採取のすゝめ
「よかったらこの鋏を使って、頑張ってきてねー」
鋏を受け取り出入り口の重い扉を開けてギルドの外へ出る、重そうに扉を開ける姿は妙に注目を集めるようだ。
町の外へ出るために門へ向かうと昨日とは別の若めの男性が立っていた。
「⋯1人で出るのかい?」
「はい、すぐ近くで薬草を集めようかと」
ギルドで借りた鋏を見せる。
「そうか、近場とは言え暗くなると危ないから注意してね」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げて門の外へ出る。
広大な平原が見え遠くには大きな山脈や深そうな森と小さいながらも建物らしきものがいくつか見える。
見晴らしは最高でのんびり過ごすにはうってつけだが残念ながら今はそんな暇は無い。
「さてと⋯」
目標は昨日と同じ量の薬草を3束以上。
(もし査定してもらっても金額が不足していたら困るから多めにあった方が良いかな)
周囲の草に焦点を合わせ鑑定しながら薬草の採取を開始する。
(競争相手が少ないどころかボク以外に誰も居なくない?⋯⋯あれ?)
作業を始めてからすぐに薬草の鑑定結果に違いがあることに気付く。
鑑定結果 薬草 根元の成長点を残して切り取るのを推奨
(鑑定が成長したわけでもないのに⋯切るべき場所がわかるようになっている。お姉さんが教えてくれた事が影響している?)
スキルの変化に嬉々としながら採取を進めていく。
作業を続けているといつの間にか日が高くなっていて結構な時間が経過していた事に気付く。
(そろそろお昼くらいなのかな、この身体あまりお腹空かないからわかりにくいんだよね⋯)
ふと朝に受け取った包みを思い出し、丁度良いので昼食とする。
薬草が日の光で干されないように日陰に移してポケットから包みを取り出す、ゆっくりと中の物に汚れがつかないように開けてみる。
中に入っていたのは薄切りにされたパン、少し齧ってみるとシュガーラスクのような物だった。
サクサクとすぐに完食。
(ありがとう女将さん、ご馳走様でした)
甘味に満足して少し休憩。
太陽の柔らかな日差しが心地よい。
(日向ぼっこをする吸血鬼って変だな⋯いや採取する吸血鬼も大概か⋯)
ぼーっと考えてると少しうとうとしてしまったが寝ている場合じゃないと慌てて採取を再開した。
黙々と薬草を集めていると日が傾き始めてきたのか、景色が少し赤みがかっていた。
今日の成果、薬草の束は5つになっていた。
(これくらいあれば大丈夫かな?暗くならないうちに⋯なっても平気だけど早く帰ろう)
薬草の束を抱え込む。
(お⋯重い!?)
しかし全て抱えるのは無理なようだった、乾燥していない草束は結構な重さがあったので3つと2つに分けて運ぶ事にした。
抱えて戻っていると衛兵さんが手伝いを申し出てくれたが持ち場を離れさせるわけにはいかないのでお礼を告げて気持ちだけ受け取った。
束を3つ抱えてギルドの前に到着し、薬草の束を置いて扉を開ける。
開いたので薬草の束を拾うと扉が閉まった。
再び薬草の束を置いて扉を開ける。
完全に閉まらないように足で抑えながら薬草の束を拾い上げ、頭と肩で扉を押し開ける。
中に入ると当然注目の的で逃げるように買い取りカウンターへ向かった。
逃げ込んだ先で迎えてくれたのは笑顔のお姉さんではなく視線を反らし肩を震わせたお姉さんだった。
「おっ⋯かえりっ、⋯沢山持ってきたね?」
「はい、重かったです⋯⋯扉も」
「くっ⋯ふっ」
再び震え出したお姉さんに持ってくる薬草の束がまだ残っている事を告げて外へ向かう。
薬草を回収してギルドに戻ると誰かが扉を開放してストッパーのような物を置いてくれていた。
「ごめんねぇ⋯笑っちゃいけないとは思ったんだけど⋯」
「いえ⋯気にしないでください⋯査定をお願いします」
「すぐに始めるね、沢山あるからこれを飲みながら少し待っててね」
お姉さんはお茶のような物を出してくれて薬草の束を調べ始めた。
「⋯丁寧に採ってくれたんだね、これなら品質も良さそうだよ」
「本当ですか?良かったです」
とりあえず評価は良くなりそうなので一安心。
飲み物をいただきながら査定をするお姉さんを眺めていると、半分くらい終えたあたりで他の束と見比べて手を止めた。
「⋯ちゃんと見分けてあるし他の束も丁寧に切り取られているから大丈夫だね。査定は終わり、ちょっと待っててね」
奥の机に向かい、トレイを手に戻ってきた。
目の前に置かれたトレイには白っぽい硬貨が3つ。
「これは⋯銀貨?」
「そうだよ、えーと⋯お待たせしました。査定の結果は薬草で品質は良、査定額は銀貨3枚となりますがいかが致しますか?」
(急に営業口調⋯決まりなのかな?)
目の前にある銀貨に目を向ける。
「⋯3枚もですか?」
「最初との差に驚いた?素材の良さは完成品の品質に直結するからね、薬草の品質は良いし量もあるから適正な金額だよ」
(結局戻ってるし⋯)
「そうなんですね、思ったより多くて驚きました」
「じゃあ、この金額で買い取らせてもらってもいいかな?」
「⋯はい、是非お願いします」
「ありがと。はいこれ、失くさないようにね」
銀貨を受け取りポケットにしまい込む。
お姉さんが薬草を籠に入れながら話しかけてきた。
「それで今日1日、採取をやってみてどうだった?」
「どうって、銀貨の為にと思いながらやっていたので特に何も⋯」
「飽きたーとか辛いとか思わなかった?」
「はぁ⋯特には?」
こちらを振り返り笑顔で身を乗り出してくる。
「ならしばらく薬草の納品をやってみない?毎日じゃなくていいの、週に1〜2回納品してくれればいいから」
「持ち込みの買い取りではなく仕事として納品という事ですか?」
「そう、頻繁にではないけど薬草が欲しい人からの依頼書も回ってくる事もあるんだ。その場合直接の取引だから普通の買い取りよりも少し値が良くなるよ」
「そうなんですね、えーと⋯」
(採取は苦にならないし安定した収入が見込めるなら⋯ありかな)
少し考えた結果、提案を受け入れることにした。
「それじゃ毎日じゃなくていいから、気が向いたらお願いね」
「はい、今日は色々とありがとうございました」
「⋯最後まで硬いなぁ⋯もうちょっと気楽に話してくれてもいいんだよ?」
「そう言われましても⋯初対面の人が相手だとちょっと⋯」
「そんなの気にしなくてもいいのに、じゃあ慣れてくれるまで待つね」
「はぁ⋯」
「お金、失くさないように気を付けて帰ってね」
「はい、失礼します」
手を振るお姉さんに見送られ、重い扉を開けてギルドを後にした。




