思ってたのと違う
眠りから覚めるように意識が浮上して感じたのは暑くもなく寒くもない快適な気温と木々のざわめき。
深呼吸しながら身を捩り、身体を伸ばす。
「⋯うーん」
⋯?
「⋯え?」
今の声⋯は誰?
「誰⋯?」
発してるのはボクだ。
身体を起こして確認する。
最初に目に入ったのは見慣れない服と自分の手だ。
遅れてさらりと銀髪が顔にかかり思ったより長い事に驚く。
「ええと⋯」
やはりボクの声だ。
でもどう考えても思い描いた少年のような声じゃない。
何か姿を確認できる物をと見回すが草と木々程度しかなくそのような物は無い。
身体を調べる。
胸が少しだけ膨らんでいて股間にあるはずのモノの感覚が無い。
「⋯ええ!?なにこれ!?」
これは多分⋯女の身体だ。
「ステータス」
「システム」
「プロフィール」
「メニュー」
「スタート」
思いつく限り試してみるも異世界物でよくあるメニューやUIのような物は表示されない。
「なんだこれ⋯どうすれば⋯」
聞こえる独り言の声の可愛さに違和感を感じながら頭を抱える。
深呼吸をし大丈夫と強く念じる。
「身体に異常は⋯異常だけど危険はない⋯。とりあえず状況の確認をして安全の確保を」
物音をたてず見える範囲から調べていく。
生物のいた痕跡や匂い、そして気配は無し。
開けた場所から隠れられそうな木と岩の間に移動する。
「ふう⋯」
一先ず危険はないと言うことがわかり一息つく。
次は今出来ることの確認。
あるのは着ている服一式のみ。
「初期服しか無いんだけど⋯しかもスカートだし⋯気を付けないと足を怪我しそう。他のアイテムは何処?インベントリ⋯これもダメか」
魔法スキルを思い出しゲーム知識からいくつかキーワードを試すが何も反応せず一旦諦める。
(マップすらない⋯やばい⋯やばいぞこれは⋯。ここが何処でどのくらい広いのか、人が居そうな方向さえ全然わからない⋯)
ゲームなら開始地点が街だったり誰かと一緒というケースがほとんどだ。
しかし今回は完全に孤立している。
さらに自分の状態が確認できないのも痛い、性別が女なのは濃厚であるが。
「日光耐性が無かったらどうなってたんだ⋯」
天気は良好で日の光が当たって心地良いがこの身体は吸血鬼のはず。
スキル選択を間違えていたら目覚める前に灰になってた可能性を考えるとぞっとする。
(とにかく安全なうちにアレを出す手段を見つけないと、ステータスやスキルがあるのなら確認する手段はあるはず)
今度は心の中で思い浮かべる。
ステータス メニュー プロフィール スキル 設定 スタート システム
「おかしいな⋯メニューあたりで普通に出てくると思ったのに⋯。コンフィグ⋯うーん、ダメかぁ」
出てくる気配が全く無くげんなりしながら岩にもたれかかる。
数分くらいへこんでいると耳が何かの音を拾った。
「⋯声?」
聞き間違いかもしれないと注意しながら辺りを伺うと、やはり人の声が聞こえてきた。
少なくとも2人以上。
再び息を殺し隠れていると突然潜伏スキルの獲得通知が出てきた。
(やっぱりメニューみたいなのがあるのか!)
確認したいけど出し方がわからない。
とりあえずは後回しとし、今は人の気配に集中する。
「⋯からさ⋯⋯の⋯⋯ようぜ」
「また⋯⋯加減⋯⋯いよ」
「で⋯⋯らな⋯⋯うぞ」
最低でも3人⋯今のところ男が2人の女は1人。
距離は近くなっているが進む方向は若干ずれていてこの辺りを通過するだけのようだ。
声をかけるべきか悩む。
(この世界の事や彼らがどんな人達かわからないし⋯最悪襲われる可能性もあるから声をかけるのはやめておこう)
リスクもあると判断し距離を取りながら付いていくことにした。
聞き耳を立てながらしばらく付いていく。
微かに聞こえる会話の内容から彼らは俗に言うハンター的な存在のようで今日の獲物の話で盛り上がっていた。
視界に入らないようにこそこそと付いていく。
「⋯おい」
(見つかった!?)
一瞬身体が硬直し心拍数が跳ね上がる。
「⋯そこに罠があるから注意しろよ」
「あ?あー⋯わかってるって」
「どうだか、前に引っ掛けて危なかったでしょ」
どうやら違ったようで心の中で大きく息を吐いた。




