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初の収入を得たので無事に女将さんへの支払いを済ませる事ができ、その日も部屋を借りて泊めてもらうことにした。
(最初に着いたのがこの町で良かったかも)
今のところ好奇の視線は多いが何かされるわけでもなく平和に過ごせている。
じっと自分の手を見つめて今日を思い返す。
(稼ぐ手段はなんとかなりそうだし毎日働くというわけでもない。空いた時間でこの世界について調べたり自分の事も色々知っておかないと⋯)
指先に意識を集中し昨日と同じ揺らぎを出そうとする。
今回は規模を抑えるつもりでやってみると前回より小さく揺らぎも薄い塊が出来た。
とりあえずこれを魔力塊と呼ぶ事にする。
(意識すれば大きさや強さの調整は可能⋯昨日はいきなり蛇口を全開にしちゃった感じか⋯)
昨日よりも消耗は軽いようで消えた後の怠さも無い。
出力を抑えながら何度か検証すると指先だけではなく自分の身体の何処からでも出す事ができるようだ。
しかし身体から離れる場所となると重苦しさを感じ出しにくくなる。
(場所に縛りは無くて距離で抵抗、もしくは減衰する⋯?出力を上げれば数mはいけそうだけど結構辛いな⋯)
出して消してを繰り返し、苦なく出せるのは精々身体から手を伸ばした程度の距離だとわかった。
(この世界の人達はどうなんだろう、比べる対象が無いからわからないな)
何度も試しては休むを繰り返すうちに、いつの間にか意識は沈んでいた。
(うわぁ⋯寝ちゃってた⋯)
明け方の薄暗い時間に目が覚めて、検証しながら寝落ちした事に気が付く。
(しまったなぁ、身体拭いてないや。⋯臭くないかな?)
各部嗅いでみるも自分の体臭には鈍いと聞いたことがあるのでどうしても気になる。
(綺麗にする魔法とか無いのかな?お風呂が恋しくなるよ⋯水浴び⋯うーん、物語では主人公がヒロインの水浴びに遭遇してとかあるけど⋯)
水浴びしているのを自分に置き換えるとゾワッと悪寒が走る。
(ないない、衛生面も気になるし水浴びは無しだな⋯)
ぽっと指先に魔力塊を出す。
「これの使い方も探さないと、出かけよう」
早朝から採取を始め薬草を2束だけ確保する。
まだ昼前という時間に作業を終えてギルドに顔を出すと、相変わらずの混み具合に反して右奥には暇そうな買い取りのお姉さんが居た。
「おはよう、ってもう採ってきたの?」
「おはようございます。今日は調べたい事がありまして、早めに出て終わらせてきました」
「働くねー、調べたい事って?あ、預かるね」
薬草を預けて作業を見守る。
「お姉さん、魔法ってどうやって使うんでしょうか?」
「んー?魔法が使いたいの?適性とか色々あるけど⋯簡単なものならギルドの資料室にも魔法に関する資料があったと思うよ」
(お⋯これは本を読んで魔法を使えるようになるイベント?)
思わずテンションがあがる。
「それ⋯見せてもらう事ってできますか?」
「ギルドに登録してある人なら閲覧はできるよ」
「ボクでも登録って可能ですか?」
「12歳以上ならできるけど⋯冒険者になるの?」
「本を読むために登録って⋯ダメですか?」
お姉さんは少し考える素振りを見せ
「ダメって事は無いと思うけど、登録直後や最後の活動から一定期間内に新しく活動した記録が無いと抹消されちゃうんだ。その場合再登録には結構な手間とお金がかかるから資料を見るだけならオススメはしないかな」
(幽霊やイタズラ登録を減らすためかな?)
「採取は冒険者の活動とみなされないんですか?」
「薬草等の近隣で採れるものは対象外かな、高山とか森の植物の採取依頼やダンジョン内の貴重な物なら含まれるのだけど⋯」
(森ってボクが居た所かな?)
「森って門から見える森ですよね?危険なんですか?」
「特別危険ってわけじゃないけど、野生動物も居るからね。ある程度自衛できると判断されないと依頼は受けられないわ」
お姉さんが査定を終えてトレイにお金を乗せる。
「はいこれ、今日の分ね。」
「ありがとうございます、あの⋯冒険者登録したいです」
「⋯そう言うと思ったわ、今更だけど私はギルド職員のリーゼ。貴女のお名前を聞いてもいいかな?」
「え⋯?名前⋯」
(名前⋯まだ確認できないし変わっている可能性もある、参ったな⋯)
「あの⋯登録に名前が必要なんですか?」
「バレるとまずい事でもあるの?」
じっと見つめられて目を逸らしてしまう。
「いえ⋯そういうわけでは⋯」
「偽名でもいいわよ」
「え?」
「登録申請は偽名でもいいわよ、でもギルドへ登録する時に情報を読み取る装置とカードに本当の名前は出ちゃうけどね」
「偽名で申請って⋯いいんですか?」
「貴族のお忍びとか高ランクの人が暇潰しで低ランクパーティーに入るため偽名登録する事もあるわ、犯罪目的でもないしちゃんと活動もしてるから違反ではないって主張するのよ」
(あ⋯もしかして俺つええ!かな?)
