初めての町
(抜けた!広い⋯明るいっ)
3人に見つからないよう後を付いていくとようやく森を抜ける事ができた。
遠くには建物らしきものを確認でき、急に心が軽くなる。
(ありがとう、ハンターさん達)
すっかり距離が開いて景色の中の3つのゴマ粒となった3人組に手を合わせて感謝する。
見通しは良く陸にも空にもファンタジーならではの脅威となりそうな生物は居ないようだ。
歩きながら周囲の草花や木々を観察する。
見覚えのあるような草花もあるし見たことのない物もある。
珍しさからじーっと見つめていると、雑草の中にいくつか薬草と表示される物があった。
(薬草⋯鑑定が低いからかざっくりとした表記だけど、高レベルになると正しい名前や効果が出てくるのかな?)
薬草ではあるが食べれば良いのか、傷に貼れば良いのかよく分からない。
(ゲーム知識だと薬草と言えば傷の回復だけど⋯ただの胃薬とかだったりしないよね?)
持っておく分には損はないだろうといくつか摘み拾いながら歩いていく。
集めている薬草がちょっとした束になる頃には建物の群れは近くなり、簡単な造りながら門があって衛兵らしき壮年の男性が1人立っていた。
(おおー、異世界初の街⋯町?)
大きいが都会というわけでもない。
周囲を見渡しながら男性の方へ歩いていく。
「⋯1人か?」
「はい、近くでこれを摘んでいたんです」
「あぁ、薬草か⋯帰りも気を付けてな」
(やくそうじゃなくて⋯くすりぐさなんだ⋯)
お約束の許可証や身分証云々のやり取りも無く、そこまで厳しく監視しているわけではないようであっさり入ることができた。
(とりあえず人のいる場所には辿り着けたけど⋯これからどうしようか)
不思議とお腹は減っていないのでまずはゆっくり休める場所の確保をしたい。
(野宿はどんな危険があるかわからないしまずは宿探しかな。泊まるならお金だよなぁ⋯、売れそうなのが摘んできた薬草しかないけどお金になるだろうか)
まずは一番近くの大きめの宿で宿泊料を確認する。
「すみません、1泊おいくらでしょうか?」
「1泊のみでしたら銀貨2枚になります」
「そうですか、ありがとうございます。少し検討したいのでここに決めたらまた来ます」
他を確認してからにしようと出口に向かうと声をかけられる。
「なあ嬢ちゃん俺の部屋に止めてやろうか?」
「⋯いえ、結構です」
「バーカ振られてやんの」
「うるせぇ!」
また別の宿では
「すみません、1泊おいくらでしょうか」
「銀貨1枚と銅貨7枚、連泊なら銅貨2枚引きだ」
「そうですか、この町に宿はいくつあるのでしょうか?」
「うちを含めて3件だな」
「ありがとうございます、少し検討してここに決めたらまた来ます」
既に2件を確認したので残り1件。
最後は通りの奥の目立たない場所にあった。
1階が食堂なようでおそらく2階が宿泊する部屋となる場所だ。
「すみません、ここは1泊おいくらでしょうか」
「えぇ⋯お嬢ちゃん1人でかい?家出じゃないだろうね⋯親御さんはどうしたんだい」
いかにも女将さん!という感じの人の良さそうな
女性が訝しげに聞いてくる。
「家出じゃありません、親はその⋯居なくて⋯」
「⋯あー⋯すまないね、悪いこと聞いちまったみたいだ⋯。うちは食事込みで1泊銀貨1枚と銅貨2枚だよ。食事無しなら銀貨1枚だ」
「いえ⋯大丈夫です。あの⋯薬草の買い取りをしている場所を知りませんか?」
「買い取り?あんた金が無いのかい?」
「はい、恥ずかしながら⋯」
恥ずかしさで目を合わせられなくなり顔が熱くなる。
「⋯泊まっていきな」
「え?」
「買い取りは今から向かうんじゃもう遅いよ、今日は泊まっていいから明日売りにいきな。金はその後でいいよ」
ニッと良い笑顔で女将さんはそう言った。
案内してくれる女将さんに付いていく。
「すみません、お世話になります」
「そう畏まらなくていいよ、支払いが明日になるだけであんたはもう客だ。気にせず部屋を使っておくれ。食事は部屋まで持って行くかい?」
「いえ、食事までは⋯」
「遠慮しないでいいってば。金は取らないから食べておきな、後で持っていくからね」
「⋯ありがとうございます」
案内された部屋は丁度良い広さで綺麗に清掃されていて快適に過ごせそうだった。
外套をかけ身軽になりベッドに腰をかける。
「⋯ふぅ」
少し硬めのベッドだがふかふか沈みすぎる高級品よりは自分好みだ。
(良かったぁぁ⋯とりあえず今日寝る場所はなんとかなったよ⋯。明日はどうにかして宿代を稼がないと⋯)
「⋯さて」
一先ず今日は無事に終われそうなので
色々と確認しておく。
(メニューのような物は今のところ出す方法がわからない、けどスキル獲得の表示があった以上それに似た何かしらはあるはず。)
足をぶらぶらさせながら今日試した事を思い返す。
(魔法はスキル選択でたしかに取ってあるはずなのに使えない理由は何だろう⋯?
