知らせ
休みを満喫した翌日、混み合うギルドの出入り口で多数の視線を感じながら中へ入る。
受付をしていたハンナさんがこちらへ気付き、少し驚きながらも笑顔で手を振ってくれる。
こちらも手を振り返し、近くの冒険者一同に頭を下げて買い取り側へ向かう。
そのやり取りを見ていたのか、向かった先では笑顔になったリーゼさんが迎えてくれた。
「いらっしゃい、私の天使ちゃん」
「おはようございます、リーゼさん」
「くぅ⋯あんな事言っておいて翌日から着てくれるなんて⋯心に刺さるわ⋯」
「あの⋯試着の時も見てもらいましたけど、どうでしょうか?」
「何度でも言うけど似合っているわ、私が貴女に選んだ服だもの」
「あはは⋯ありがとうございます」
「⋯何か、少し変わったわね」
「そうですか?どのあたりでしょう」
「何かこう⋯表現しにくいんだけど、落ち着いたと言うか⋯本来の姿になったというか。⋯保護した小動物が警戒しなくなって部屋で寛ぎ出した感じ?」
「⋯リーゼさんからするとボクは小動物だったんですね」
つい笑ってしまう。
「それで、今日は早くからどうしたの?」
「特に何も無いんですけど、強いて言うなら買ってもらった服を見せに来たというか⋯」
言い終えるよりも先にリーゼさんが深呼吸をする。
「ふぅ⋯危なかったわ、まさか2度も刺してくるなんて⋯」
「あの、1度目も刺した覚えはないですからね?」
「特に予定が無いなら、今から仕事始めちゃう?待機が長ければその分お金になるし、私は目の保養にもなるから大歓迎よ」
「んー⋯そうですね、戻るのも面倒ですし今日はここに居ますね」
「ならお茶を淹れてくるわね」
そう言い残しリーゼさんが席を離れたので看板を立てに向かうと、これから出かける冒険者のパーティーが手を振ってくれたのでこちらからも振り返した。
看板を立て治癒団子を用意して待ってみるも、いつもここが開かれるのは午後からなので知らされていない人が来ることはなく、お昼前に消費された団子は2つだけだった。
お昼に差し掛かるくらいの時間に、入口から普段は見かけない立派な鎧でいかにも騎士という格好の男性が入ってきた。
その男性は受付とは別の職員と何かを話し、手紙のような物を手渡していた。
帰り際にこちらを一瞥していたので軽く頭を下げたが、特に気にかけた様子もなく外へ出ていった。
「お待たせ、はいどうぞ」
(何だろう、この町では見たことのない格好だったな⋯)
戻ってきたリーゼさんからお茶を受け取ってゆったりとした時間を過ごす中、先程の騎士らしき人が少し気になっていた。
治療所が開かれる時間になるとお客はぽつぽつと増え始め、戻ってくる冒険者達で受付の方も賑わっていた。
何か変わった依頼でも出ているのか、掲示板周りはいつもより混み合っていていくつものパーティーが何か話し合う姿が見られた。
「何かあったんでしょうか?いつもと雰囲気が違いますね」
団子を追加しながらリーゼさんに聞いてみる。
「見ているのは掲示板のほうね、何か普段とは違った通達でもあったのかしら」
そんな話をしていると、書類の束を手にしたベスターさんがこちらへやってきた。
「おふたりともお疲れ様です。気にしているのは多分これの事でしょうね、どうぞご覧になってください」
「あ、ベスターさんお疲れ様です。これは⋯教会の印と⋯ギルドの本部?」
「あら、久々に出たのね」
「そうですね、この辺りでは何時ぶりでしょうか」
「あの⋯これって?」
冒頭から難しい言葉を並べて神託がどうのと書いてある紙。
それとは別に冒険者の招集、加えて物資を募る内容が書かれている書類を見比べるがいまいちピンと来ない。
「教会からは神敵、簡単に言うと討伐対象の通達よ」
「こちらは招集と物資集めですね」
「神敵⋯?」
ベスターさんが書類を指差し説明をしてくれる。
「教会のほうはいつも回りくどいので⋯真面目に読まなくても結構です。簡単に言うと神託で世界にとって悪性⋯敵だと認定された者の存在が告げられたという事ですね。今回は大型の魔物のようです」
次に本部からの書類へ目線が移り
「こちらは一定ランク以上の冒険者への招集と、貴族や各商会への物資の提供願いです」
「⋯⋯戦争みたいな物ですか?」
「領土や物を奪い合うわけではないので戦争とはまた別ですね。教会はこれを討滅戦と定義しています」
「討滅、ですか⋯」
「大げさだと思うけどね、教会って仰々しいのが好きだから」
聞くだけなら大変な事にしか聞こえなかったのだが、二人からはどこか余裕を感じる。
(それと、二人とも教会の事があまり好きじゃなさそうだなぁ⋯)
「まあ今回は単独なのでそこまで大規模にはならないと思いますが、近隣はしばらく落ち着かないでしょうね」
「そうなんですね、詳しく教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ、職員への周知は私の仕事ですから。戦いが始まれば当然負傷者が出ますし、普段よりも忙しくなる可能性が高いので頑張ってくださいね。では、私はこれで失礼します」
そう言うとベスターさんは書類を回収して戻っていった。
(神によるボス敵の出現告知に人と物資を集める通達⋯まるでレイドイベントみたいだ)
「リーゼさん、討滅戦っていつぐらいに何処で行われるんですか?」
「えーと⋯さっき見た感じだとここから森との中間くらいの場所とあったから、暫定的な拠点は町の前になりそうね。人と物資が集まるまで早くても数日⋯戦略によって日にちは前後するけど、当日は森の近くに布陣するんじゃないかしら」
「見た「ダメよ」⋯えぇ⋯」
予想されていたのか、言い切る前に被せられてしまう。
「何にでも興味を持つから言うと思ったわ。今回の規模は比較的小さいかもしれないけど神敵との戦いは危険なものよ、見に行くなんて絶対にダメ」
「防壁の上から見るとかでもダメですか?」
「ダメよ、どんな攻撃手段を持つかもわからないし味方の誤射の可能性だってあるわ。当日は絶対ここに居て」
「⋯ここに何か飛んでくる可能性は⋯」
「他の建物と構造が違うのは分かるでしょう?簡単には破壊されない強度があるし講習会でも見たと思うけど、有事の際はここの地下が避難所になるの。この町ではギルドの中が一番安全だからここに居て、決して見に行かないと約束してね?」
「⋯はぁい」
(でもなぁ、レイドボス⋯一目だけでも見てみたいな)
「不安だわ⋯終わるまで縛っておくべきか⋯おはようからおやすみまで見ているべきかしら」
「絶対にいきませんっ」