「じゃあすみません⋯今はアル⋯という名前でお願いします」
「アルね、ちょっと登録係呼んでくるから待ってて」
お姉さんは受付カウンターの方へ向かい、男性職員と何か話している。
2人で時折こちらを見たりしていたが話が終わったのかお姉さんが戻ってきた。
席についたお姉さんは少し心配そうに話しかけてくる。
「アル⋯ちゃんでいいわよね、本当に登録するの?実は貴女、良いところのお嬢さんだったりしない?お金の事を知らなかったり名前を隠したがったり、登録係の人もちょっと気にしているのよ」
「あの、全然そんな事ないです。名前もちょっと事情があってその⋯一部しかわからないんです⋯」
「⋯どういう事?」
「今はちょっと説明しにくいと言うか⋯名前が分かったらそちらで登録してもらっても全然平気ですからその⋯」
「⋯そっか、何かに巻き込まれている訳じゃないって言ってたし今のところはいいわ」
「⋯ごめんなさい」
「気になるけど話す気になったら話してね。力になれる事、あるかもしれないし」
「はい」
「そろそろ良いでしょうか?」
少し離れて待っていた登録係の男性が機材を持ってやってくる。
「登録係のベスターと申します、これからアルさんの登録作業を始めたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします」
「私も同席させて貰うわね」
お姉さんも少し離れた場所に控えてくれた。
「まず流れとしましては、犯罪歴の調査とステータスの読み取りに審査。職員2人が問題無しと判断すればそのまま登録という流れとなります。」
頷く。
「まずは犯罪歴の調査から、必要ないとは思いますが決まりなのでご理解くださいね。こちらに手を⋯⋯問題無し⋯と」
(何もやってないけどドキドキする⋯)
「次にステータスの読み取りとなります、同じく手を⋯⋯はい結構です。楽にしてしばらくお待ち下さい」
今の所は問題が無いようでほっとする。
しばらくすると読み取った装置の一部が淡く発光しカードのような物が排出された。
「こちらが登録前のカードとなります。ステータスの審査となりますのでアルさん御本人がカードに触れステータスと念じて下さい」
(あれ、やっぱりステータスってキーワードあるんだ)
言われた通りにカードに触れ、ステータスと念じる。
「ありがとうございます、では⋯⋯え?」
ベスターさんが驚いた表情でカードを見つめる。
「何か問題でもあったの?」
リーゼさんが聞くとベスターさんははっとした様子で
「あ⋯いえ⋯問題と言いますか初めて見ると言いますかですね」
困惑した表情でこちらに目を向け頭を下げる。
「アルさん申し訳ございません⋯審査の前ではありますが、現状での登録はオススメできません」
「⋯え?」
(⋯ダメってこと?)
「年齢や犯罪歴に問題は無かったのよね」
「ええ、そこは問題ありませんでした」
「あの、理由を⋯理由を聞いてもいいですか?」
何故ダメなのか理解できない
ベスターさんは申し訳なさそうに説明を始める。
「⋯私も初めて見たのですが、アルさんのステータスは戦闘には向いていません。恐らくその辺の野生動物でも厳しいでしょう」
「近隣の生物でも?どういう事?」
「こちらを」
ベスターさんがリーゼさんにカードを渡す。
カードに目を通しているリーゼさんの表情が驚きに変わる。
「これは⋯間違いじゃないの?」
「その可能性もありますが⋯試してみますか?」
「そうね、お願いするわ」
リーゼさんの言葉で2回目の読み取りが行われたが表情から結果は同じなのだろう。
「名前⋯はわかったわね、でもこれは⋯」
「これで登録許可を出してしまえば何かあった時に悔やみきれません、私は反対します」
「そう⋯ね」
ベスターさんがこちらを向き、困ったような表情で口を開く。
「正式に審査の結果をお伝えします」
「⋯はい」
ボクの手にカードを持たせこう告げる。
「アルさん、私達2人は貴女の今のステータスでは冒険者としての活動は困難と判断しました。申請は却下させていただきます、ご理解ください」
渡されたカードにはこう刻まれていた。
アルステラ レベル1
筋力 2
体力 5
敏捷 20
魔力 20
運勢 2




