしたり小さな水の球を浮かせたりと色々試してみる。
土系統は地面に触れる必要があるのか全く反応せず別の日に試すことにした。
光と闇を試す時、交互に使っていた為に窓が激しく点滅するように見えていたらしく部屋の中での魔法実験は禁止になった。