詠唱短縮もあるはずだから何かが足りてないのか、そもそもゲーム知識のキーワードが間違っている⋯?)
ぼーっと人差し指を見つめ適当に指先に意識を集中する。
すると指の周り空間が陽炎のように揺らいでくる。
(何か出てる!?今なら⋯)
「ファイ⋯じゃないウォーター?⋯ライト⋯ダーク」
火は燃え移ったら危ないので被害が出なそうな魔法にする。
しかし何も起こらない。
魔力のようなものは出す事が出来たのだからここから何かが間違っているのだろう。
(あ⋯消えた⋯?)
揺らぎが存在したのは十数秒、そこにあった何かは風に吹かれるように霧散してしまった。
直後に感じる倦怠感、これが魔力を消費したという感覚なのだろうか。
(うわぁ⋯たった1回でこれは⋯色々検証しないとだなぁ)
怠さを感じながら横になっているとドアがノックされる。
返事をすると女将さんが食事を持ってきてくれたようでお礼を言いつつ受け取り感謝しながら頂いた。
食事を終えて食器の返却を済ませると完全に日が落ちて外はすっかり暗くなっていた。
(心なしか身体が軽い⋯吸血鬼だから夜になると何かあるのかな)
先程の実験で消耗した魔力もある程度回復している気がした。
この町では宿には風呂が無いのが当たり前なようで、どうしても入りたい場合や金銭に余裕があれば公衆浴場を利用するようだ。
そうでなければ宿で湯を貰い身体を拭くのが一般的らしい。
部屋の鍵をかけ窓も閉め身体を拭くために服を脱ぐ。
目線は胸元⋯大きくはないが膨らみがある。
さらに下⋯は見なくても無いのはわかる。
腕に手に足と確認するがやはり性別は女で確定なようだ。
「何でだろうなぁ⋯」
むにむにと控えめな胸を揉んでみるが特に感想は無い、自分の肉を掴んでいるだけだ。
確かに少年で保存したはず⋯なのに適用された身体は少女のもの。
あの時切り替えて見たアバターの通りなら顔もかなり可愛いはずだ。
「あ、あ、あー⋯、聞き込みの時も感じたけど声の違和感凄いなぁ⋯そのうち慣れるのかな」
身体を拭きながらふと脱いだ服に目をやる。
(服がこれしか無いのもまずいよなぁ⋯。宿の代金を確保出来たら予備の服も買うべきか⋯)
身体を拭き終え道具一式をお返しして部屋に戻り寝る準備をはじめる。
明かりを消して横になると光源が無いのにはっきり見えている事に気が付く。
(うわ⋯これが吸血鬼の見え方かぁ⋯これは暗い場所で便利かも)
瞼を閉じれば当たり前だが見えなくなり眠るのに問題は無さそうだった。
瞼閉じた暗い視界で脱力していると意識が徐々に落ちていく。
(明日はお金⋯と服⋯)
異世界初日は無事生き延びることが出来た。




